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「人生を踏み外した者たちが得体の知れない怪物と化す」重大犯罪事件の“現場”ルポ/『殺め家』書評

日刊SPA! / 2024年10月22日 15時48分

 “人の噂も七十五日”というように、口伝えで語られる噂話は75日もすれば忘れ去られるものであった。ましてや令和のSNS時代では加速度を増して噂は消費されてゆく。しかし殺人者が住んでいたという事実はその場所に深く刻まれ、建物や環境が風化しようとも、人々の記憶は朽ちることなくそこに残り続ける。

 私が住んでいた町にもこの本に収録されてもおかしくない事件があった。1974年(昭和49年)、神奈川県平塚市で起きた「ピアノ騒音殺人事件」である。音に対して極端に過敏だった男が、「団地の下の階から聞こえるピアノの音がうるさい」と母娘3人を刺殺した事件。近隣住民による騒音(生活音)が殺人を引き起こしたという身近な恐怖は、私がとてもここには書けない青春時代を過ごしていた時でさえも、この団地の前を通る時にはいつもアクセルを落としてしまうぐらいにいつまでも染み付いて消えなかった。本書を読みながら、ピアノ騒音殺人事件の犯人について、彼がどんな家に住んでいたのか気になって仕方がなかった。

 八木澤が事件取材を続ける理由について「もちろん生活の糧を得るためでもあるし、この本でも取り上げている、吉田有希ちゃん事件(栃木小1女児殺害事件)など、冤罪であると個人的に信じる事件が存在することにあったりする。さらには、事件を起こした犯人が生まれ育った背景というものに興味を覚えるのだ。犯人の背景を探るうえで、犯人の家に足を運ばないことには、取材は成立しない」と結ぶ。ニュース報道だけでは知り得なかった地道な後追い取材が、事件を風化させず、新たな犯罪抑止にも繫がると信じて、この1冊をお勧めする。

評者/柳下博幸
1967年、秋田県生まれ。吉見書店長田店スーパーバイザー兼、某アイスチェーン店長。よく読む本は文芸書からアンダーグラウンドまでジャンルレス。趣味はゴルフ・ラーメン・絵恋ちゃん。

―[書店員の書評]―

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