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給与未払いのまま、全従業員解雇…「中堅AVメーカー」が破産した理由

日刊SPA! / 2024年10月31日 8時53分

 なお、買収によってミュゼプラチナムの代表取締役会長に就任したのが上田智一氏でした。上田氏は船井電機の当時の代表。つまり、広告費が未払いであることは当然、船井電機も把握していたことになります。

◆仮差押え報道で株価は「1.6倍」に

 東京商工リサーチによると、サイバー・バズは2024年5月2日に船井電機を債務者として株式の仮差押命令申立を行い、東京地裁から決定の発令を受けています。船井電機はミュゼプラチナムの債務を保証することを目的とした「広告取引に関する合意書」を2023年4月に取り交わしていました。

 日本経済新聞は10月3日、サイバー・バズが9割超の船井電機株を差し押さえた模様だと報じました。これを受けてサイバー・バズ株は急騰。2日の終値は1060円で、3日はストップ高。4日は一時1660円をつけました。2日間で株価は1.6倍に跳ね上がったのです。

 それも束の間、船井電機は破産してしまいます。負債総額は461億円。全従業員2000人を解雇し、10月25日に支払われる予定だった給与も未払いだといいます。差押えによって回収できる見込みは限りなく低くなりました。

 サイバー・バズは船井電機の親会社である秀和システムやKOC・JAPANなどに対し、22億円の連帯保証債務履行を求める裁判も起こしています。2024年9月13日に東京地裁で第1回口頭弁論が開かれました。2024年3月に秀和などが主債務を保証したとしていますが、秀和は請求の棄却を求めています。
 
◆“ノルマを課さない”斬新なビジネスモデル

 ミュゼプラチナムは、数奇な運命を辿った会社として知られています。

 革新的だったのはそのビジネスモデル。ミュゼが登場する前の美容業界はエステティシャンに厳しいノルマが課されていました。しかし、ミュゼはノルマや無理な勧誘をしないという決断をします。さらに返金対応を行うという、常識破りの仕組みを導入しました。

 これによってスタッフは施術に専念でき、利用者は安心して契約ができます。しかし、このモデルを成立させるためには、大量の広告を投下して利用者を集め続けなければなりません。

 ミュゼは2010年ごろにトリンドル玲奈さんをメインキャラクターとし、大々的な広告キャンペーンを行って知名度を高めました。

◆「経営破綻寸前」から買収・売却のループに

 ところが人気化したゆえ、トラブルも頻発します。やけどなどの苦情が相次ぐようになるのです。2015年に経営破綻寸前だとのニュースが飛び交うようになると解約件数が増加。その年の10月に任意整理の協議に入ったことを当時の運営会社社長が明らかにしました。過大な広告費が経営の誤りであったと振り返っています。

 2016年1月に医療機関向けソフトウェアなどを提供するRVHがミュゼを買収しました。しかし、2020年2月に早くも売却を決めています。やはり継続的な広告投資がかかることを懸念しての譲渡の決定でした。買収したのはG.Pホールディング。この会社の筆頭株主は「たかの友梨ビューティ―クリニック」で有名な美容研究家の高野友梨氏でした。

 それから3年後に船井電機へと売却され、今回の騒動となりました。

 今後の行く末は、秀和システムやKOC・JAPANが、サイバー・バズが求める支払いに応じるかどうかが一つのポイントとなるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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