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薬、iPhone、財布…“チェックリストの刺青”を腕に刻んだ女性の半生。薬を飲み忘れ「やらかした」事件を経て

日刊SPA! / 2024年11月17日 8時54分

「ふたたびの別居をしたあたりから、父の様子がおかしくなり始めました。なぜか家族に対して私がコカインをやっているという内容のLINEを送りつけて、家族全体が動揺したことがありました。もちろん、そうした事実はありません。

 また、祖母が亡くなったときの遺品整理の際には、父の愛人が勝手に部屋に入ってブランド物をごっそり持っていってしまったことがありました。その話し合いのときに、父が『家族よりも愛人のほうが大切』と言い放ったこともあり、現在は絶縁しています」

◆「障害者のふりをして…」という批判も

 精神疾患を抱えながら、現在はラッパーという言葉の世界で勝負をする百合さん。以前、自らの障害者手帳の顔写真がやや炎上したことを振り返って、こう話す。

「障害者手帳に貼られた顔写真がラップバトルなどに出場するときの写真だったため、『不謹慎だ』『ふざけているのか』というお叱りの言葉を多数いただきました。私はふざけてこうした写真を手帳用に選んだのではないんです。障害者のなかには、写真を撮るための閉所が苦手だったり、あるいはカメラそのものが苦手という人もいます。私もその一人です。個人によって事情は違うので、そのあたりを理解してもらえるようになるといいなと感じました」

 社会全体として、弱者に厳しい昨今の現状を百合さんはこうみる。

「SNSなどで『障害者のふりをして公金を貪っている』という批判が目に付くのですが、それは障害者手帳を取得するのにかかる手間などを理解していないと思います。実際に取得した私の経験からいえば、本当は働けるけど楽だから障害者に擬態する人など皆無だと思えるほど、煩雑な作業です。また、申請から交付までも長い。世間は簡単にエセ障害者を作り上げるけれど、実際にそんなことをしている人はほとんどいないと思いますね。むしろ、みんなわかってもらえない孤独のなかで苦しんでいると思います」

◆「楽しく生きていきたい」からこそ

 精神障害の当事者として、百合さんにはこんな思いがある。

「恥ずかしかったり、惨めだなと思う気持ちは理解できなくないのですが、社会のセーフティネットってとてもありがたくて。私もいろいろ将来のことを考える場面があるのですが、あまり壮大な夢を描かず、でもその場その場で自分の病気を乗りこなしながら、できれば楽しく生きていきたいと思っているんです。そのとき、やはり社会保障があるから安心して生きていける。世間の目とか圧力に臆することなく、自らの病気と長く付き合うために時間を使えばいいのではないかと考えています」

 血こそ繋がっているが心の繋がりを感じられない父親との数奇な共通点。自らの性質に悩み、慟哭したこともあっただろう。ままならない状況のなかで、百合さんは乱高下する自らの好不調に沿うようにライフスタイルを変え、摩擦の少ない人生を選んだ。ラッパーとして、言葉を紡ぎ続けること。誰からも理解されない、人の目が気になって言えない人だけが持つ言葉の底力を信じているからこそ、彼女だけのリリックが光り輝く。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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