上白石萌歌の「洋楽好き」投稿に群がる“サブカル中年”…褒め言葉のウラに隠れている心理の正体
日刊SPA! / 2025年1月23日 8時52分
いずれにせよ、ただ趣味を公言する行為ひとつ取っても、そこには複雑な社交の技術が展開されているのです。にもかかわらず、今回見られた反応の大半は、“20代の女の子なのにエラい”という感想に集約されていました。
これでは、年長者としてはあまりにも貧相だと言わざるを得ません。
◆音楽の趣味が人格を映す?錯覚の危うさ
もうひとつサブカル中年が犯しているミスは、趣味に人格を重ね合わせていることです。それまでは彼女に興味がなかったのに、特定の音楽が好きなだけで好感度が「爆上がり」してしまうという単純さ。自分が価値を認めるものと同じものを好きでいるのならば、人格的にも間違いがないだろうという、極めて独善的な論理が働いているのですね。
しかしながら、良い音楽や芸術作品が好きであることと人格の良し悪しにはなんの関係もありません。批評家のハロルド・ブルームはこう書いています。<ホメロス、ダンテ、シェイクスピア、トルストイといった最高の作家を読んだからといって、私達がより良き市民になれるわけではない。何事においても正しかった偉大なオスカー・ワイルドが言うように、芸術とは完全に役に立たないもの>(『THE WESTERN CANON』 Riverhead Books pp.16-17)なのです。
にもかかわらず、そこに必要以上の価値や情報が込められていると思い込んで、人格に投影してしまう。上白石萌歌に限らず、有名人やタレントがマニアックな趣味を持っていると明かしたときのいやらしい興奮の正体は、この錯覚について無自覚だということなのだと思います。
◆この関係で主導権を握っているのは…
同時に、この錯覚によって上白石萌歌とサブカル中年との間でシグナリングが発生していることも指摘しておくべきなのでしょう。一見豊富な知識によってマウントを取っているかに見えるサブカル中年が、実は情報劣位者なのです。手札を持っていて、主導権を握って小出しにほのめかせるのは、常に上白石萌歌。
この絶対的な関係性に気付けない愚かさも、サブカル中年の悲しさか。
このように、満を持してSNSに登場した上白石萌歌は、図らずもクリティカルな存在となったのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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