「お前なんか最低だ。金を失った。お前の家族も…」スポーツ賭博で攻撃的になるファン 米記者が現状警告

ダイヤモンドバックスのクローザー、ポール・シーウォルド（AP）

　USAトゥデー紙のボブ・ナイチンゲール記者がギャンブルによって、選手の身が危険にさらされている現状について、9日（日本時間10日）に詳しく報じている。

　ダイヤモンドバックスのクローザー、ポール・シーウォルドは「セーブに失敗してしまうと、“お前なんか最低だ、お金を失った、死ね。お前の家族も死ね”と。以前は、チームの試合を台無しにしたとファンが怒っていただけだったが、今ではギャンブル。これらの人々は自分の賭けにしか興味がない。そして、彼らが失っているのは、自分たちが持っていないお金の話だからとても恐ろしい」と打ち明ける。同僚のローガン・アレン投手は「以前、家まで追いかけられたのを覚えている。家までついてきて、罵り、私のせいで多額のお金を失ったと言ってきた。怖かった」と言う。

　選手組合は、最高裁判所の決定により、スポーツイベントへの賭けが38州で合法化され、球場の外にスポーツベッティングサイトが設置されることが可能になった後、選手の安全に対する懸念を公に表明し始め、球団にファンの攻撃的な行動を抑制するための対応を求めた。だが守られているとは言えない。

　「ひどい内容のDM（ダイレクトメッセージ）をたくさんもらうよ」とジャイアンツのローガン・ウェブ投手。「私の初年度（19年）には、そんなにギャンブルは行われていなかった。お前なんか最低だ、チームにいるべきじゃない、それだけだった。今では、お前のせいでお金を失ったと言われる。本当にひどいことを言ってくる」と明かす。

　ダイヤモンドバックスのクリスチャン・ウォーカー一塁手は「最近は試合前だけでなく、試合の進行中も携帯電話を持ち出してリアルタイムで小さな賭けを続けている。ここで二塁打を打ってくれとか言ってくる。私のDMを見せることもできる。お金を失ったとか、ひどいことを言ってくるメッセージでいっぱいだ。それが今のプロスポーツの一部。そうあるべきではないが、それが現実だ」と窮状を訴える。ジャイアンツのマット・チャプマン三塁手は「ファンがVenmo（モバイル決済アプリ）でお金を要求してくることさえある」と言う。

　24歳のギャンブラー、ベンジャミン・タッカー・パッツは、19年にレイズが敗れた後、レイズの4人の選手とホワイトソックスの1人の選手に一連のソーシャルメディアメッセージを送ったことで、21年に有罪となった。以下は恐ろしいメッセージの一部だ。「お前の首を切り裂いてやる」、「家族全員を殺してやる」、「お前が愛するすべての人々はすぐに消え去る」、「生きたまま解体してやる」。パッツはブレーブス、パドレス、アスレチックス、ガーディアンズ、オリオールズ、ロイヤルズ、ブルージェイズの選手にも脅迫状を送った。にもかかわらず彼の処罰は3年間の保護観察と6か月の自宅拘禁のみ、1日も刑務所に入らなかった。

　ナイチンゲール記者はパッツの異常な行動が特別な例と決めつけるのは、他の選手が野球に賭けていないと信じること、球団の従業員がギャンブラーにラインアップや選手の健康情報を提供していないと信じることと同じだと言う。そして選手だけでなく、ゲームの高潔性に対する危機が迫っているにもかかわらず、MLBは賭けサイトの宣伝を続けていると批判する。ダイヤモンドバックスのシーウォルドも「イニング間のコマーシャルでギャンブルのコマーシャルを見ないことはない。FanDuel、DraftKings、MGM、Caesarsらだ。これだけ大々的に宣伝しておいて、選手がギャンブルをしているかどうかわからないと言うのか？」とあきれる。

　MLBは先週、トゥクピタ・マルカノ内野手を野球に賭けたとして永久追放にし、他の4人の選手を1年間の出場停止処分にした。シーウォルドは「微妙なところだ。私たちのスポーツに賭ける人が多いほど、多くの人が見てくれる。多くの人が見るほど、私たち野球界が潤うのだろう…。しかしながらギャンブルは中毒にもなるために非常に危険。人々は攻撃的になる。そして、ギャンブルがこれほど簡単になったことも以前はなかった。違法なブックメーカーのものでも、怪しいものでもない。誰でも自分の携帯電話で簡単に、好きなだけ賭けられる」。

　ナイチンゲール記者は野球とギャンブルの関係を止めるのは手遅れだと指摘する。ギャンブルはオーナーにとってあまりにも収益性が高いため、ギャンブルサイトからのプロモーション、スポンサーシップ、広告をすべて停止することはできない。それでも、プロモーションや広告を減らさない限り、ファンの嫌がらせ、脅迫、威嚇も止まらない。そしてギャンブルのスキャンダルが野球の一部になってしまうと強く警告している。