1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. 野球

【100歳 甲子園球場物語】大正から昭和初期の「阪神間モダニズム」が波及した「甲子園モダニズム」

スポニチアネックス / 2024年6月18日 7時2分

甲子園球場貴賓室の談話室。暖炉とレリーフが見える=阪神電気鉄道提供=

 甲子園球場にはかつて貴賓室があった。開場6年目の1929(昭和4)年に新設され、皇族や要人をもてなした。翌30年、武庫川河畔で開業した「西の迎賓館」甲子園ホテルを設計した有名建築家・遠藤新のデザインだと伝わる。大正~昭和初期、大阪~神戸間で花開いた「阪神間モダニズム」のなかの「甲子園モダニズム」だった。 (編集委員・内田 雅也)

 平成の大改修(2007年着工)より前、甲子園球場4号門は「開かずの扉」「幻の門」と呼ばれていた。貴賓室に通じる門だった。リニューアル工事前に入ったことがある。

 中は時間が止まったかのような空間が広がっていた。天井にはシャンデリアが下がっていた。階段を上り、2階の重厚な扉を開けると談話室。壁にはレリーフが掛かり、暖炉が備えられていた。この先が観覧席で一塁側内野スタンド中段からグラウンドが見渡せた。

 1929(昭和4)年に新設された。同年7月にはアルプススタンドが建設されている。24年の球場完成から6年目の改装だった。

 洋式建築のなかに和の要素を取り込んでいたデザイン。談話室のレリーフはアール・デコ調の幾何学模様の彫刻が施されていた。設計は建築家、遠藤新ではないかとされる。

 阪神電鉄本社レジャー事業部時代、リニューアル担当だった阪神球団社長・粟井一夫は「証拠はありませんが、遠藤新氏の設計が有力な説としてあります」と話している。

 遠藤は「近代建築の三大巨匠」の一人、米国人建築家、フランク・ロイド・ライトの愛弟子だった。東京・帝国ホテル新館の設計をロイドから引き継いで完成させている。

 関西にもゆかりがあり、芦屋でライトが設計した山邑邸(現ヨドコウ迎賓館)を担当している。甲子園球場ができた24年のことだ。

阪神電鉄は甲子園のリゾート開発で甲子園浜にホテル建設を計画。28(昭和3)年、当時の社長・島徳蔵が元帝国ホテル常務の林愛作を支配人に招いた。林が設計を依頼したのが旧知の遠藤だった。

 林が建設地に選んだのは海辺でなく、甲子園球場から旧枝川、今の甲子園筋を北へ2キロの武庫川河畔だった。かつての支流・枝川と分岐する地点である。

 30年、甲子園ホテルとして開業した。「東の帝国ホテル、西の甲子園ホテル」と併称された。『阪神間モダニズム』(淡交社)によると<大阪には本格的なホテルはなかった。その結果、甲子園ホテルは、リゾートホテルの顔と同時に、大阪の迎賓館としての顔も兼ね備える>。大阪から車で向かうと、武庫川にモダンな武庫大橋がかかっている。武庫川女子大生活環境学部教授の三宅正弘が著した『甲子園ホテル物語』(東方出版)によると、遠藤は<川沿いの松に配慮して高さを低く抑え、瓦も松と同じ緑色で焼かせている>

 最初のVIPは高松宮ご夫妻で欧州歴訪の際にご宿泊。関西を訪れる国内外の要人が滞在した。皇族や軍上層部の利用も多かった。

 34年に来日したベーブ・ルース率いる大リーグ選抜チームも宿泊した。甲子園球場で行われた全日本チームとの第13戦(11月24日)の前後だろう。当時のベーカーチーフの自宅からサインボールが見つかった。ルースや監督コニー・マックら7人の名前が読める。

 タイガースは36年3月25日、球団結成披露宴を開いた。招待客約200人を前に球団歌「大阪(現阪神)タイガースの歌」(通称・六甲おろし)を披露、レコードが配られた。

 <甲子園ホテルにはたくさんの野球好きがいた>と先の『甲子園ホテル物語』にある。ユニホームが作られ、胸にはホテルのシンボル「打ち出の小づち」と「KH」の文字が縫われた。フランス料理人、菓子職人らが休憩時に野球を楽しんだ。<ハイカラでモダンを追った料理人や菓子職人、ホテルマンたちにとって、野球も同じようにカッコイイものだったのだろう><ホテルは憧れの場であったが、また野球も憧れのスポーツだった>

 「阪神間モダニズム」は、大正期から昭和初期にかけて、大阪―神戸間で育まれた、近代的な芸術、文化、生活様式を言う。当時の甲子園球場や甲子園ホテルは「甲子園モダニズム」と呼ぶべき場所だったと言える。

 甲子園ホテルは戦時中44年、海軍病院に転用され、戦後は進駐軍の将校宿舎となった。接収解除後は大蔵省管理下となり、65年、武庫川学院が払い下げを受けた。武庫川女子大甲子園会館として今もある。建物に遮られ、球場は見えないが、時に歓声が風に乗って聞こえてくるそうだ。

 貴賓室は大改修で取り壊す際、多くの備品の保存に努めた。シャンデリアは甲子園歴史館受付に移設。ロイヤルスイート玄関には暖炉と復元再生したレリーフが飾られ、中央の部屋を関係者は郷愁をこめ、俗に「貴賓室」と呼んでいる。 =敬称略= 

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください