【内田雅也の追球】キューバの確実性・積極性
スポニチアネックス / 2024年6月24日 8時3分
テレビで観たその試合をよく覚えている。高校3年の2学期、受験勉強はさておいた。1980(昭和55)年9月4日、木曜のナイターだが、後楽園球場は5万の大観衆で埋まった。アマチュア野球世界選手権のキューバ―日本戦である。
キューバは「カリブの赤い稲妻」と呼ばれ、当時世界最強。日本は優勝をかけて挑んでいた。0―0の7回表先頭、3番手・竹本由紀夫(新日鉄室蘭)の投げた初球、内角高め速球を左打者のアントニオ・ムニョスに右翼席中段まで運ばれた。この1点に泣いた。
石毛宏典、金森栄治(ともにプリンスホテル)、武居邦生(日本楽器)、原辰徳(東海大)らの打線は快速球右腕、ブラウディリオ・ビネンの前に4安打、三塁も踏めずに完封を喫した。
ちなみに、ビネンについては東芝府中時代の78年、世界選手権(イタリア)で対戦した落合博満が自身のYouTubeチャンネルで「あんな速いボール見たことなかった。優に160キロは超えてた」と語っている。
当時、国際野球連盟の要職にあり、キューバ通の山本英一郎が語っていた。「キューバのフリーバッティングを見ていますと、打撃ケージから出ない打球はないんですよ。すべて90度のフェアグラウンドに飛ぶ。見事なものです」。確実性の高さである。
ほとんど同じ話、いや正反対の話をこの日、阪神監督・岡田彰布から聞いた。雨天中止が決まる前、甲子園室内練習場。後方や、一、三塁線の外側にある防球ネットが打球が当たり揺れていた。「フリーバッティングで(打球が)前に飛ばんというのはなあ」
前回監督当時も石井琢朗(当時横浜、現DeNAコーチ)が手本になると選手に言った。「見てみ、あのフリーバッティング、全部ライナーで、1球もファウルチップもなしや。ケージから出ない打球なんてないやろ」。通算2432安打、確実性に優れていた。
キューバの打者の心構え、姿勢もある。「ストライクゾーンは家の玄関。大事な家族を守るために、侵入者は絶対に通してはならない」。大昭和北海道時代の74年、キューバ遠征した我喜屋優(現興南高監督)が著書『逆境を生き抜く力』(WAVE出版)に記していた。積極性である。
確実性に積極性。今の阪神打者が目指す打撃である。 =敬称略= (編集委員)
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