【内田雅也の追球】「普通に」戦うことの意味 今の阪神は謙虚に、地道に幸運を引き寄せている
スポニチアネックス / 2024年7月11日 8時2分
◇セ・リーグ 阪神4ー1ヤクルト(2024年7月10日 甲子園)
何か、昨年のような状況になってきた。優勝した昨年、特にオールスター以降、阪神監督・岡田彰布はよく「こっちは普通にやっているだけ。相手が勝手に転んでくれる」と話していた。
会見後、通路を歩く岡田に水を向けると「そうやなあ。相手がなあ」と言った後、言い直した。「こっちがちゃんとしていれば、いいんよ。相手より自分よ」。それが相手のミス、つまり幸運を呼ぶ考え方なのだろう。
この夜は1点を追う4回裏1死一塁、佐藤輝明の二ゴロは併殺コースだったが、二塁手がお手玉して一塁送球、2死二塁が残った。プロ初先発に抜てきされた野口恭佑が中前打して同点に追いついた。5回裏も小幡竜平の二塁打(中堅手後逸)から1死三塁とし暴投で勝ち越し点を拾った。
振り返ると、7日のDeNA戦は相手の4失策を得点に絡めた。9回裏は1点ビハインドの2死満塁、原口文仁右前打でライトゴロを狙った送球がそれて逆転サヨナラ勝ちした。前夜(9日)は四球や三ゴロ失の2死満塁から近本光司が右前に逆転サヨナラ打した。
3試合続けてミスで相手が転んでくれている。それは岡田が言うように自分たちが「普通に」できているからだ。
佐藤輝の三遊間ゴロ好捕による併殺(4回表)があった。佐藤輝は6回裏1死一、三塁、一塁走者として遊ゴロで二塁封殺されたが、力走で間一髪だった。リクエストしてリプレー検証するほどだった。全力疾走は「当たり前のことを当たり前にやる」の基本である。
試合終盤の守備固めもズバリだった。7回表に代走から右翼に入った島田海吏、8回表に左翼に入った植田海はともにライン際ライナー性飛球を好捕した。昔から言う「代わった所に打球が飛ぶ」だった。美技に見えるが、好守の彼らには「普通」なのだろう。
幸運について哲学者・評論家の渡部昇一が『一日一言~知を磨き、運命を高める』(致知出版社)に書いている。<何かうまくいったら、自分の力だと思いたいところをそう思わない。反対に、まずいことが起こったら、人のせいとか運のせいにしないで、どうすればそれを避けえたかと考えるのが幸運に至る王道である。そういう発想のできる人が器量の大きい人なのだ>。
今の阪神である。謙虚に、地道に幸運を引き寄せている。 =敬称略=
(編集委員)
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