新映像も効いて三木助「紺屋高尾」に染まった!
スポニチアネックス / 2024年7月16日 18時19分
【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】身分違いの恋が成就するおなじみの郭噺(くるわばなし)が、新映像が伏線となっていっそう味わいを深めた。7月11日、東京都千代田区の内幸町ホールで開いた独演会「五代目の挑戦vol.11」で桂三木助(40)が披露した「紺屋高尾」の一席だ。
神田紺屋町の染物屋の奉公人・久蔵が、友人に連れられて出かけた吉原で花魁道中を見学し、高尾太夫に一目ぼれ。しかし、自分のような奉公人では相手にされないと聞かされて寝込んでしまう。いわゆる恋煩(わずら)いというやつだ。
事情を知った親方の助言で、久蔵は3年間寝食も忘れて大金(三木助は18両でやっていた)を貯める。そして事情をのみこんだ遊び人の医者に連れられ、商家の若旦那に扮して吉原を訪れる。念願の太夫と引き合うことが出来た久蔵だが、「次はいつ会える?」と問われ、つい本当のことを涙ながらに告白して…。
ほとんど同内容の噺に「幾代餅」があるが、ともに良く出来た話だ。浪曲の世界でも有名で大正時代には大変な人気を呼んだという。1927年、28年、35年、52年と4度にわたって映画化もされ、佐々木康監督の52年版は花菱アチャコが主演している。
実は5分に1度くらいのペースで咳(せ)き込む男性客がいて、少々気になっていたが、久蔵が高尾太夫に本当のことを話すクライマックスに近づくにつれて、その客の咳きもピタリ止み、会場は水を打ったような静けさ。会場全体が噺の世界に引きずり込まれていった。
三木助の独演会と言えば、落語の演目を散りばめたオープニング映像が評判。前回3月21日の会で、「次回は新バージョンを登場させます」と予告していた通り、新映像がベールを脱いだ。
これが圧巻。歴史CG作家の中村宣夫氏が手掛けた「吉原の世界」がリアルにスクリーンに映し出された。中村氏は、「遊郭編」「刀鍛冶の里編」など、人気アニメ「鬼滅の刃」にも映像を提供する大家。「吉原大門」「引付座敷」「花魁床入り三つ布団」などを3Dで再現し、そのクオリティーの高さに舌を巻いてタイムスリップした気分になった。
「花魁 植え込み桜」の映像には工夫が施されていた。まず赤い衣装を身につけた花魁が桜を眺める映像が映し出され、その後、赤から紺色に染められた衣装を身につけた花魁が登場。これが三木助版「紺屋高尾」の伏線となった。
一席を終えた三木助は、再び冒頭映像から抽出した数コマをスクリーンに映し出した上で「男の側から描かれた噺ですが、年季が明けて久蔵に嫁いでいく日の前日、高尾太夫はいったいどんな気持ちで植え込み桜を眺めていたんだろう。そんな思いを込めて作ってもらった映像です」と解説を加えながら、「太夫がどんなことを思っていたかを想像してみて下さい」と観客に問いかけた。
身売りされて苦界に身を沈めた女たちの中には心を病んだり、自ら命を絶つ者も少なくなかったそうだ。そんな吉原で太夫まで上り詰めるのは並大抵のことではない。花魁候補の女性は教養や芸事を仕込まれ、一般庶民には手が出せないものであったという。落語のヒロイン、高尾太夫にもいろいろな思いが駆け巡ったに違いない。三木助の問いかけで、違った色合いが浮き出た「紺屋高尾」の一席であった。
中には「落語は噺だけで完結させるべき」と主張する人もいるに違いない。それを否定つもりもないが、落語という伝統話芸を枯らさないためにも古典落語を現代風にアレンジしたり、映像を活用したりの工夫を凝らす取り組みは必要と思う。
三遊亭円朝作の「牡丹灯籠」をかける時にはまずパネルを活用して複雑な登場人物の相関図を作り、説明する立川志の輔(70)もいる。今年6月12日に76歳で亡くなった桂ざこば師は「子別れ」を演じるのに「今の人は分からないだろうから」と本物の鎹(かすがい)を高座に持参したこともあった。三木助の映像を駆使した取り組みには今後も期待していきたい。
11回目を数えた五代目の挑戦。アイドル顔した金原亭杏寿(35)がまず沖縄版「金明竹」ともいえる「琉球竹」を演じたが、改めて琉球言葉の難解さを実感。三木助の一席目の「だくだく」も結構な出来だった。休憩中も3月26日から5月16日まで東京芸術大学大学美術館で開催された「大吉原展」で使用された約7分の映像が流され、「紺屋高尾」への期待感をあおった。
中入り後に登場したお笑いコンビ「米粒写経」の熱演に大笑いしたのは覚えているが、再び登場したトリの三木助熱演の印象が強すぎて、どんな内容だったかは思い出せない。次回の独演会は10月30日予定で、どんな噺をどんな形で聞かせてくれるのか楽しみだ。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
落語家の林家木久扇さんに聴く 東京大空襲、食品工場の工員、漫画家の書生、お化け、笑点、ラーメン、駆け続ける「いやんばか~ん」人生
PR TIMES / 2024年7月16日 1時40分
-
笑う門には福来る!抱腹絶倒の落語会開催決定!
PR TIMES / 2024年7月1日 17時45分
-
落語動画サブスク「ぴあ落語ざんまい」6月の新着ラインアップ 第2弾
PR TIMES / 2024年6月24日 18時45分
-
追悼・桂ざこばさん 「同じ演目」でも「同じ噺」はない“ざこば落語”の真骨頂(本多正識)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年6月22日 9時26分
-
落語動画サブスク「ぴあ落語ざんまい」6月の新着ラインアップ
PR TIMES / 2024年6月18日 23時40分
ランキング
-
1川越達也シェフ 51歳の近影にネット騒然!「お痩せになった?」「イケメン」「お元気そうで」
スポーツ報知 / 2024年7月15日 18時49分
-
2【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月16日 9時26分
-
3《30年前のブーム再燃なるか》令和の今夏、『南くん』が復活した事情と男女逆転版ドラマとなった背景
NEWSポストセブン / 2024年7月16日 7時15分
-
4武井壮「数倍の速度で仕上がるけど…」 筋肉増強目的のステロイド使用に呼びかけ!「絶対にダメ!」
スポニチアネックス / 2024年7月15日 22時11分
-
5粗品を「闘う芸人」と“最強格闘家”が大絶賛 陣内智則vs永野の例も…「芸人の泥仕合い」が笑えない状況に
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月16日 9時26分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)