近代五種パリ五輪男子代表・佐藤大宗 病床にある父の思いも背負い「死ぬ気で戦うのみ」
スポニチアネックス / 2024年7月17日 7時2分
【オリンピアンロードの歩き方】五輪を目指すアスリートや関係者を取り上げるコラムの今回は、近代五種でパリ五輪男子代表の佐藤大宗(たいしゅう、30=自衛隊、写真)。高校卒業後に海上自衛隊へ入隊してから12年。覚悟を胸に、同種目で日本勢初のメダル獲得を目指す。
アスリートの家族や親族がパリまで応援に駆けつけることが多いと思うが、近代五種の佐藤は違う。妻・梢さん(33)や2歳の長女、生後9カ月の長男らが現地に来ることを固辞した。「競技に全集中したかったので。断りました」。5年前に結婚。「妻の作る卵焼きが大好き」と日頃のサポートに感謝は尽きないが、初の大舞台には一人で乗り込むと決めた。
ただ、周囲の思いは背負っている。夫人だけではない。父・勇蔵さん(70)の言葉も胸に秘める。「小さい頃から、父親に“やるんだったら、死ぬ気でやれ”と言われてきた。それをモットーに競技を続けている」。ずっと厳しかった。礼儀には特にうるさく、小学生の時には雪が降りしきる中、半袖短パン姿で家から追い出されたこともあったという。
「生まれ変わったら絶対にこの家に生まれたくない」「高校生になったら仕返ししてやろう」――。そう思い続けてきたが、海上自衛隊に入隊して近代五種を始めてから、苦しいときは父の姿を思い浮かべるようになった。「忘れたくても忘れられない存在。ここで逃げたらおやじに負けたことになる」――。東京五輪代表を逃し、一度は引退を決意した。その時に「体がボロボロになるまでやってみろ」と引き留めてくれたのも父だった。
そんな勇蔵さんは今、青森県内の病院で闘病生活を送っている。今年6月、佐藤は地元に帰省してパリ五輪代表に決まったことを報告した。面会できるのは30分間だけ。大きかった背中は小さくなった。「五輪に出るだけでも凄いよ」。にこにこ笑いながら褒めてくれた父に対して頭を振った。
「何言ってんだよ。ここからだよ。俺も頑張るから、おやじも一緒に頑張ろう」
昨年5月のW杯で2位に入り、W杯個人種目の日本勢初メダルに輝いた。今年6月の世界選手権(中国・鄭州)では9位。パリでは日本勢初の表彰台を目指す。もちろん覚悟は決まっている。「死ぬ気で戦うのみ、です」。次は首からメダルを下げ、父の待つ病室を訪れるつもりだ。
◇佐藤 大宗(さとう・たいしゅう)1993年(平5)10月20日生まれ、青森県出身の30歳。中学と高校は水泳に打ち込み、青森山田高卒業後に海上自衛隊に入隊し、近代五種の選手としてスカウトされる。23年W杯ソフィア大会2位。大会で頑張った日のご褒美は「大食い系のYouTubeを見ながらお酒を飲むこと」。身長1メートル74、62キロ。
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