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【高校野球】神港学園・前田凌「一緒に戦うぞ」 天国の弟とともに甲子園を目指した夏

スポニチアネックス / 2024年7月22日 20時20分

弟・真吾さんの「真」の字をツバに書き込んだ帽子を持つ神港学園・前田凌志

 ◇第106回全国高校野球兵庫大会5回戦 神港学園4ー7神戸国際大付(2024年7月22日 明石トーカロ)

 天国の弟とともに目指した甲子園には手が届かなかった。2003年以来の夏の聖地を目指した神港学園は、5回戦で強豪・神戸国際大付の前に涙をのんだ。背番号1を背負った前田凌志(3年)は、ツバに大きく「真」と書き込んだ帽子とともに、敗戦の瞬間を迎えた。

 昨年11月、前田凌のもとに悲報が届いた。闘病中だった3歳下の弟・真吾さんが、肝臓がんのため亡くなったという知らせだった。

 「(弟は)自由人というか、やんちゃっぽくて…あとキレイ好きでしたね。よくケンカもしましたけど…あとから親に聞いたら、ずっと自分のマネをして野球を続けてきていたみたいです」

 真吾さんの病気が発覚したのは、前田凌が高校に入学する直前だった。兄の背中を追うように、同じチームで小学生から野球を始めた弟。ポジションは捕手で、ときに兄弟でキャッチボールをすることもあった。中学入学後も、兄と同じ硬式野球チームに入団する…はずだった。だが突如として、目の前に続いていたはずの道は途絶えた。

 1年前の夏。闘病中の弟が病室から試合を動画視聴していると思い込んでいた兄は、グラウンド内で意図的に派手なガッツポーズなどを繰り出した。弟に向けて、存在を示すためだった。だが、実は真吾さんは外出許可を取って、スタンドから見守ってくれていた。

 「自分が投げた試合は見に来てくれていたみたいです。見に来ているというのは、(当時は)知りませんでした」

 ただ病状の進行もあり、秋以降は試合を見に来ることができなかった。「親からも(自分が)気負っても良くないということで(弟の病状などは)あまり教えてもらってなかったです」と前田凌。そして、別れのときは訪れた。

 受け入れがたい現実に直面。それでも悲しみを胸に秘め、神港学園の投手リーダーは前を向いた。「自分が野球をやれているのも、周りの人に支えてもらっているから。弟の分もしっかり頑張って、自分ができることは、全力を出し切ってやりたい。そう(弟と一緒に甲子園に行きたい)ですね」。長い冬を乗り越え、鍛錬の春をへて、最後の夏にたどり着いた。

 迎えた6日の初戦・北条戦の前夜だった。前田凌は、おもむろにペンを手に取った。そして帽子のツバに大きく、「真」と書き込んだ。マウンド上で常に弟の存在を感じられるように――。「弟と戦いたかった。一緒にマウンドに立とうと」

 初戦から“2人”でマウンドに立った。北条戦。4点リードの8回攻撃中、三塁側ブルペンで肩をつくっていた前田凌に「次、いくぞ」と声がかかった。その瞬間、帽子を見てつぶやいた。「一緒に戦うぞ」。“弟”に語りかけ、ともにマウンドに向かった。スリークオーター気味の躍動感あふれるフォームから球威抜群のボールを投げ込み、1回無安打無失点、2奪三振。試合を締め、勝利の喜びを分かち合った。今大会は2試合に登板し、2回無失点とチームの勝利に貢献してきた。

 今夏も、真吾さんは一番近くから前田凌を見守ってくれていた。目標に向かって2人でともに進み、全力を尽くした。前田兄弟の熱い夏が、幕を閉じた。

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