【内田雅也の追球】記念日飾る好勝負を
スポニチアネックス / 2024年8月1日 8時1分
◇セ・リーグ 阪神9―6巨人(2024年7月31日 甲子園)
後味の悪さが残る伝統の一戦だった。
7回裏2死二、三塁。打者は打撃好調の森下翔太。4点差があり、一塁が空いている。一つの嫌な予感を抱いて見守ると、やはり初球に来た。
巨人3番手の右投手(平内龍太)が投げたのは顔面近くを通るブラッシュボールだった。森下は後方にのけぞり倒れた。起き上がり、投手をにらみつけた。場内は騒然となった。2球目もまた顔面近くに来た。その後のことはどうでもいい。
試合後、監督・岡田彰布は「ふん」と言った。「オレは情けないと思ったよ。巨人がな」。怒りを通り越していた。3球目スライダーでストライクをとると、その右投手は笑っていた。「笑ってたやろ。昔だったらえらいことになっとるよ」
そして、言った。「これじゃ伝統の一戦にならん」
阪神―巨人、伝統の一戦。初対戦はプロ野球初年度1936(昭和11)年6月27日、この甲子園球場だった。草創期から好敵手として競いあい、球界をリードしてきた。根底には正々堂々の勝負があった。たとえば、幾多の名勝負を演じてきた村山実―長嶋茂雄の対決は通算333打席を数えるが死球は0である。
甲子園球場100周年を記念したカードで見るにはあまりに残念な光景だった。
試合は好調な阪神打線が2度のビッグイニングで、よくつながった。奪った9点のうち8点までが2死から奪った。大リーグの統計でも評価される「2死後打点」が8点という勝負強さだった。
100年前のこの日、1924(大正13)年7月31日、甲子園球場は完成した。8月1日の開場式を待つ前夜、地元・鳴尾村(当時)はちょうちん行列が出るなど、お祭り騒ぎだったと伝わる。
試合前練習中、岡田はBGMで流れた『島人(しまんちゅ)ぬ宝』を口ずさんでいた。歌詞に「祝いの夜も祭りの朝も 何処(どこ)からか聞こえてくるこの唄(うた)を」とある。
まさに祝いと祭りの祝祭の時が訪れる。きょう1日、甲子園は満100歳を迎える。
岡田は「記念日にふさわしい試合にしたい」と話した。その通り。全力を尽くし、勝っても負けてもいい。大観衆をひきつける好勝負をしたい。それが甲子園の心ではないか。甲子園は楽しみにしている。 =敬称略= (編集委員)
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