「いじけ虫」レスリング文田を支えた妻の底抜けの明るさと内助の功 金メダルの瞬間は愛娘持ち上げ見せた

＜パリ五輪・レスリング男子60キロ級決勝＞応援に駆けつけた（左から）文田の父・敏郎さん、妻・有美さん、長女・遥月ちゃん（撮影・岡田　丈靖）

　◇パリ五輪12日目　レスリング（2024年8月6日　シャンドマルス・アリーナ）

　40年ぶりの快挙だ！男子グレコローマンスタイル60キロ級決勝が6日に行われ、21年東京五輪銀メダルの文田健一郎（28＝ミキハウス）が曹利国（ソウ・リコク、中国）を4―1で破り、悲願の金メダルを獲得した。グレコで日本勢の優勝は、84年ロサンゼルス大会で52キロ級を制した宮原厚次以来40年ぶり5人目。フリースタイルや04年アテネ大会で始まった女子に押されてきた日本グレコのエースが、重い歴史の扉をこじ開けた。

　文田が愛する家族が見守る中で頂点に立った。決勝の観客席には妻・有美さんと、だっこされた遥月ちゃん、父・敏郎さん（62）の姿があった。

　文田いわく「ポジティブで、僕より僕に対してストイック」という有美さん。昨年5月の練習中、全治12週間の左太腿肉離れの重傷を負った夫を病院に迎えに行くと、松葉づえ姿を見て「爆笑していたらしく、病院の人も引いてたよと言われました」。練習でうまくいかず落ち込んで帰宅すれば、容赦なく夫を「いじけ虫」と呼ぶ。「彼なら大丈夫。無責任な自信」という底抜けの明るさと前向きさで、精神面でも支えてきた。

　食事面では厳しい減量を伴う夫のため、大量の刻み野菜と高野豆腐を加えたチャーハンで「減量食だけど、減量食っぽくないもの。見た目に背徳感があるもの」を作り、おなかも心も満たされるようにサポートする。そこでもいたずら心は忘れず、皿にマジックで「肉離れ辛（かれ）え」「足痛めし」などと書いて提供。常に緊張や重圧と隣り合わせの夫を、優しく解きほぐしている。

　結婚を前提に同棲を始めたのは東京五輪の数カ月前。生活環境の変化を懸念していた有美さんを、半ば強引に家探しに巻き込み、いざ転居先が決まると1人暮らしで使っていた洗濯機を後輩にあげてしまった文田。有美さんは「一緒に住み始めたら私が持っていたドラム式の物を使おうと話してました。策士ですよね」と同棲せざるを得ない状況をつくった夫の戦術には苦笑いを浮かべる。

　東京五輪直後は好きなだけ飲み食いし、昼夜逆転の自堕落な生活にも付き合った有美さん。自然体で寄り添った3年間。金メダルが決まると、「ちゃんと見てたと分かるように」と遥月ちゃんを高く持ち上げた。