【甲子園】早実・中村心大 早実左腕では王以来67年ぶり完封 10回自らサヨナラ打で劇的16強

＜早実・鶴岡東＞早実先発の中村（撮影・北條　貴史）

　◇第106回全国高校野球選手権大会第9日・2回戦　早実1―0鶴岡東（2024年8月15日　甲子園）

　早実（西東京）の中村心大（こうだい）投手（2年）が15日、2回戦の鶴岡東（山形）戦で延長10回を完封し、自ら決勝のサヨナラ打も放った。早実左腕の夏完封は、1957年の王貞治（当時2年）以来、67年ぶりで、観戦した同氏（84＝現ソフトバンク球団会長）の目の前で快挙を達成した。史上11位タイの春夏通算68勝目で、4強だった15年以来の16強進出。2回戦は全てが終わり、16強が出そろった。

　中村は大先輩にあたる王貞治氏を「偉大な先輩」と尊敬してやまない。「このエースナンバーを背負った偉大さを感じている」と背中の「1」は何より重い。早実、巨人、そして日本球界のレジェンドが、貴賓席で観戦する中、令和の早実サウスポーが聖地で輝きを放った。

　昭和、平成を経て令和へ――。快投で67年の時を超える。「コーナーに投げられた」と130キロ台後半の直球、カットボールを軸にゼロを並べた。スコアレスで迎えた延長10回タイブレークの守備は、2死二塁から133キロ直球で中直に打ち取り無失点。だが、144球の熱投から左太腿裏をつり、早実の一塁側ベンチに戻る前に膝に手をついてうずくまった。

　その裏、1死満塁で打順が回ると治療に5分間の中断も挟んだが「ここで決めてやろう」と登場し、初球を右越え打で決着をつけた。公式戦初完封を飾る一打に「サヨナラは打ったことないので初めての景色。自分だけの時間をつくりだせた」。荒木大輔、斎藤佑樹ら、右のエースの系譜が濃い早実で、左腕の夏完封は王氏以来67年ぶり。完封＆サヨナラ打は94年中越（新潟）の穐谷（あきや）正人以来30年ぶりの快挙だ。

　一塁側アルプス席で見守った父・秀典さんは「夢みたい。これは現実なのか」と涙をこらえきれない。この日は50歳の誕生日で最高のプレゼントを受け取り「明日死なないか心配」と喜びのほどを表現した。父は天理（奈良）3年で2度の甲子園出場を果たし、春4強で夏8強だった。立命大を経てプリンスホテルで捕手としてプレー。小林幹英（広島）らの剛球を受け止めた経験から「心は熱く頭は冷静に」と好投手としての鉄則を授けた。

　中村は小6の時、ビデオに残っていた父が甲子園でプレーする姿を目に焼き付け「選手としても父としても、自分の理想像」と背中を追ってきた。斎藤佑樹を擁した06年に早実が日本一に輝くと「こんなふうになりたいなと思った」と憧れた。2年生左腕がレジェントに肩を並べる完封勝利で3回戦に進出。父も王氏も果たせなかった夏の日本一まで駆け上がる。（柳内　遼平）

　◇中村　心大（なかむら・こうだい）2007年（平19）7月17日生まれ、京都府出身の17歳。小1から野球を始め、烏丸中時代は京都ベアーズに所属。早実では1年夏からベンチ入り。50メートル走6秒6、遠投100メートル。名は「器の大きな人間になれるように」と母・由佳さんが命名。1メートル77、83キロ。左投げ左打ち。

　▽王貞治の甲子園完封勝利（ノーヒットノーラン）　57年8月16日、早実は初戦の2回戦で勝ち上がってきた寝屋川（大阪）と対戦。春の優勝投手だった2年生エースの王は「3番・投手」で出場した。9回まで無安打投球も、打線が4安打無得点で延長戦に突入。11回1死満塁から犠飛で勝ち越し、王はその裏を3者凡退。136球を投げ4四死球も8奪三振でノーヒットノーランを達成した。甲子園通算35度目（春12、夏23）の無安打無得点（完全試合含む）で、唯一の延長戦での達成。4季連続出場した王の夏の甲子園勝利はこの1勝のみだった。

　≪W達成30年ぶり≫夏の甲子園での完封＆サヨナラ打は、94年2回戦の浦和学院（埼玉）戦で中越の穐谷正人が達成して以来30年ぶり。穐谷は9回138球を投げ、2安打無失点。9回2死一、二塁で中前へサヨナラ打を運んだ。なお延長完投＆サヨナラ打では、11年1回戦の日南学園（宮崎）戦で、聖光学院（福島）の歳内宏明（後に阪神でプレー）が延長10回で記録している。

　早実投手の完封は10年夏1回戦・倉敷商（岡山）戦の鈴木健介以来。鈴木は右腕。荒木大輔は春夏通算6度、斎藤佑樹は同2度完封を記録している。