【内田雅也の追球】「ボ」がない「強み」
スポニチアネックス / 2024年8月21日 8時1分
◇セ・リーグ 阪神8―3ヤクルト(2024年8月20日 京セラD)
スコアをつける際、投球欄にストライク、ボールやファウルはもちろん、球種、コースを記している。さらにボール球に手を出した場合は欄外に「ボ」と付けている。
この夜の阪神打線のスコアには「ボ」がなかった。もちろん、記者席からの見た目なので正確とは言えないが、少なくとも3点を先制した1回裏の36球にはなかった。
近本光司の左前打に送りバントで1死二塁を作ってからは、この選球眼の勝負だった。
森下翔太、佐藤輝明と悪球に手を出さずに辛抱して連続四球で満塁。大山悠輔は見逃し三振に倒れ2死となったが、前川右京がよく見極めて押し出し四球で先取点をもらった。さらに木浪聖也が右翼線に2点二塁打を放ったのである。
ヤクルト先発・吉村貢司郎の制球難と言ってしまえば、そうかもしれない。ただし、1球もボール球に手を出さずに見極めた姿勢は評価したい。この選球眼が3四球(他に申告敬遠1)につながり、先制できたのだ。
監督・岡田彰布は「木浪の二塁打が大きかった」と言った後、「いや、その前の前川の四球も大きかったよ。大山が凡退した後やったからな」と話し、久しぶりの四球の威力をたたえた。
リーグ優勝を果たした昨季、打線で特徴的だったのは四球の多さだった。シーズン143試合でリーグ最多の494個(1試合平均3・45個)を選んだ。得点力不足に悩む今季も112試合で352個(同3・14個)はリーグ最多だ。昨年より減ったが、強みであることに変わりない。経営学の泰斗、ピーター・F・ドラッカーの名言「強みの上に築け」である。
初回の選球をたたえた岡田はさらに「見極めた後、2回以降は“初球からいけ”と言っていたんよ。その辺がなあ」と話した。相手は初回4四球の反省からストライクを取りにくる。相手心理を読んでの打撃姿勢を望んだ。確かにゼロ行進だった2~6回、のべ18人のうち、第1ストライクを打ちに出たのは森下、佐藤輝2度、大山、木浪とのべ5人だけだった。
昨季を顧みて、今季春先、ストライクで攻めてくる相手に受け身になった状況と似ている。駆け引きもあるが、ストライクを打つ(ボールは見送る)という「好球必打」の基本を見直したい。
ただし、快勝には違いない。満月の夜、自信を持ち、希望を抱いて明日を見たい。 =敬称略= (編集委員)
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