【内田雅也の追球】心に火をつけた大和魂
スポニチアネックス / 2024年9月7日 8時2分
◇セ・リーグ 阪神9―1ヤクルト(2024年9月6日 神宮)
阪神を快勝に導いたのは先発ジェレミー・ビーズリーの力投である。3回裏先頭、西川遥輝のライナーを右足に受けながら5回1失点と力投し、勝利投手となった。
打球直撃の直後、治療のため、ベンチ裏に下がり、再びマウンドに戻ってきた。大丈夫というしぐさと笑顔を浮かべた。
恐らく痛み、腫れもあるはずだが、痛そうなしぐさは見せなかった。戦いの最中に痛みや弱みを見せない。大リーグが長年築いてきた掟(おきて)のような不文律である。加えて負傷を言い訳にしない。大リーグ通算18試合0勝1敗1セーブの右腕も魂を備えていた。
痛みを押して奮闘する姿を目の当たりにして奮起しない者などいない。英語で言えばインスパイアだろうか。打線を鼓舞し、心に火をつけた。
2―1の1点リードから奪った5回表の3点が大きかった。先頭から3連打で相手先発サイスニードをKO。さらに佐藤輝明が3ボール―0ストライクから中前適時打したのだった。「ノースリー」でも力まずにスイングに集中力が見えた。
思えば佐藤輝はビーズリーが負傷した打球も素早く処理、一塁で刺す好守備を見せていた。集中力の高まりが6回表の満塁弾につながっていた。
ビーズリーの姿勢に、かつてのジーン・バッキーを思う。マウンドで闘争心をむきだしにして打者に向かっていった。
1964(昭和39)年のリーグ優勝では大車輪の働きを演じた。シーズン終盤、残り7試合で首位・大洋(現DeNA)に3・5ゲーム差があった。阪神は大洋戦の4勝を含め6勝1敗が優勝の条件だった。バッキーは先発・救援で5試合連投で3勝をあげ、奇跡の主役となった。
当時監督の名将、藤本定義は「大和魂を持っている」とたたえた。この夜のビーズリーにも大和魂がこもっていた。
まだ日本にプロ野球がなかった1931(昭和6)年、大リーグ選抜の一員として来日したルー・ゲーリッグ(ヤンキース)は全日本の姿勢に怒りを示した。当時の新聞に談話がある。「日本に大和魂があると聞き、楽しみにして来た。だが残念ながら大和魂はどこにもなかった。凡打だと笑いながら一塁に走ってくる選手がいた。わたしはぶん殴ってやりたかった。大和魂のために」
この言い方を借りれば、今の阪神には大和魂がある。 =敬称略= (編集委員)
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