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【内田雅也の追球】浜風の下の好ゲーム 結果だけを追い求める中で、昨年の優勝経験は確実に生きている

スポニチアネックス / 2024年9月12日 8時2分

8回無死、桑原の打球は島田の頭上を越えて本塁打に

 ◇セ・リーグ 阪神3ー4DeNA(2024年9月11日 甲子園)

 阪神監督・岡田彰布は「なんで、そんなお通夜みたいにしゅんとなるんよ」と言った。会見場を出て、首をひねった。「もう終わりみたいな。そんな暗くなる必要ないやんか。こんなええゲームしてるんやで」

 その通り、懸命に戦って敗れたが、まだまだ逆転優勝はある。そして何より好ゲームだった。

 6回裏の同点劇は森下翔太のソロと連夜のセーフティースクイズだった。1死一、三塁から坂本誠志郎が投手右に転がし、三塁走者を迎え入れた。

 今季、あれほど失敗ばかりしていたセーフティースクイズが大事な時期に決まりだした。岡田が「勝負は9月」と繰り返し「大切な試合というのを分かっている」と認める選手たちの自覚がある。重圧もあるなか、落ち着いてプレーできている。昨年の優勝経験が物を言っているのだ。

 何が、誰が悪かったといったこともなかった。

 3回表無死一塁でバントを処理した大山悠輔の二塁送球は間に合わなかった。犠打野選となり余計な失点につながった。岡田は「ふっ」と意に介していなかった。

 それに敗因など探しても意味がない。9月なのだ。優勝争いの最中なのだ。岡田はまた同じことを言った。「勝ったか負けたか。それだけよ」

 かつて本紙で書いていた栗山英樹は試合後に原因を取材をしても<答えが見つからない>と感じていた。その理由が日本ハムで監督になって分かったと著書『覚悟』にある。<そこに答えはないのだ。(中略)なぜなら、みんな答えを求めて戦っているわけではなく「結果」を求めて戦っているから>。結果がすべての厳しい日々にある。

 決勝点はハビー・ゲラが代わりばなの初球を桑原将志に浴びたソロだった。強い浜風に乗り、左翼席ギリギリだった。

 <浜風に一喜一憂若き日々>は江夏豊の俳句である。阪神時代の背番号から「二八」という俳号もある。師匠の木割大雄が「季語がないよ」と指摘すると「甲子園の浜風は秋よ」と応えた。

 昼も夜も吹いた強い浜風は真夏を思わせる。浜風を秋だというのは江夏独特の感覚だ。秋の優勝争いのなか、「喜」よりも「憂」の方をよく覚えているのかもしれない。この夜の被弾のようだ。

 だが、いつか風も味方になるだろう。村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』にある。「風向きは変わるさ」である。 =敬称略=

 (編集委員)

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