【内田雅也の追球】優勝争いの最中に訪れた水入り 休養をもたらした天に感謝し、新たな戦いに挑みたい
スポニチアネックス / 2024年9月13日 8時1分
その時は甲子園球場の記者席にいた。いつものように、軽い夕食をとり、アイスコーヒーを飲みながら、ナイターに備えていた。
午後5時、阪神園芸のグラウンドキーパーたちが内野グラウンドに急いでシートを敷いていた。すると、間もなく、雨が降り始めた。
見上げると、黒い雲が南東の方角から近づいてきていた。ほどなく猛烈な雨となった。あたりは暗くなり、稲光と雷鳴がとどろいた。ガガーン、ドドーンと、耳に痛いほどの音量である。銀傘の下に避難していた観客から悲鳴があがった。
そう、黒雲は南東からやってきた。かつて、甲子園の名物グラウンドキーパーだった藤本治一郎さん(故人)が話していた「辰巳の夕立」である。辰巳、つまり南東、大阪湾の方から来る雨雲は大雨になるという。家は半農半漁で幼いころから父親に甲子園界隈の天候について教わっていた。著書『甲子園球児“一勝”の土』(講談社)に<降ったら怖い。タライをひっくり返したような夕立が降る>とある。その通りの豪雨だった。
もちろん、試合は中止である。優勝争いの最中、昼間の好天を思えば、思わぬ水入りとなった。
勝つか負けるかの日々だが、雨もある。「野球は一般的に3つの可能性がある。勝つか、負けるか、そして雨かだ」と言ったのは大リーグ、ヤンキース、メッツなどで監督を務めた名将、ケーシー・ステンゲルだった。
引き分けはさておき、降雨中止もまた勝負のうちだ。そして、雨でシーズンの流れが変わることは歴史が証明している。
では、この雨は阪神の今後にどんな影響をもたらすのだろうか。監督・岡田彰布は今回の2日前(10日)、雑談で今後の降雨中止の可能性について話すと「今日、せっかくローテーション、全部決めたのになあ」と話していた。新しく組み直す先発ローテーションはむろん、逆転優勝を念頭に置いたものになる。
この雨が今後にどう影響するのかなど誰にもわかりはしない。「一寸先は闇」の世界である。
夜には巨人が広島に勝ち、巨人とのゲーム差は4と開いた。いずれにしろ阪神は勝っていくしかない。ともかく、ひと息ついた。できることは気持ちの切り替えだろうか。ありがたい休養だと天に感謝し、新たな戦いに挑みたい。 =敬称略=
(編集委員)
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