【内田雅也の追球】準備が生む“幸運”打球
スポニチアネックス / 2024年9月14日 8時1分
◇セ・リーグ 阪神7―3広島(2024年9月13日 甲子園)
阪神の広島・大瀬良大地KOには幸運もあった。処理が難しい打球がいくつか飛んだ。
2回裏1死一塁、梅野隆太郎の三遊間の遊ゴロは二塁送球が乱れ間に合わなかった。記録は当初の失策から安打に訂正された。投手・高橋遥人のライナーに大瀬良は右足ではじき、遊撃前に転がる内野安打。満塁から近本光司が押し出し四球を選び同点としたのだった。
4回裏は1死一塁から木浪聖也の遊撃右へのゴロをグラブではじき、右前に転がる安打となった。2死二、三塁からの近本の決勝2点打は快打。だが後のボテボテが失策を誘って追加点となった。
結果、大瀬良を今季最短の4回1/3で降ろし、9安打5点を奪っていた。
試合前まで大瀬良は防御率リーグ2位の1・46だった。6回を自責1という数値。難敵である。
ただ、セイバーメトリクスが進む大リーグでは投手の能力は防御率では計れない、が定説だ。快打が正面をついたり、どん詰まりがポテン打になったりと打球の運、不運がつきまとうからだ。
「投手は打球のコースまでは支配できない。制御できるのはゴロを打たせるまで」が通説だ。このため、奪三振、与四死球、被本塁打の数値だけで評価する「tRA」や「FIP」などの指標が提案されている。
この夜の攻略は幸運だったのか。いや、2回裏に31球、5回途中で89球も投げさせたのは大瀬良の制球難ばかりが理由ではない。各打者、特に下位打線が見極め、食らいついた結果である。そして前に飛べば何が起きるか分からない。6番~9番で7安打を放ち、3四球をもぎ取っていた。
「幸運はよく準備された実験室を好む」とパスツールの言葉にある。「準備がすべて」と言う選手たちばかりである。今季、甲子園で3試合、21回で1点に抑えられていた投手の対策を練り、粘り強い打撃が幸運な打球となって表れていた。打者は準備と思いで打球コースを変えられるのだ。
監督・岡田彰布も準備していた。練習中、いつものベンチではなく、ブルペンと外野に足を運び投手陣に声をかけた。桐敷拓馬に2回を投げる準備をさせていた。
2位浮上、巨人が敗れ3ゲーム差。逆転優勝へ機運が高まる。きょう14日は昨年リーグ優勝を決めた記念日。今年はこれからが優勝争いの本番である。 =敬称略= (編集委員)
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