真田将軍の“天下獲り”に思わず感涙
スポニチアネックス / 2024年9月17日 20時20分
【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】年齢のせいもあるのだろうか。この頃ますます涙もろくなった。日本時間の9月16日に米ロサンゼルスで行われた米テレビ界最高峰の栄誉とされる「第76回エミー賞」授賞式。真田広之(63)の誇らしげな姿が映し出される度に筆者の細い目から涙があふれ出てきた。
「SHOGUN 将軍」がドラマシリーズ部門の作品賞、監督賞(フレッド・トーイ)、主演男優賞(真田)、主演女優賞(アンナ・サワイ)と主要部門を独占。9月8日に発表された技術・制作部門を合わせ史上最多の18冠に輝く歴史的快挙を成し遂げた。
プロデューサーとして、そして主演俳優として2つのトロフィーを高々と掲げた真田、そのスピーチも素晴らしいものだった。
「これまで時代劇を継承し支えてきた全ての方々、そして監督や諸先生方に心よりお礼を申し上げます。あなた方から受け継いだ情熱と夢は海を渡り、国境を越えました」
先達へのリスペクトを強調。主演男優賞の受賞あいさつでは「東洋と西洋が出合う難しいプロジェクトだったが、一致団結してミラクルを起こすことが出来た。私を信じてくれてありがとう」とスタッフ、キャストに感謝の気持ちを伝えた。
あいさつ冒頭の「EAST MEETS…」を耳にして思い出したのは1995年公開の岡本喜八監督作、その名も「EAST MEETS WEST」だった。米国の西部を行くサムライを演じたが、真田も頭の中で岡本監督の顔を浮かべていたかもしれない。どの作品も血となり骨となった。
ロサンゼルスに拠点を移して20年が過ぎた。2003年公開の「ラストサムライ」出演がきっかけだったが、その時も共演者に殺陣をつけたり、不自然な日本の描写を正すため編集作業にも加わっている。
日本とロスを行ったり来たりするのではなく、真田は腰を落ち着けた。「たまに戻ってこないと忘れられちゃうよ」と忠告する人間もいて、筆者もそんな一人だったが、それが間違いだったことを今回の「SHOGUN」が実証した。
映像を巡る環境の大きな変化。世はSNS時代だ。拍車をかけたのがコロナ禍による動画配信サービスの世界的に拡大だった。海外作品を外国語で視聴する機会が増えたことで、吹き替えを当たり前のように受容していた米国人の間に字幕観賞が定着していった。
一方では、真田が築いていった人脈や確かな実力にハリウッドが一目置くようになり、その意見に耳を傾けるようになる。とりわけ時代劇。日本から専門スタッフを呼び、微に入り細に入りウソのない描写が映像に収められていった。「どこにいようが、日本の武士の魂はリアルに表現することが出来る。そんな時代がきっと来る」――。まるで見越していたかのような真田の先見性には脱帽する。
玉川大輔。これは日本舞踊玉川流の名取でもある真田のもう一つの名前。踊りの会を取材したのは何年前だったか。着付けや所作の美しさにため息が出た。アクションだけではない。時代劇には日本舞踊も欠かせない。真田の偉業は決してラッキーパンチではなく、修養を重ねた必然の結果だ。
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