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【蹴トピ】VAR“機械の目”に見える未来は 元国際審判員・家本氏に聞く“現状”

スポニチアネックス / 2024年9月18日 6時3分

導入されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)=Jリーグ提供=

 パリ五輪でビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が改めてクローズアップされた。準々決勝スペイン戦で前半40分にU―23日本代表のFW細谷真大(22)がゴールを決めたかに見えたが、VARによるオフサイド判定。「VAR」という言葉は浸透してきたが、現場ではどういう作業が行われているのか。サッカーのテクノロジーはどこまで進化するのか。元国際審判員の家本政明氏(51)に聞いた。(取材・構成 大西純一)

 細谷のシュートは、MF藤田からの縦パスを相手DFを背負って受けた時に足の一部がわずかに出ていてオフサイド判定。“細谷の1ミリ”とも報じられた。家本氏は「主審はピッチの中央で見ていたので分からないと思う。オフサイドを監視するのは副審だが、このケースは相当目が肥えていないと見極めるのは難しい。テクノロジーが導入されたからこそのオフサイド」と解説した。

 VARのシステムはどう運用されているのか。VAR室にはVARとAVAR(アシスタント・ビデオ・アシスタント・レフェリー)担当の審判員と、機材を操作するオペレーターがいる。国際試合では補助員が加わることもある。VAR担当が反則、ゴール、オフサイドなど全般を見て、AVAR担当がサポートするやり方もあれば、VAR担当は主審、AVAR担当は副審が担当することが多いので、AVAR担当にオフサイドを任せることもあるという。役割分担は明確に決まっているわけではないそうだ。

 VARは得点、ペナルティー、退場、人間違いの4つの事象に介入する。ゴールの場面は全てAPP(アタッキング・ポゼッション・フェーズ)といって、得点につながる攻撃が始まったところからチェック。細谷のオフサイドもこの過程で、VAR担当者がわずかに足が出ていたことを確認してオフサイドと判定したわけだ。

 もちろん他にも映像を見ながら、確認の必要があるシーンがあると、VAR担当が画像にタグ付けしてすぐにチェック、主審とVAR室でこんなやりとりが行われる。

 VAR担当「ハンドの可能性があります。確認しますか」

 主審「確認します」

 この後、主審は試合を止めて映像を確認する。また、映像でハンドの反則が確認できている時は、VAR担当が「ストップ・ザ・ゲーム」と主審に映像を確認するように伝える。逆にレフェリーから、「今の場面、間接視野で把握できなかった。確認してほしい」と、リクエストされることもある。VAR担当はピッチ上を走らないだけで、物凄い集中力と判断力が求められる。家本氏も「脳と目をフル回転させるので、めちゃくちゃ疲れる。責任は主審にあるが、映像という証拠はインパクトが大きいので、見逃すと大変なことになる。緊張感があり、気が抜けない」という。

 ルールでは確認するかどうかはレフェリー次第だが、「映像があるだけに確認しないというのは勇気がいる」という。もちろんアングルによって見え方が違うので、判断が難しいこともある。カメラの台数を増やし、解析度を高いものにできればいいが、費用がかさみ、簡単にはできないのが現実だ。

 もっとも、VARがサッカーを変えていることは間違いない。「ここまでは求めていなかったかもしれないが、より精密性、厳密性が問われ、多くの人が求めたのでこういうシステムができた。現在は、理論的には正しいが、感情的には必ずしも喜べない状態」と、家本氏は言う。笛を吹く審判員も複雑なところがある。「最初は違和感があった。審判は全て自分の責任で判断するが、VARは映像が証拠として出てきて、覆される」。それでも家本氏の記憶によるとVAR導入試合では判定の正確性が上がり、FIFAのデータで約92%が約99%に上昇したという。メリットがあることは間違いない。

 一方、デメリットとしてその都度試合が止まり、連続性とダイナミズムに水を差している。点が入ってもすぐに喜べず、人間の感情を抑制しているとも捉える。「本質から外れ、違う方向に向かっていて、今の形がベストではないと感じている人も多い」と分析する。さらに審判員の心理として、「VARが助けてくれるという安心感もあるが、審判員が技術を極めることをやめようとする可能性がある。技術を高める足かせになっていると個人的には思う」と、家本氏は懸念も口にした。

 ≪ゴール判定「GLT」も進化≫

 VARのほかにも、Jリーグでは導入していないが、ゴール判定を補助するゴールライン・テクノロジー(GLT)なども進化している。22年W杯カタール大会1次リーグ最終戦のスペイン戦で、三笘のクロスがゴールラインを割っていなかったと判定されて、田中のゴールが認められた場面で真価を発揮。この技術でサイドラインを割ったかどうか、オフサイドなども判定できる。さらにAIに反則となるプレーを学習させて数値化すれば、ファウルを判定することも可能だという。最終的には副審は要らなくなり、主審はテニスのように中央の高い所で試合を管理するようになる。こうなると、サッカーとは別の「テクノロジー・フットボール」と称した方がいいかもしれない。

 家本氏は判定の正確性の向上には、テクノロジーよりも、以前FIFAが試した追加副審を挙げる。ゴールの横にいて、ゴールやペナルティーエリア内の反則などを確認する役割だ。「試合が止まらないし、現場の審判で解決できる。ゴールの近くで見ているので抑止力にもなる。追加副審プラスセンサーぐらいがいい」という。

 ≪AT計測もサポート≫22年W杯カタール大会以降、長くなったと話題になっているアディショナルタイムについてもVAR室がサポートすることもある。試合時間は主審が計測しているが、VAR担当やAVAR担当、補助員らもストップウオッチを持っており試合時間を計測。アディショナルタイムを計測することもあるという。

 ≪資格返上してビジネス界に≫

 家本氏は審判員を引退後は、審判員資格も審判指導員資格も返上。現在は駐車場の上部空間や狭小地などを扱う空間ソリューション事業を展開するフィル・カンパニーの特命部長兼広報部長としてビジネス界で活躍している。「クラブや協会、リーグとサッカー界でいろいろな活動をしたが、世の中は広く、知らないことがたくさんある。大海に出てどこまで通用するか挑戦したいと思った」と、転身の理由を語った。

 「資格を持っていると、好きなことが言えないし、活動も制限される。一度完全にフリーになりたかった。高いレベルの経験と専門知識を持った者が組織の外から発信し、活動することで組織の健全性が高まれば」と外部からサッカー界の発展を支えていく考えだ。

 ◇家本 政明(いえもと・まさあき)1973年(昭48)6月2日生まれ、広島県福山市出身の51歳。福山葦陽高時代はDFとしてプレー、同大1年時に審判に。卒業後は京都サンガの職員となった。96年に1級審判員資格を当時最年少で取得。02年からJ2、04年からJ1の主審を担当。05年に国際審判に登録され、日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(SR)に。Jリーグで通算516試合を担当。21年シーズンで引退。愛称は「いえぽん」。

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