【内田雅也の追球】消化試合でも熱気に包まれた甲子園 人々の思いをかなえる野球がここにある
スポニチアネックス / 2024年10月1日 8時2分
◇セ・リーグ 阪神0ー2DeNA(2024年9月30日 甲子園)
試合後、レギュラーシーズン本拠地最終戦のセレモニーがあった。マウンド上の監督・岡田彰布を中心に整列し、今季の感謝の一礼を行った。
大げさに書けば、スタンドの観客は一人も帰っていなかった。甲子園球場は最後まで、いつものように超満員だった。順位が2位と決まった後の、いわば消化試合でも、人びとは当然のように集まってきていた。
8回まで無安打。岡田もノーヒットノーランを「やられると思ったわ」と言い、「まあ、別にやられてもええけど」と笑った。消化試合なのだ。だが、スタンドの熱気は消化試合ではなかった。
観衆4万2620人。すでに12球団最多だった今季の観客動員数は300万人を突破した。コロナ禍前の2019年以来、5年ぶりである。
人びとは何を見に来ていたのだろう。第一に阪神の勝利だろうが、そればかりではない。
猛虎党だった作詞家・阿久悠が2003年優勝時、本紙に『平成球心蔵(きゅうしんぐら)』と題した詩を寄せている。人びとの思いをよくあらわしていた。
人間は歓(よろこ)びたい
人間は歌いたい
人間は踊りたい
人間は夢みたい
人間は信じたい
人間は熱中したい
そして
人間は 正直に 正直に
嬉(うれ)しいと叫びたい
さらに さらに
今ある幸福をしっかりと掴(つか)み
半分を同じ志の人に分け与えたい
人びとの欲求をかなえる存在としてタイガースが、場所として甲子園球場がある、と読める。
この夜もよく歌い、踊っていた。周囲の人びとと歓びあった。9回の2安打に熱狂し、零敗でも笑顔があった。勝利後に流れる「六甲おろし」が敗戦後でも流れ、歌声が秋の夜空にこだました。
『球心蔵』は阿久が1997年、本紙に連載した小説。イラストは同じく猛虎党で、この日訃報が伝わった山藤章二が描いていた。阪神が打倒巨人を果たして優勝する物語が「忠臣蔵」仕立てになっていた。多くの警句がちりばめられていた。
「負けても美しく、下手でも感動を呼ぶのが野球やないか」。猛虎たちが目指すのは、そんな野球である。 =敬称略=
(編集委員)
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