安達祐実 芸歴41年の率直な夢 「賞をいただくことができれば」
スポニチアネックス / 2024年10月3日 9時35分
【牧 元一の孤人焦点】俳優の安達祐実(43)がNHKのドラマ「3000万」(10月5日スタート、土曜後10・00、全8話)に主演する。妻であり母であり働く人である主人公・祐子が事故をきっかけに夫の義光(青木崇高)とともに非日常的な世界に没入する物語。第1話から「常識」と「狂気」の二面性、振り幅の大きい演技を見せる安達に話を聞いた。
──「常識」と「狂気」を併せ持つ祐子は難しい役なのでは?
「かなり難しい役です。私がこれまで演じて来た役の中でも上位の難しさです。祐子にはいろんな局面があって、そのたびに感情、思考が変化するので、それを整理するのが大変でした。でも、祐子本人も整理できないはずだから、演じる時に無理に整理しなくてもいいのではないかという話を監督としました。その時その状況で何が祐子の心を占めているのかを逐一確認しながら演じました」
──「常識」と「狂気」は安達さん自身の中にあるものですか?
「あると思います(笑)。これまでの取材で祐子と私の共通点を聞かれ、あまり共通点はないと思っていたんですけど、今、そう聞かれて、それだ!と思いました。すっきりしましたね。常識人でいたいと思う私がいる半面、自由でいたい、縛られたくない、常識だけでは生きて行けない私がいる。両方の面を私も持っていると思います」
──それは、さまざまな役を演じているうちに身に付いたものでしょうか、それとも、もともと自身の中にあったものでしょうか?
「役から得たというより、もともと持っていて、それを役に乗せることによって膨らませてきたのだと思います。俳優は演じる時、その人の人生が垣間見えたり、人間性が見えたりするのが面白いのではないでしょうか」
──確かに、作品で面白い人物に映るかどうかは、芝居の技術よりも、その人自身が面白い人物かどうかが重要だと思います。
「そうですね。絶対にそうだと思います。若い頃はそんなことは分からなかったし、深く考えもしなかったけれど、この年齢になると、本当にそれが大事なことだと思います。その人がどう生き来て、どんな人間であるのかということが、お芝居にとても大きな影響を与える。人として魅力的じゃないと、魅力的なお芝居ができないと感じています」
──第1話の試写を見て、とても面白い人物に映っていると感じました。
「それはうれしいです。ありがとうございます」
──このドラマはNHKの脚本開発チーム「WDR」プロジェクトから誕生しました。脚本家の弥重早希子さん、名嘉友美さん、山口智之さん、松井周さんの4人が生み出した物語、祐子という人物についてどんな印象を抱きましたか?
「祐子は私とは全く違う選択の仕方をします。私ならどうする?なんて考える必要はないんですけど、潜在意識の中に、私ならこうはならない…という拒否反応があって、それを乗り越えながら演じるのが大変でした。祐子は、普通はそちらに行かないという選択をしてしまう人。でも、土壇場で力を発揮する人。とても面白い人です」
──祐子は夫の義光に引きずられた挙げ句に強烈な個性を発揮しますね。
「そうなんです。本来持っている強さ、ぶっ飛んだところがパッと花開く瞬間がある。そこが祐子のダメなところでもあるし、魅力的なところでもあります」
──演出の保坂慶太さんの印象は?
「よく説明してくれて、私にない部分を補ってくれる感じです。どこからその熱量が来るの?と思うくらい凄く熱い人ですけど、押しつけることはなく、人の意見をよく聞いて、それは面白いからやってみようとチャレンジさせてくれる。こだわっているのに柔軟性がある。特殊なタイプの人だと思います。面白いですね。ちゃんと人の感情を察していて、私が演じて、いまひとつだったな…と思っていると、もう一回やりますか?と聞いてくれる。全部ばれている感じです」
──共演の青木さんは試写会の際に「伝説のドラマになると思う」と語っていましたが、第1話にその片りんが見えました。
「うれしいです。なる可能性は凄くあると思います」
──安達さんは9月14日に43歳になり芸歴は既に41年です。子供の頃からずっと役者を続けて来て大変だったのでは?
「私は他に何もできないし、これがいちばん得意なことだったのだと思います。ありがたいことに、それが生活の支えにもなってくれている。本当に幸運なことだと思います。それに、面白い!(笑)いつまでたっても上手にならない。10代の頃に比べたらうまくなっているとは思いますけど、でも、自分では、うまくなったなあ…とは思えない。誰もがひれ伏すような天才的な演技力がほしいけれど、どうやって手に入れたらいいのか分からない。永遠にたどりつけないところが面白いんでしょうね」
──役者としての今の自分をどう捉えていますか?
「以前は、演じるということが分かっていませんでした。今は、こういうことかな…と分かり始めたところだと思います。それがこれからどう変化していくのか、楽しみです。私は童顔ということもあって若い頃はなかなか役がつきにくくて、役の幅が広がりにくかったんですけど、やっと、いろんな役をいただけるようになりました。年齢で言えば、おばさんの域ですけど、これから、おばあちゃんになって、どのようにお芝居を捉えられるか、自分でも楽しみです。どの年代においても、振り幅の大きい俳優でいたいと思います」
──この「3000万」で振り幅の大きさを見せられるのでは?
「そうですね。一つの作品の中でとても振り幅が大きいと思います。それをやらせてもらってとてもありがたいです」
──役者としての夢は?
「大人になってから、お芝居の部門で賞をいただいたことがないんです。中学生の頃にいただいたのが最後なので、ちゃんと自分の足で歩いている中で賞をいただくことができれば…。もちろん、賞が全てだとは思いませんけど、いただくことができれば、ひとつの形として、とてもうれしく思います」
──今回の作品で何か受賞できる可能性があるのでは?
「とりたいです。とれますように…(笑)」
≪後記≫1994年のドラマ「家なき子」などで一世を風靡した安達の魅力を再認識したのは、2021年から22年にかけて放送されたNHK連続テレビ小説「カムカムエブリバディ」だった。
ヒロイン・ひなた(川栄李奈)のあこがれの俳優・美咲すみれを好演。役者としての力量を感じたのは、仕事を失っていたすみれが久しぶりに時代劇の撮影に臨みセリフを棒読みしたシーンだった。
演出担当者は撮影後に「演技が上手な人(安達)に下手に演じてもらうのはとても難しかった」と明かしたが、完成した映像では、そのシーンの前後の極めて自然な芝居と棒読み時のたどたどしい芝居の落差が際立って秀逸だった。
今回の取材でその感想を伝えると安達は「うれしいです(笑)。朝ドラは若い頃に出させていただいて(1991年の『君の名は』、96年の『ひまわり』)そしてまた大人になって出させていただいて感慨深かったです。気合を入れて緊張しながら撮影しました」と振りかえった。
その朝ドラ出演からおよそ2年。NHKの連ドラに初主演する今作で、その力を存分に発揮することになる。彼女の代表作のひとつになると思うし、演技者として何かの賞を受賞したいという率直な夢にもかなりの現実味を感じる。秋の夜長に極上の芝居を楽しみたい。
◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部専門委員。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。
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