【内田雅也の追球】後継者を“育てる”とは
スポニチアネックス / 2024年10月5日 8時2分
今季限りでの勇退が表面化した阪神監督・岡田彰布が2年前、阪急阪神ホールディングス(HD)会長兼CEO・角和夫と会った時のことを振り返ってみる。当時監督の矢野燿大はすでにキャンプ直前に「今季限りで辞任」を表明していた。岡田は評論家だった。
2022年5月、西宮カントリー倶楽部でゴルフをともにし、宝塚ホテルで会食となった。角は2人きりになったとき、岡田にグータッチを求めている。「秋には新監督を頼んだ」というシグナルだった。
この時、角が岡田に望んだのはチーム強化、つまりは優勝と後継者の育成だった。昨年のリーグ優勝、日本一で一つの約束は果たしたが、もう一つの後継者についてはどうだったか。
後継者とは監督になれる人材ということだが、実際、これは難しい。どの球団でも監督の交代に頭を痛めている。
「球界の寝業師」「フィクサー」と呼ばれ、常勝球団をつくりあげた根本陸夫(故人)に聞いてみたい。
広島、クラウンライター(現西武)、ダイエー(現ソフトバンク)で監督、そして事実上のゼネラルマネジャー(GM)としてチームを強化していった。今となっては伝説の野球人である。
根本は「監督の仕事とは何か」と自問自答し「それは次の監督をつくることだ」と語っていた。
阪神で長年、球団管理部長などフロント幹部にいた峯本達雄に聞いたのを覚えている。峯本が社会人・新日鉄堺にいた1976(昭和51)年、根本は解説者のかたわら、臨時コーチを務めており親交があった。
確かに、根本は西武監督を退く際に広岡達朗を、ダイエー監督を退く際に王貞治を次期監督に招き、優勝チームに導いている。自身でチームの土台を築き、勝てる監督で勝負に出るという手法だった。後継者を“育てる”という形ではない。
広島監督時代はどうだったか。72年、名古屋での定宿だった美そ乃旅館に残していた色紙を当時の従業員から譲り受けた。「現在を尽くさずして未来への到達はありえない」と書かれていた。目標を掲げ、今に全力を尽くせという意味だろう。
岡田にはまだ最後の戦い、クライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズがある。全力で勝負に挑む姿は自然と伝わる。次の監督を育てることになる。 =敬称略= (編集委員)
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