【内田雅也の追球】決戦での「特別」と「普通」
スポニチアネックス / 2024年10月9日 8時1分
「10・8」だった。あの1994年の決戦からはや30年がたつ。
巨人、中日ともにシーズン最終戦で同率首位、勝った方が優勝という大一番で、巨人監督・長嶋茂雄が「国民的行事」と呼んだ。当時遊軍記者でナゴヤ球場まで応援取材に出向いていた。どこか殺気だった異様な空気だったのを思い出す。
結果は巨人が6―3で勝ち優勝を決めた。試合前に「勝つ」と連呼した長嶋が行ったのは、異例の槙原(寛の目の右下に「、」)己―斎藤雅樹―桑田真澄、先発3本柱による特別な継投だった。
敗れた中日も異常事態のなかで戦っていた。監督・高木守道は8月末に球団から解任を告げられていた。結果的に留任となるのだが、選手たちは監督退任を前提に戦っていたわけである。
事情は全く異なるが、いまの阪神と似ている。阪神は9月29日に監督・岡田彰布と話し合い、任期満了での退任で合意している。退任する監督の下でこれからクライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズという短期決戦に挑むのである。
となれば、退任を前提に指揮を執っていた高木に何か戦う上でのヒントがあるかもしれない。
スポーツライター、鷲田康の著書『10・8 巨人VS中日 史上最高の決戦』(文春文庫)に、高木の回顧談がある。
長嶋の3本柱投入とは異なり、高木は先発のエース、今中慎二の後、山本昌や郭源治の起用に二の足を踏んだ。最後の1試合に「変わったことをすることに抵抗があった」と「普段通り」の継投でいった。
「ああいう試合を普段通りに、いつも通りにやろうという考えは大間違いでした。やっぱりあの試合は130分の1ではなく、特別な試合だったんです。それを教えてくれたのはジャイアンツであり、長嶋さんだったということです」
もちろん、1試合だけの最終決戦と2勝先勝制のCSファーストステージ、4勝先勝制の同ファイナルステージ、日本シリーズでは違いがある。
岡田は最後の短期決戦に向けても「普通にやればいい」という持論を変えてはいない。それは就任時から繰り返し、昨年日本一に導いた信念だ。「普通力」である。
ただ、選手には「普通に」と言う一方で、自身の采配には「特別」を用意しているかもしれない。そんな気がしている。
=敬称略=(編集委員)
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