難病克服のソフトバンク・田上奏大「僕だけじゃない」 強い思いを胸に復活へ
スポニチアネックス / 2024年10月10日 8時0分
ソフトバンクの田上奏大投手(21)が9日、3軍の練習試合に登板し、難病からの復活登板を果たした。わずか5球。最速147キロの力強いボールで任された1イニングを3者凡退に抑えた。満面の笑みを浮かべてナインとタッチを交わし、その後ベンチでは涙も流した。
田上が発症したのは「ランゲルハンス細胞組織球症」という難病だった。最初に違和感を感じたのは1月の自主トレの時だった。その時は背中の張りという感覚だったが、今春キャンプの第1クールで痛みが強まった。治療をしても治らず、夜も寝られない痛みに苦しんだ。
原因不明の中、MRI検査で「背骨が溶けている」と衝撃の事実を伝えられると、最悪の事態も頭によぎったという。スマホで「背骨 溶ける理由」と調べ「吐き気が止まらなくなった。寝られなかった。誰の顔も見られなかった」。
当初は大阪の自宅で寝たきりに近い状態で療養生活を送った。成人では100万人に1人とも言われ、アスリートの症例も皆無。「何で俺なんだろう」との思いも頭に浮かんだと振り返る。食事もなかなか喉を通らず93キロあった体重もおよそ1カ月で85キロまで落ちた。
野球ができなくなる可能性も伝えられ、少なくとも今季中の復帰は難しいと思われていた。そんな状況に打ち勝ち、保存療法を選択し現在は寛解。2カ月に1回ほどの経過観察が必要だが、家族や親しいチームメートにも支えられ見事な復活を遂げた。
小久保監督が2軍を指揮していた昨年、一昨年とも2年連続でファームの開幕投手を務めた“小久保チルドレン”だ。およそ3カ月ほど前。復帰に向けて前進していた田上は「落ち込みそうな時とかに思い出すようにしている」として、2軍監督時代の指揮官に聞いた「人生はネタづくり」との考えを挙げていた。
「どれだけ悪い時があっても、上と下の差が開くほど人生は面白いから、と言われていた。みんなが救われる言葉だなって思いました。落ち込むこともあるけど、そう思えれば楽しみしかなくなってくる」。
今回の登板をもって「活躍して勇気を与えられる選手になりたい」と病名を公表した。小児の例が多い病気だ。自主トレをともにした先輩選手から「それを聞いて頑張ろうと思える人もいるだろうし、言ったことで頑張れる自分もいるんじゃないか」との考えを聞き、思いを強めた。
21歳の右腕が直面した難局は想像を絶する。それでも「アスリートという面なら珍しいですが、僕だけじゃない」。病気で苦しむ人たちを少しでも励ますことができる存在になるためにも。強い思いを胸に前を向いている。(記者コラム・木下 大一)
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