【菊地選手の「隠し玉」発掘】大宮東・冨士大和 「左の戸郷」“クセスゴ”だけど…放つ剛球は一級品!
スポニチアネックス / 2024年10月18日 18時15分
24日に行われるドラフト会議。フリーライターの菊地選手(42)が、全国を飛び回り探し出した隠し玉を紹介する。
正直に白状する。大宮東(埼玉)の左腕・冨士大和の投球を見た第一印象は「よくわからない」だった。
昨年、ドラフト候補に挙がった兄・隼斗(日本通運)は150キロ台の剛球を武器にするパワー型右腕。ところが、その弟は同じドラフト候補でも毛色がまったく違った。左腕で、細身のシルエット。腕を振る角度はサイドハンドに近く、いわゆる「肘が落ちる」故障が懸念される使い方。セットポジションに入る前には、両腕を左右に広げて胸を開く独特のルーティンまである。
はっきり言って絵にならない、「クセスゴ」なスタイルだ。それなのに、投げ込むボールはすさまじい勢いでホームベースを通過し、捕手のミットを激しく叩く。最速144キロという数字以上に圧力を感じるボールだった。この投げ方で、なぜこんなボールが投げられるのか。私は謎を解明するため、何度も大宮東グラウンドに通った。
冨士は自身の投球スタイルが特殊ということを自覚していた。チームメートが冨士のマネをしようとしても、まったくフィットしないという。
左肘が落ちる点について聞くと、冨士はハキハキとした口調で答えた。
「自分は胸郭を柔らかく使う腕の振りなんですけど、テイクバックで胸を張ると両肘の位置が下がるのは自然だと考えています。技術を勉強するのが好きな兄からも“それで大丈夫だよ”と言われています」
肩・肘の故障歴は皆無。長いイニングを投げても、張りがくるのは背中付近の筋肉だという。つまり、ダメージを軽減できる冨士大和オリジナルのフォームと言えるかもしれない。
甲子園出場歴はないものの、投げればいつも奪三振ショーが展開された。自慢のストレートは「指にかかった球は打たれたことがありません」と豪語する。チェンジアップも一般的な軌道ではなく、100キロ前後で緩やかに届き、打者を幻惑する。
投げ腕もメカニクスも異なるが、冨士を見ていると戸郷翔征(巨人)の高校時代が思い出される。戸郷もまたクセの強い腕の振りをしていたが、放たれたボールにはすさまじい勢いがあった。ともに指導者に個性を認められ、腕の振りをいじられていないという共通点がある。現時点で全国的な注目度はないが、冨士は「左の戸郷」になれる逸材かもしれない。
ドラフト会議を前に、冨士の元には8球団から調査書が届いている。唯一無二の個性を持ったサウスポーは「プロ一本」と退路を断って、10月24日を待つ。
◇冨士 大和(ふじ・やまと)2006年(平18)8月26日生まれ、埼玉県出身の18歳。三橋中では軟式野球部で埼玉県選抜に選ばれる。5歳上の兄・隼斗(日本通運)と同じ大宮東に進学すると、2年春にエースとして埼玉大会ベスト4に導く。左横手から最速144キロの快速球と、独特の軌道を描くチェンジアップを武器にする。1メートル86、80キロ。左投げ左打ち。
◇菊地選手(きくちせんしゅ)1982年(昭57)生まれ。本名・菊地高弘。雑誌「野球小僧」「野球太郎」の編集部員を経て、15年4月からフリーライターに。ドラフト候補の取材をメインに活動し、X上で「大谷翔平」と投稿した最初の人物(10年10月8日)。野球部員の生態を分析する「野球部研究家」としても活動しつつ、さまざまな媒体で選手視点からの記事を寄稿している。著書にあるある本の元祖「野球部あるある」(集英社)などがある。Xアカウント:@kikuchiplayer
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