「光る君へ」ネット反響“新解釈”道長「望月の歌」まひろへの返歌「虚しさ抱きながら」大石静氏語る裏側
スポニチアネックス / 2024年11月24日 20時46分
◇「光る君へ」脚本・大石静氏インタビュー
女優の吉高由里子(36)が主演を務めるNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜後8・00)は24日、第45回「はばたき」が放送され、前回第44回「望月の夜」(11月17日)と合わせて藤原道長の栄華を象徴する「望月の歌」が“新解釈”で描かれた。「源氏物語」誕生と並ぶ今作のクライマックス。“驕り高ぶった歌”という従来のイメージとは異なる一首がSNS上で話題を集めた。脚本の大石静氏(73)に作劇の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
「ふたりっ子」「セカンドバージン」「大恋愛~僕を忘れる君と」などの名作を生み続ける大石氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ63作目。千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を紡いだ女流作家・紫式部の波乱の生涯を描く。大石氏は2006年「功名が辻」以来2回目の大河脚本。吉高は08年「篤姫」以来2回目の大河出演、初主演となった。
第44回は長和5年(1016年)。藤原道長(柄本佑)は摂政と左大臣を兼務したが、公卿たちは道長への権力集中を懸念。藤原公任(町田啓太)は左大臣を辞めるよう忠告した。
寛仁2年(1018年)。藤原彰子(見上愛)が太皇太后、藤原妍子(倉沢杏菜)が皇太后、藤原威子(佐月絵美)(佐月絵美)が中宮に。3つの后の地位を道長の娘が独占した祝いの宴でさえ、父の“道具”にされた娘3人は冷たい態度を示し、妍子は「父上と兄上以外、めでたいと思っている者はおりませぬ」と言い放った。
宴もたけなわになると、道長は歌を詠んだ。
「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる事も 無しと思へば」
実資(秋山竜次)は返歌を詠まず、皆による唱和を呼び掛けた。
孤立していく中、「この夜だけはよい夜だと思いたい」という道長の歌の心は、まひろにだけは伝わっていた。
「望月の歌」は、第36回「待ち望まれた日」(9月22日)、彰子が待望の皇子・敦成(あつひら)親王を産んだ時、まひろが道長の前で詠んだ「めずらしき 光さしそう 盃は もちながらこそ 千代もめぐらめ」への返歌だったのだ。
そして、この日の第45回。宴の翌日、四納言は「望月の歌」について語り合う。源俊賢(本田大輔)は「栄華を極めた今を、歌い上げておられるのでございましょう。何もかも、思いのままであると」と捉え、公任は「今宵はまことによい夜であるなぁ、くらいの軽い気持ちではないのか。道長が皆の前で奢った歌を披露するような人となりではない、藤原行成(渡辺大知)は「私もそう思います。月は后を表しますゆえ、3人の后は望月のように欠けていない、よい夜だ、ということだと思いました」と異を唱えた。藤原斉信(金田哲)は「そうかなぁ」とつぶやいた。
「道長は尊大な人物」のイメージが強いのは「望月の歌」の影響。しかし、今作の時代考証を務める歴史学者・倉本一宏氏によると、実資の日記「小右記」を虚心に読む限り「単なる座興の歌」として記録しており、また「驕り高ぶった歌」という実資評も書かれていない。
大石氏も「道長の傲慢さの象徴とされていますけど、誰がそう言ったのか、いつの時代の人がそう評したのか、ハッキリしないんですよね。(平安文学研究者の)山本淳子先生も『今夜はいい気分だなぁ』ぐらいのニュアンス、とおっしゃっていて」と従来の道長像には懐疑的。
「私たち『光る君へ』チームは、道長の表面だけを見れば、3人の娘が后になって絶頂といえば絶頂ですけど、親友だと思っていた公任から左大臣を辞めるよう促されたり、娘は3人とも自分に批判的で、実は虚しい気持ちを抱きながら詠んだ歌、というオリジナルの解釈に至りました。みんなが唱和する中、まひろだけは道長の虚しさを理解している、という演出になっています。ドラマはスタッフみんなで作るもので、脚本作りも決して私1人が暴走しているわけではなく、常に本打ち(台本打ち合わせ)で方向性を監督陣や考証の先生方と議論しながら探っていきました。チームで価値観を共有しないと、力のある作品はできませんから」
道長が「おまえ(まひろ)の物語も、人の一生は虚しいという物語ではなかったか?」(第44回)と語ったように、「源氏物語」の“もののあわれ”に通じる無常観がさらに色濃くなってきた。
その狙いを尋ねると「だって、あなた(記者)の人生も虚しくないですか?たまに素敵なことはあるし、それに励まされて、私たちはつらいことに向き合うわけですけど、基本は虚しくないですか?頂点に立った人こそ、自分の思い通りにいかないことが大きいんじゃないかな、と。紫式部が物語に書いたのは、すべての人は虚しい存在、ということだと思います。その本質を道長も理解し“オレの人生もままならないけど、今日だけはいい夜だと思いたい”とまひろの方を振り向いて、2人の心はまた通じ合った、ということですよね」と明かした。
「源氏物語」誕生のいきさつと「望月の歌」の解釈は「このドラマで逃げてはならない2つのポイント」と位置づけて構想・執筆。まひろが「源氏物語」を書き始める第31回「月の下で」(8月18日)は、今年頭に1カ月以上悩む“難産”だったが「それに比べると『望月の歌』の方は早めに固まりました。そもそも『源氏物語』がどういうふうに誕生したのか、学問的には分かっていませんし、この作品では、まひろと道長が為時邸で話し込むシーンが中心で、何か事件が起きるわけでもなく、動きがないので凄く難しかったです」と振り返った。
「中島チーフ監督の演出が素晴らしく、過去の知識やアイデアが天から降ってくる様を視覚的に表現し、感動的な『源氏物語』誕生になりました」
制作統括の内田ゆきチーフ・プロデューサーも「私たちも『源氏物語』を勉強する中で、これは単なる恋愛物語じゃない、誰一人として本当に幸せな登場人物がいないんじゃないか、というところに最初に着目して、チームで共有していました。それが終盤の『望月の歌』にも表れる大石さんの見事な展開で、まひろと道長のつながりの一つの到達点になったと思います」と絶賛した。
【参考文献】倉本一宏「紫式部と藤原道長」(講談社現代新書)「小右記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」(角川ソフィア文庫)
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