【阪神 火の玉ルーキーズ】ドラ1・伊原陵人(2) “野球ごっこ”で養った 生命線の制球力
スポニチアネックス / 2024年11月30日 5時18分
阪神ドラフト1位・伊原陵人の原点は“野球ごっこ”だった。三つ子の魂百まで…ではないが、幼少期の遊びが「今の自分の生命線」と語る制球力を身に付ける、きっかけとなった。
初めてボールを握ったのは、2歳の時だった。4歳上の兄・拓人さんが野球をしている姿に憧れ、自宅でボールを投げ出した。
その“投球練習”はとにかく楽しかった。新聞紙を丸めてつくった即席のボールを、和室から4メートルほど離れたリビングにあるテレビ台に向かってひたすら投げた。テレビ台は長方形で、周りにフチが付いていた。フチの枠の中に入ればストライク――。自分流のルールを定め、夢中になって投げ込み続けた。そして、いつの間にやら思い通りに制球できるようになっていた。
「コントロールが上達したのは、あの的当てのおかげかもしれない。自宅はマンションだったけど、下の階も隣の人もいい人で。怒られなかったですね」
小学1年になると晩成フレンズで野球を始めた。遊びから真剣な野球に取り組むことになった。念願の「野球」だが…6年間、野球に没頭したわけではなかった。「試合でうまくいかなかったりすると、すぐに投げ出していた。2年生、3年生の時は何カ月も練習に行かない時期があった」。納得のいく結果が出ないと野球自体が嫌になり、家に引きこもった。まだ“野球ごっこ”の延長だった。
それでも、陵人は野球を嫌いにはならなかった。チームのコーチを務めていた父・伸さんは当時を振り返る。「私がコーチをしていたので陵人は子供ながらにプレッシャーを感じて野球をしていたように見えたんです。本当に好きでやっているのか、分からないような状態でした」。陵人を家に置き、伸さん一人でグラウンドに向かう日が数カ月続いたが、一度も「野球に行け」と迫ることなく、温かく見守った。自分から野球をしたいと声を上げるまで無理強いせずに、待った。
この“ノビノビ育成法”が奏功した。小学4年になると「ちゃんとやろう」と自覚が芽生えた。そして休まずに練習へ向かうようになった。陵人は「自分のやる気が出るまで見守ってくれた両親には感謝しています」と、こうべを垂れる。左利きながら三塁手、遊撃手をこなすユーティリティーとしてプレーを続け、チームの中心選手に成長すると、制球の良さを買われて登板する機会も増えていった。チームメートからも一目置かれる存在となり、周囲は「中学ではすごい選手になる」と想像した。
小学6年時には、進学予定の八木中野球部に体験入部した。ノックを受ける陵人を見た河内剛監督は「楽しみな選手が入ってくる」と胸を躍らせていた。だが、陵人の中には湧き上がる別の思いがあった。入学後に配られた部活動入部希望届。そこに書かれていたのは、「野球部」ではなかった。(松本 航亮)
◇伊原 陵人(いはら・たかと)2000年(平12)8月7日生まれ、奈良県橿原市出身の24歳。小1から晩成フレンズで野球を始め、主に投手。八木中では軟式野球部。智弁学園では2年春から背番号11でベンチ入りし2年秋から背番号1。3年春に甲子園出場。大商大では2年秋に最優秀投手、3年春に最多勝、最優秀防御率でベストナインを受賞。NTT西日本では2年連続で都市対抗出場。1メートル70、77キロ。左投げ左打ち。
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