【内田雅也の追球 ワイド版】問われる球団の真価 阪神電鉄トップがオーナー…従来の形に
スポニチアネックス / 2024年12月14日 8時2分
阪神オーナーが杉山健博から阪神電鉄会長の秦雅夫に代わる。新年1月1日付トップ人事の発表があった。
2年前、前オーナーの藤原崇起(当時阪神電鉄会長)が退任し、新オーナーに阪急電鉄社長などを務めた杉山が就いた。阪急出身者のオーナーは初めてだった。この時、球団会長に秦を据える二頭体制をとった。「球団会長=オーナー」という従来のトップ体制を二分したわけだ。
杉山も秦も「二人三脚」と話したのは詭弁(きべん)に聞こえ、見た目には「呉越同舟」と映っていた。
2005~06年、村上ファンド問題で、阪神電鉄が阪急にホワイトナイトを頼み、阪急阪神ホールディングス(HD)に経営統合した件は球界でも問題視された。阪神球団の親会社の親会社が代わり、いわゆる「30億円問題」が持ち上がった。「阪神球団の経営は阪神電鉄が行う」との覚書が交わされている。後に人事交流も進み、阪神電鉄取締役でもあった杉山がオーナーに就いたのである。
背景には総帥と言える阪急阪神HD会長兼CEO、角和夫の強い意向があった。経営統合の06年以降、1度も優勝していない現状に不満を抱いていた。阪神が推していた平田勝男新監督案を退け、「勝てる監督」として早大後輩で親交もあった岡田彰布起用を命じた。同時にオーナーに杉山が就いたのである。
これが「特例」であることは角自身が認めている。今年8月、本紙の取材に「私が監督を決めさせてもらった2年間でしたが、私ももう退きますし、次の監督は阪神が決める番だと思っています」と語っていた。角は6月の阪急阪神HD株主総会で来年には退任する意向を示していた。よって、歴代阪神オーナーでも3番目に短命の2年で役割を終えた。
特例で短命でも結果を出した。昨年は18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一を果たした。杉山はこの日の会見で「ミッションを果たした」「毎年優勝できる力がついた」と退任理由を語った。
「呉越同舟」だが「阪急」が刺激になったのは間違いない。歴史的にみて、阪神は外部の刺激があってこそ、結果を残している。
球団創設初期は「広商野球」の石本秀一が猛練習で鍛え上げ、黄金時代を築いた。戦後は巨人OBの藤本定義を監督、青田昇をコーチに招き、62年にセ・リーグで初優勝、64年にも優勝している。85年の日本一も外国人監督ドン・ブレイザーや「江川問題」で巨人から移籍した小林繁が内部意識に変革をもたらし、その効果が何年かして現れたのだ。
さらに歴史的に言えば、外部刺激を受けて優勝した後は低迷期が続いている。
昨年の優勝祝賀会の冒頭、球団会長だった秦はあいさつに立ち、8年前に策定した「骨太の方針」が実を結んだと語った。補強に頼らず、自前の選手を育成するという「方針」だ。しかし目指す優勝に何年もかかっていては「骨太」が泣く。
阪神電鉄トップが球団オーナーという従来の形に戻り、阪神の真価が問われることになる。 =敬称略= (編集委員)
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