社会問題を描くドラマ増加 背景は 大反響「ライオンの隠れ家」や「ふてほど」に込められた制作側の思い
スポニチアネックス / 2024年12月21日 9時6分
俳優の柳楽優弥(34)主演のTBS金曜ドラマ「ライオンの隠れ家」最終回が20日に放送され、大きな話題を集めた。キャストの熱演はもちろん、視聴者の関心を引いたのは、虐待やDVなど社会問題も練り込まれたオリジナル脚本による緻密なストーリー。近年は、「多様性」「働き方改革」「セクハラ」などの現代問題をユーモラスに描いた同局「不適切にもほどがある!」や、托卵を描いた「わたしの宝物」(フジテレビ)など、ドラマが社会問題を考える一つの機会となっている。その背景を探る。(中村 綾佳)
2024年は、さまざまなテーマ性のあるドラマが放送された。1月期には、日本テレビ系で「消せない『私』-復讐の連鎖-」が放送。黒田しのぶ氏による漫画「消せない『私』~炎上しつづけるデジタルタトゥー~」が原作で、「デジタルタトゥー」と戦い続けた女性の運命を描き、大きな話題を集めた。
7月期にはフジテレビ系で、宮藤官九郎氏脚本による「新宿野戦病院」を放送。外国人、家出した少年少女、ホームレスなどを受け入れる新宿歌舞伎町の救急病院を“アングラ”感たっぷりに描き、コロナ禍で直面した医療崩壊をはじめ、現代社会への疑念に切り込み風刺的に描いた。
10月期にはNHKの土曜ドラマ枠で、安達祐実主演「3000万」を放送。「闇バイト」をテーマにしたドラマが、今年大問題となった「闇バイト」の現実とリンク。主人公が悪事に手を染めて人格まで豹変していく展開は、視聴者に恐怖感さえ与えた。
流行語大賞にもなった1月期放送のTBS系「不適切にもほどがある!」(ふてほど)も、現代社会を取り巻く問題を考えるきっかけを視聴者に与えた。「多様性」「働き方改革」「セクハラ」「既読スルー」「ルッキズム」「不倫」「分類」「寛容」…社会的なテーマをミュージカルシーンに昇華。阿部サダヲ演じる“昭和のダメおやじ”を通してユーモラスに令和のルールに疑問符を投げかけ、あえて“正解”を描かない展開で、視聴者に問題提起する形となった。
同作を手掛けた磯山晶プロデューサーは、スポニチアネックスの取材に対し「昭和も令和も、どちらもさまざまな問題があるけど、世の中は少しずつ良くなっているはず。またさらに30年後とか、今後さらに良くしていくためにはどうしたらいいか…と考えるようにしています」と、未来への希望も込めて描いたと明かしている。
そして20日、病気や障害のある兄弟姉妹がいる「きょうだい児」の生活や、虐待やDVに関する描写など、社会問題に切り込んだTBS系「ライオンの隠れ家」が完結した。サスペンス要素で視聴者の心をつかみ、後半にかけて登場人物それぞれの境遇や心情をクローズアップした巧みな演出とキャストの熱演が話題を集めた。
松本友香プロデューサーは、取材に対し「社会問題にズバリ切り込みたいという意図はない」とした上で、「ただ、毎日ニュースを見ていても、虐待やDVに関する報道は、時代が変わってもずっと存在している。最近では、子供の親権に関しての法改正もある。そんなタイミングで、このドラマは合うかもしれない…と思いました。不偏的な物語の中に、現代の社会問題をエンターテイメントにして入れ込み、視聴者のみなさまが知る機会になる…という仕組みを、うまく取り入れることができたらいいなと思いました」と意図を語っていた。
サスペンス要素で視聴者を惹きつけた同作だったが、最終回では「きょうだい児」洸人(柳楽)や、自閉症スペクトラム症を抱える美路人(坂東龍汰)の思いにクローズアップ。またDV夫・祥吾(向井理)がゆがんだ愛を抱くにいたった経緯も後半を通して描かれ、視聴者に「なぜこの事件が起こってしまったのか」と考えさせるきっかけを与えた。
「闇バイト」や「風俗堕ち問題」など直接的に表現することがはばかられる問題も、ストーリーにのせることで視聴者に問題提起することができる。「ふてほど」で風刺されたように“ガチガチのコンプライアンス”で固められた現代だからこそ、ドラマが一つの表現手段となっている。時代が反映されるエンタメが今後どのように変化していくのか、2025年のドラマにも注目したい。
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