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【内田雅也の追球】蔦は生き続ける。

スポニチアネックス / 2025年1月8日 8時3分

作業員に撤去される甲子園球場外壁のツタ(1月6日撮影)

 新年を迎え、甲子園球場の外壁を覆う蔦(つた)を取り外す作業が始まっている。アルプススタンドまでの銀傘拡張工事で、外周に土台となる建屋を建設するため、蔦は邪魔になる。

 では、撤去した蔦はどうなるのか。工事を管轄する阪神電鉄スポーツ・エンタテインメント統括部の担当者によると、蔦は他の場所に移植されるという。内野、外野スタンドなど球場の他の外壁や、甲子園室内練習場、さらに今春3月開場となる尼崎のファーム施設内に植えられる。

 さらに「蔦の命はつないでいくという考え方で一致している」という。

 球場誕生は1924(大正13)年8月1日。同年秋から冬にかけ、コンクリート打ちっ放しだった外壁を飾るように植栽された蔦は、長い年月を経て、甲子園のシンボルとなっている。

 1945(昭和20)年8月6日の西宮大空襲では焼夷(しょうい)弾を受け一塁アルプススタンドが炎上、蔦も燃えた。戦後の物資不足の折には阪神パークのゾウのふんを肥料にして生き抜いた。100年以上つないできた蔦の命の尊さを関係者全員が承知している。

 「平成の大改修」と呼ばれた2006年秋からのリニューアル工事で、蔦は一時伐採された。当時も「歴史と伝統の継承」というコンセプトの下、「蔦の再生プロジェクト」が行われた。日本高校野球連盟は2000年夏、全国の加盟校に蔦の苗木を贈呈。生育の良い蔦を甲子園に「里帰り」させた。また伐採当時の種を養生地で育て、再び球場に植えつけた。

 今回の銀傘拡張工事は昨年11月に始まり、毎年オフシーズンに行われる。一、三塁側アルプススタンドに隣接して、6階建ての建屋を設け、ガルバリウム鋼板製の銀傘を架ける。総工費約150億円。2028年3月に完成予定だ。

 新しくできる建屋の外壁を再び移植した蔦で覆うかどうかは、決まっていない。先の担当者によると、建屋建設で外周スペースが狭くなり、高校野球開催時の応援団待機場所も限られてくる。蔦を植栽するとなれば、さらにスペースが取られる。このため現状では建屋外壁は蔦がない状態を想定している。ただし、担当者は「ひとまず、蔦は移植する。何かいいアイデアがあれば考えたい」と話した。 =敬称略= (編集委員)

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