豊昇龍「思わず涙」の逆転Vで横綱昇進へ 「絶対優勝する」夫人に約束 「うちは雲龍かな」おどける場面も

＜大相撲初場所千秋楽＞立浪親方（中央右）、父・スガラクチャさん（右）らから銀盃にお酒をついでもらい、笑顔の豊昇龍（中央）（撮影・木村　揚輔）

　◇大相撲初場所千秋楽（2025年1月26日　両国国技館）

　トップと1差の3敗で千秋楽を迎えた大関・豊昇龍が9場所ぶり2度目の優勝を飾り、横綱昇進を確実にした。2敗で単独首位だった平幕・金峰山が本割で敗れ、平幕・王鵬を含めた三つ巴の優勝決定戦で2連勝した。八角理事長（元横綱・北勝海）は昇進を預かる審判部の臨時理事会開催要請を受諾。きょう27日の横綱審議委員会の推薦を経て、29日にもモンゴル6人目となる第74代横綱・豊昇龍が誕生する。

　最後の力を振り絞って同期の王鵬を寄り切る。9場所ぶり、そして大関初の優勝が現実となったその瞬間、豊昇龍は髪を振り乱し大きくうなずいた。目にはうっすら涙。支度部屋に戻っても激しい息の乱れが止まらない。「思わず涙が出ちゃった。うれし涙は初優勝の時と2度目。どっちも決定戦がヤバいよね」。優勝の要因を問われると「自分を信じて結果を出せた」と納得の表情を見せた。

　1差で迎えた千秋楽。本割で単独首位の金峰山が王鵬に敗れた瞬間。西の支度部屋で準備運動のピッチが加速した。「このチャンスは絶対に逃さないと思った」。結びで琴桜を下し、短いインターバルで巴戦に臨んだ。ここ1年酒断ちするなど生活習慣も変えた。本割を含め約20分で3番の過酷な条件だったが、抜群の集中力と厳しい攻めで金峰山、王鵬を連破した。

　「先場所で優勝を逃したので今場所こそという気持ちをぶつけた」。九州場所は千秋楽相星決戦で敗れ、1勝の重みを痛感。有力後援者の夫人にも「絶対に優勝する」と約束していた。気負いからか、9日目の時点で平幕に3敗。絶体絶命の危機に追い込まれたが、師匠、立浪親方の「楽しんで」という言葉に背中を押された。連敗を止めた10日目、師匠に「もう大丈夫です」とアピール。破竹の“8連勝”で綱獲りを果たした。

　レスリング留学した日体大柏高時代の15年5月。校外学習で観戦した相撲に魅了された。その夜に同校の指導者、永井明慶さん（42）に翻訳アプリで「力士になりたい。横綱になりたい」と伝えた。あれから約10年、当時、体重60キロ台の細身だった少年がついに夢をかなえた。

　審判部が八角理事長に臨時理事会の開催を要請し、きょう27日の横綱審議委員会の答申を経て29日にも横綱昇進が決定する。周囲の祝福の声には耳をふさぐが「うちの一門は（土俵入りは）雲龍かな」とおどける場面も。場所中には一人横綱だった照ノ富士が引退。1993年初場所以来の横綱空位の危機に直面したが、モンゴルの後輩が見事に後継者に名乗り出た。　（黒田　健司郎）

　◇豊昇龍　智勝（ほうしょうりゅう・ともかつ＝本名スガラグチャー・ビャンバスレン）1999年5月22日生まれ、モンゴル・ウランバートル出身の25歳。15年に来日し、柏日体高にレスリング留学。高1の途中で相撲部に転籍。高校総体準優勝などの実績を残す。立浪部屋に入門し18年初場所で初土俵を踏み19年九州場所で新十両、20年秋場所で新入幕を果たした。22年春場所に小結に昇進。23年名古屋場所で初優勝し、場所後に大関に昇進した。叔父に元横綱・朝青龍。得意は右四つ、寄り、投げ。1メートル88、149キロ。

　▽1961年秋場所の巴戦　大関の大鵬、柏戸と平幕・明武谷が12勝3敗で並び巴戦に突入。まず柏戸が明武谷を寄り切りで下し、次に大鵬が柏戸をうっちゃり、勝利。続いて大鵬が明武谷を一気に寄り切って、3度目の優勝。場所後に、大鵬と柏戸が横綱に同時昇進し、柏鵬時代の幕が開いた。