大谷の父・徹さん 野球界の裾野拡大に奮闘 地方で深刻化、プレー人口減少の問題と向き合う
スポニチアネックス / 2025年1月29日 5時33分
ドジャースの大谷翔平投手(30)の父・徹さん(62)が監督を務める中学生の硬式野球チーム「金ケ崎リトルシニア」は、部員不足に悩まされている。今春の入部予定者は、創部1年目を除けば過去最少となる3人。「見る」野球人気は全国的に高まる一方で、「プレーする」競技人口減少は都市部よりも地方で深刻な問題だ。昨年は5年ぶりに全国大会出場を果たすなど結果は出ている。チーム存続へ、徹さんの奮闘に迫った。 (取材・柳原 直之)
今年の岩手は雪が少ない。グラウンドの近隣を流れる北上川からは湯気のような霧が立ち込めていた。気温0度の午前9時。金ケ崎リトルシニアの選手たちは白い息を吐きながらキャッチボールを行い、室内練習場で甲高い打球音を響かせた。
監督を務める大谷の父・徹さんは、時に打撃投手も担う。練習の合間に選手同士で冗談を言い合うなど笑顔あふれる風景に「練習する時とリラックスする時の切り替えが大事」と表情を緩ませた。
大谷のプロ2年目の14年、生まれ故郷の奥州市に程近い金ケ崎町に創部し、花巻東で高校通算歴代最多140本塁打を放ったスタンフォード大の佐々木麟太郎や、昨秋の東京六大学野球で32年ぶりに1年生首位打者となった法大の熊谷陸らを輩出してきた。ところが、現チームは2年生18人、1年生9人。今春入部予定の小6が3人で、部員減少の流れが続くこのままでは今秋の新人大会の出場もままならず、徹さんは「入部体験会や公式サイトでの告知もしているが集まらない」と頭を悩ませていた。
大谷の歴史的な活躍もあり野球ファンは増えて熱も高まる一方だが、全日本野球協会によれば、競技人口は14年の約142万413人から、23年は87万5591人で約54万人も減少している。少子化に加え、保護者の負担が重いことも部員数減の一因とされる。とはいえ都市部に比べ、地方は公共交通機関も少なく、練習試合の審判、アナウンス、送迎など「保護者の方々の協力なしには、チームが成り立っていかない」のが実情。中には宮古市から片道2時間かけ、保護者が車で送迎する部員もいるという。
一方、昨夏は5年ぶり2度目の全国大会出場を果たすなど着実に結果は出ている。21年冬に廃校となった小学校の体育館を改装した室内練習場が完成し、冬も打撃や投球が可能に。冬場以外は岩手県立農業大学校のグラウンドをメイン練習場に使用する。
指導方針は、打撃や走塁に重きを置く攻撃的スタイル。打撃練習では「ボールの内側を叩いて逆方向へ」と助言し、大谷も少年時代に繰り返したという逆方向への強い打球を意識させている。采配も送りバントは極力避け、ヒットエンドランなど「打って終わる」。走塁は「投手の投球がワンバウンドになると思ったら盗塁のスタートを切る」、「偽走スタート」を徹底。大谷ばりに積極的な走塁で得点を重ねる。
現1年生から赤とグレーを基調にしたユニホームから、青とグレーに変更した。元々は花巻東のグレーと、創部当初に室内施設を借りるなどつながりが深く、大谷の兄・龍太さんが新監督に就任した社会人のトヨタ自動車東日本の赤だったが、「翔平がドジャースに移籍したので、ドジャーブルーにしましょうという声が周りから自然と上がった」。今秋の公式戦からチーム全体として青とグレーの新ユニホームで戦う。
「勝ち負けは二の次。成長段階なのであまり無理はさせたくない。高校で結果を出すことをにらんだ形で育成していきたい」。岩手から日本一、岩手から世界へ――。その礎を築くべく、徹さんはグラウンドで汗を拭う。
【大谷は一関リトルシニア 徹さんはコーチで指導】
大谷は水沢市(現奥州市)の姉体小2年時から水沢リトルリーグで野球を始めた。水沢南中では一関市の一関リトルシニアに所属し、3年春に主将として京セラドームで行われた全国大会に初出場を果たしたが、初戦で優勝した世田谷西リトルシニアに敗れた。徹さんは水沢リトルリーグでは監督も務め、一関リトルシニアではコーチとして大谷を指導した。
【三浦&及川意識 攻めの走塁徹底】
徹さんの攻撃的指導法はチームに浸透している。主将の一塁手・三浦孝介(2年)は「捕手が後ろにそらしたら、どんどん次の塁に行こうと言われている。足が遅くても判断が良ければ次の塁を狙える」と説明。1、2番を任される外野手兼投手の及川裕翔(2年)も「チャンスさえあれば常に本塁を狙っている」と言う。1年生には1メートル85、足のサイズ30センチを誇る投手兼外野手の佐藤大星ら大型選手も控える。
【女子部員も4人所属】
女子選手も4人所属している。1年生2人、2年生2人で、チームの他に「東北レディース」として女子の全国大会にも出場する。投手兼二塁手の大和田菜摘(2年=写真<右>)は「兄も野球をしていて楽しそうだった。4人いるので男子の中でもやりやすい」と話した。佐々木麟太郎の妹で花巻東3年の秋羽(しゅう)も同シニアOGで、今季から読売ジャイアンツ女子チームに加わり、4月入学の筑波大でも硬式野球部に所属する「二刀流」生活をスタートさせる。
【部員随時募集中】
◯…金ケ崎リトルシニアでは随時、部員を募集している。監督の徹さん以外にも、コーチ4人が在籍。平日は水木の午後7~9時、土日祝は午前9時~午後4時に活動し、冬場は学年ごとに時間帯を分けて練習している。問い合わせは事務局メールアドレス(kanegasaki@littlesenior-tohoku.net)、公式サイトは「金ケ崎リトルシニア」で検索。
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