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舘野泉さん 88歳・左手のピアニスト 好奇心が奏でるVIVACE(ビバーチェ)な人生

スポニチアネックス / 2025年1月31日 5時3分

自宅のリビングでピアノに手を置く舘野泉さん

 【だから元気!】著名人に健康や元気の秘訣(ひけつ)を語ってもらう企画「だから元気!」。今回は、ピアニストの舘野泉さん(88)です。リサイタル中に倒れ、意識不明になったのは65歳の時。2年のリハビリ生活後、“左手のピアニスト”として復帰。卒寿を控えた現在も、国内外を飛び回っています。その原動力は「好奇心!」と教えてくれました。(構成・西村 綾乃)

 食べることが大好き。イタリア、ベトナム、フィリピン。訪問した国を思い浮かべると、そこには楽しい食の思い出も共にあります。自宅でピアノの練習をした後、自分で作った料理で晩酌をすることを楽しみにしていました。最近は長く立っているのがつらくなって、調理をする機会が少なくなりましたが、何でも好き嫌いなく食べるところは変わっていません。

 東京芸大卒業後、27歳でフィンランドに移住。現地の大学で教壇に立ったり、奏者として活動していました。

 転機は65歳の時。フィンランドでの公演中に脳出血で倒れ意識不明になり、2カ月ほど寝たきりの生活を送りました。右半身を思うように動かすことができなくなりましたが、ピアノを諦めるという選択肢を持ったことはありませんでした。倒れてから1年ほどたった2003年に、息子からフランク・ブリッジが左手の奏者のために書いた楽譜「3つのインプロヴィゼーション」を渡され、音が香ってくるのを感じました。「大変でしたね」と言われることもありますが、僕は「右手を奪われたのではなく、左手の音楽を与えられた」と考えて悲観的になったことはありません。

 23年3月に、50年連れ添った妻・マリアを見送りました。僕に残された人生の時間を考え、昨年9月に最後に行って演奏したい国として挙げていたインドとブータン、ネパールを訪れました。

 インドは40年ぶり。道はガタガタ、車の横を牛が歩いていたり、交通事情は悪いのですが、雑然としているところに生きていくエネルギーを感じました。

 インドではクラシック音楽があまりメジャーではありません。公演用に3台のピアノが集められましたが、いずれも厳しい気象条件から、ふやけてしまって演奏できる状態ではありませんでした。そこにターバンを巻いた現地の調律師がやってきて、マジシャンのように直してくれた。子供の頃、闇市で見た蛇使いを思い出してワクワクしました。

 終戦後、物がない時代を経験しているので、ピアノもその場に置かれているもので何ができるかを考える。1時間くらい弾くと、ピアノがよみがえってくることを感じました。

 会場は音楽専用ではなく、反響板がありません。演奏直後から首を絞められている感覚になり、1分ほどで手を止めてしまいました。「カーテンを開けてはいけない」と言われていましたが、窓を開けた所に見えた“岩”に当てて演奏しようと思いつきました。

 再開後は響きが広がるのを感じ、ホッとしました。僕が演奏する曲は、全て左手のための曲。生まれて初めて聴く人も多かったと思いますが、ピアノと一緒に呼吸をしていることを感じました。客席に目をやると、通路にも人があふれていて驚きました。定員250人のところに、倍の500人が集まっていたそうです。

 実はこの取材を受ける10日ほど前に84歳の弟が心臓発作で亡くなりました。「いつまで弾けるかは神のみぞ知ること」。自分にも人にも語りかけるように演奏することが僕の一番の喜びです。生きている時間は、一つとして同じ瞬間はなく、アクシデントも楽しむ好奇心が僕の原動力です。

 ≪チェロ奏者の矢口里菜子氏と3月に演奏会≫3月3日に東京・紀尾井ホールでチェリストの矢口里菜子氏と2人だけの演奏会を開く。33歳の矢口氏とは55歳差だが「深いところから湧き出てくる情熱がある」と絶賛。「釣り竿を魚に引かれているような感覚が楽しい」と共演を心待ちにしている。舘野さんのために書き下ろされた、松平頼暁氏の「Incarnation」、coba氏の「Tokyo Cabaret」などを演奏。コンサート後は「ぜひキャバレーに繰り出して」と呼びかけた。

 ≪幼少期から本の虫≫「経験した全てが音楽の栄養になる」というが、幼少期から本の虫で、書棚には本がぎっしり。南米ならガブリエル・ガルシアマルケスの作品を通じて、文学や音楽が生まれた背景に思いを巡らせる。「一番好きなのは室生犀星」で、中でも交流があった北原白秋、高村光太郎、島崎藤村らについてまとめた「我が愛する詩人の伝記」がお気に入り。「腹の底から好きだという思いが伝わってくる。好きだという熱に突き動かされる」と今も胸をときめかせている。

 ◇舘野 泉(たての・いずみ)1936年(昭11)11月10日生まれ、東京都出身の88歳。父はチェリスト、母はピアニストの音楽一家で、5歳の時にピアノを始めた。豊増昇、レオニード・コハンスキーらに師事。東京芸大を首席で卒業した60年の9月にデビュー。2002年、コンサート中に脳出血で倒れ、右半身不随に。リハビリ生活を経て04年に「左手のピアニスト」として活動を再開した。その左手のために作られた作品は100曲を超えている。

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