【内田雅也の追球】バットも待つ「球春」がやってくる
スポニチアネックス / 2025年1月31日 8時0分
全国高校野球選手権大会50回を記念して撮られた記録映画『青春』(1968年、監督・市川崑)は冒頭で無人の真冬の甲子園球場が映し出される。青い文字でタイトルが浮かび上がる。
北国チームの薄暗い部室で、ガサゴソ……コン……コツン……と道具を取り出す音が聞こえる。グラブやボール、バットを手に部員たちが雪のグラウンドに飛びだす。野球シーズンを待ち焦がれる心情がわき上がる。
「野球のない冬の間はどうしているのか?」と問われたロジャース・ホーンスビーが答えている。2度三冠王となった1910―30年代の強打者だ。「窓の外を眺め、春が来るのを待つんだ」
同じく1910年代に活躍した“シューレス”ジョー・ジャクソンはオフの間、故郷のサウスカロライナにバットを持ち帰った。「すこしでも野球がわかっている人ならば、バットと打者は似たもの同士なのを知っているはずだ。バットも寒さを嫌うのだ」
地元のバット製造職人がヒッコリーを削りあげ、タバコの汁を二度塗りした黒いバットだった。ジョーは愛称「ブラック・ベッツィ」を磨き、綿布で大事に包んだ。ドナルド・グロップマンの書いた評伝『折れた黒バット』にある。
日本のプロ野球では今年からバットの「表面加工」が解禁される。1981年から禁止されていたが、調査の結果、反発係数にほとんど変化がなかったためだ。ただ、昔の打者はバットの手入れとして、表面をビール瓶や牛骨でしごいた。木目を詰めることで圧縮感が出ると言われる。44年ぶり解禁で、どんな変化があるのか注目したい。
そんなバットたち(もちろん、ボールもグラブも……)も待ち遠しい球春が近づいた。プロ野球のキャンプインが迫った。きょう31日には全選手がキャンプ地に入る。
冒頭に書いた映画『青春』で最も印象的な光景は、菜の花に囲まれたグラウンドでのノックだった。萩元晴彦も『甲子園を忘れたことがない』で取り上げている。<ノックをする。選手がボールに飛びつく。その果てしない繰り返し。選手は遂(つい)に倒れてしばらくは起き上がれないのだが、彼は歯をくいしばって起き上がり「さあ来い」と身構え、再びノックがつづけられる――>。
ただ、これだけのシーンが心を打つ。それが球春である。 =敬称略=
(編集委員)
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