三十路に突入した佐藤健の本気がバクハツ!映画『ひとよ』は超重量級の人間ドラマだった

Suits-woman.jp / 2019年11月8日 9時0分

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桑原裕子による戯曲を『孤狼の血』の白石和彌監督が映画化した『ひとよ』。佐藤健、 田中裕子ら、真の実力派が顔を揃えたこの人間ドラマは、血にしばられたある家族の物語です。まさに演技合戦の様相を呈す、その中身とは?

『ひとよ』 (C)2019「ひとよ」製作委員会

『ひとよ』
(配給:日活)●監督:白石和彌 ●脚本:髙橋泉 ●出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介・田中裕子  ●11月8日全国ロードショー

(あらすじ)
子どもたちを救うために暴力を振るう夫を殺害し、警察へ出頭した母、こはる(田中裕子)。15年後、小説家志望だった次男の雄二(佐藤健)は上京して大衆雑誌のライターになり、長男の大樹(鈴木亮平)と長女の園子(松岡茉優)は地元に残る。大樹は地元の電気店の娘(MEGUMI)と結婚して雇われ専務に、園子(松岡茉優)は寂れたスナックで働いていた。そこへ突然、こはるが姿を現す。

■ある殺人事件、その15年後の物語
 「これからは好きに生きていける。なんにでもなれる。お母さんさっき、お父さんを殺しました」。タクシー会社の制服を着た母、こはるが3 人の子どもたちにそう告げる。え……いったい、なにが起こったの!? ――映画『ひとよ』は、始まりからヘビー級の空気が漂います。監督は白石和彌。『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『凪待ち』とここ数年、とてつもないハイペースで、内容的にも多岐に渡り、でもいずれも高いレベルの作品を連打する脂ノリノリの人。こんどの新作もまた、終始一貫して密度の高いシーンが連続する人間ドラマに仕上げています。

舞台はどことも知れぬ、たいした特徴もない地方のある町です。日本中のどこにでもありそうな、どこを切り取っても心躍るものがなにもないような、そんな町。そこに根づいた家族経営のタクシー会社「稲村タクシー」、そこで事件が起こるのです。被害者は幼い三兄妹に容赦ない暴力を振るってきた父親で、加害者は子どもを守ろうと自ら夫に手をかけることになる母親。そこから15年後、再会した4人の姿を描いていきます。

母親が殺人者となった子どもたちは、そのあとの人生をどうサバイブしたのでしょう?田舎の町でそんな大事件が隠し通せるはずはありません。どこへ行っても殺人者の(そして被害者の)子と後ろ指を指され、他人の目を気にし、自身もその事実の重みを抱えきれずに生きてきたはずです。それでまず次男は家族から物理的な距離を置いて東京で暮らしますが、夢だった小説家の道とは程遠く、大衆雑誌でエロ記事などを担当したりするフリーライターになっています。長男の大樹は3人のなかで唯一家庭を持っていますが、妻とはうまくいってなくて離婚寸前。婿入りした地元の小さな電気店で働いています。長女の園子は美容師になる夢を諦め、地元のショボいスナック勤めです。

そして母こはるの甥が継いだ「稲丸タクシー」、そこへ15年ぶりに、ひょいとこはるが姿を現すのです。

15年ぶりに再会する母と息子。異様な緊張感が漂う。

■隅々まで見応えたっぷりな演技合戦

白石監督の最新作、それが邦画の世界でどれほどの期待感を持って迎えられるのかは、出演者の顔ぶれを見れば一発でわかります。

まず次男の雄二を演じるのは佐藤健です。え、これ佐藤健?と思うような、特に格好よくもない(あんなにハンサムなのに!)無精ヒゲ姿。しかも髪の毛は伸ばしっぱなしでやさぐれ感が満載です。雄二はなんせフリーライターですから。『るろうに剣心』のときの彼のように、存在がキレっきれでは説得力がありません。体の線もどこかゆるく、なんとなく生きることにだらしない日常が透けて見えるようです。めっちゃリアル。それでいて、目線の動かし方ひとつで雄二の感情が画面を通してびんびん伝わります。ずっとその顔を、表情の移り変わりを眺めていたくなる。佐藤健は今年30歳。朝ドラ『半分、青い。』でヒロインをキュンとさせる相手役、『義母と娘のブルース』でのナチュラルな笑いを誘う肩の力の抜けた演技、『ハード・コア』でのダメ兄貴(←山田孝之演じる)を心底バカにする甘さゼロの商社マンと、俳優としての面白味が加速度を上げているようです。

長男の大樹を演じるのは大河ドラマ『西郷どん』での主演も記憶に新しい、鈴木亮平です。大樹は吃音のためもともと人とコミュニケーションを取るのが苦手。なのに母親の起こした事件によって意に反して人の注目を集めることになり、大きな体を縮こませるように生きてきたのでしょう。背中を丸め、声も小さい。鈴木亮平は繰り返しますが、この前まで“西郷どん”だったのに。大樹の抱える自己嫌悪、ねじれて絶たれて行き場を失った母親を求める想いから?自身のなかに感じる憎むべき父親との共通点を人に悟られたくないから?周囲に壁を巡らして心を閉ざす男を体現します。

長女の園子には、あんな役もこんな役も!と引っ張りだこの松岡茉優。知的で明るい女優さんなのに、映画の中ではスナックに勤める体の薄い、顔色の青白い女の人そのもの。夢を諦めて日々、夜の世界で生きるしかない絶望を抱きつつ、母親との再会を唯一素直に喜ぶ妹キャラを、物語のなかですんなりと成立させます。まさに実力派!

次男・雄二役の佐藤健、長女・園子役の松岡茉優、長男・大樹役の鈴木亮平。他にも主役級がズラリ。

そして、こはるを演じられるのは田中裕子しかいなかったのではないでしょうか?1ミリのブレも迷いも躊躇もなく、ただただこはるとして映画のなかに存在します。その姿はいかにもな殺人者ではもちろんないし、子どもを救うために夫を殺した母性愛に満ちた母親そのもの、というもうひとつの“いかにも”でもない。黙ってカメラを見つめるだけで人を殺したことのある人間のただならぬ凄味やら捉えどころのなさがそこに映し出され、ごく当たり前の母親が子どもを想う哀しみのようなものが静かに立ち上がるのです。今回、自らの提案で白髪で演じたそうですが、老いていくシワやシミも隠さずに、でん!とそこにいる。なにもかもがあまりに自然過ぎて当たり前に思え、なにも言わなくてもそこはかとなく人間のおかしみを感じさせたりもする。樹木希林亡きあと、そのレベルに達する女優は、田中裕子くらいしか思い浮かびません。

そのこはるが15年ぶりの再会で目にするのは、自分の人生を台無しにしてまで勝ち取った子どもたちの輝かしい未来、ではありませんでした。その絶望。そして子どもたちの、父親の暴力から解放されたあと、こんどは殺人者の子どもであるという十字架を背負って生きた怒りや憎しみ。どちらのドラマも血のつながりがあるからこその行き場のなさで、あまりに息苦しい。けれどそれを緻密に丁寧に正確に描いた果てには、物語が熱を帯びてうねり、なにか決定的な手応えのある満足感が生れるから不思議です。

そしてオマケ。佐々木蔵之介が「稲丸タクシー」のワケ有りな新人ドライバーを演じます。その破壊力よ!脇に回った蔵之介の正統派な大人の役者、というだけじゃない切れ味の鋭さをご堪能ください。

こはる役の田中裕子。年齢を重ねて、格好よくなる希少な女優!

文/浅見祥子 

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