『だから私は推しました』が話題 オタクの“あるある”描写が秀逸のNHK土曜夜のドラマ
日本タレント名鑑 / 2019年8月22日 15時50分
現在NHKよるドラ枠で放送中の『だから私は推しました』(毎週土曜23時30分〜放送)が、ディープなアイドルオタクの世界をリアルに描いて話題になっています。
NHKの土曜日のドラマでは、これまでも特撮オタクを扱った『トクサツガガガ』やボーイズラブ好きの女子高生がヒロイン役の『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』などマニアックな世界を描いた作品が続いていますが、今回の作品もその“あるある”感がいっぱいの描写が当事者を中心に共感を呼んでいます。
その魅力を探ります。
■主人公がハマる劇中アイドルグループはリアルな展開でも人気
『だから私は推しました』は、会社でも恋愛でもうまくいかず、SNSで“いいね”をもらうことにとらわれているような女性・愛(桜井ユキ)が主人公。そんな彼女が一人の冴えない地下アイドル・ハナ(白石聖)と出会い、ライブを見て勇気をもらったことをきっかけに全力で推していくことを決めます。自ら愛したものに突き進み、その転落と成長を、“地下”のディープな世界の中で描いています。
本作の中で主人公・愛がハマる、ハナが所属する地下アイドルグループ「サニーサイドアップ」も話題になっています。メンバー役を、白石聖さん、松田るかさん、田中珠里さん、松川星さん、天木じゅんさんの5人のフレッシュ女優が演じています。
ハナは中心メンバーでないどころか、歌もダンスも下手で、おまけに人見知りというダメダメなアイドル、それゆえに愛は、自分を彼女の存在と重ね合わせ、ハマってしまいます。
ハナを演じる白石聖さんは2016年に女優デビュー。昨年ドラマ『I"s』(BSスカパー! ) でヒロイン・葦月伊織 役を演じ注目され、2月から放送されたドラマ『絶対正義』(東海テレビ/フジテレビ系) では主人公・高規範子の高校生時代と、その娘・高規律子役を演じ、その“怪演”が高い評価を得ました。また今年、リクルート「ゼクシィ」のイメージガールに選ばれた、今特に旬といわれる若手女優の一人です。
「サニーサイドアップ」は“超期間限定アイドル”としてリアルなアイドル活動も行っています。8月初旬、NHK大阪放送局で行われたイベントにもサニーサイドアップとして出演しライブを行いました。さらにメンバーの奮闘ぶりやその素顔など、ドラマでは描かれないバックサイドのストーリーを発信するサニーサイドアップの公式 Twitter アカウントも開設、8月中旬現在17000フォロワーを集めています。
■“オタバレ”を恐れる描写など主人公の心のうちの描写に評判
このNHKの土曜夜のドラマ、今年1月から放送された『トクサツガガガ』では、小芝風花さん演じる26歳のOLが、会社での女子力高めなイメージとは裏腹に、戦隊ヒーローの大ファンで特撮オタクというもう一つの顔をもち、自身の趣味をひた隠しにして生きてきましたが、オタク仲間の輪が広がっていき、心を開放していくことで人間的に成長していく様を描いていました。その特撮仲間たちとのコミカルなやりとりがとてもリアルで可笑しかったです。
そして4月から、『だから私は〜』と同じ“よるドラ”枠で放送された『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』では、自身がゲイであることを自覚している主人公・純(金子大地)と付き合うことになる、ボーイズラブ好きのヒロイン“三浦さん”(藤野涼子)の繊細な心のうちを描き、好評を得ていました。
そして今回の『だから私は推しました』では、主人公の心のうちや、アイドルファン同士の人間関係の描写、コミュニケーションがリアルで面白い。ライブ終了後に居酒屋で飲み会をやったり、その中でのファン同士の掛け合いも“あるある感”がいっぱいです。
ドラマ中に登場するアイテムも、アイドルがファンを獲得するのに今や欠かせないアイテムとなった「SHOWROOM」を思わせるような動画配信プラットフォームが登場し、それが物語のなかの一つの重要なアイテムになっていたり、今や多くのアイドルが出場を目指すフェスイベント「TOKYO IDOL FESTIVAL」を思わせるようなイベントも登場。ライブシーンでは“MIX”と呼ばれる、曲のイントロに乗せる特有のコールや、アイドルに愛を込めて手をステージに向けて送る“ケチャ”と呼ばれる振りなど、アイドルオタク必須のアイテムや応援方法が具体的に登場し、そのこだわりも好評です。
また自分がアイドルオタクであることを周りに知られることを恐れ、その心のなかを描く描写も絶妙です。この“オタバレ”を恐れるヒロインの葛藤は『トクサツガガガ』や『腐女子〜』でもコミカルに描かれ、当事者のオタク女性たちの共感を呼んでいました。
■主人公やアイドルファン仲間の描写がリアルな理由は
『だから私は推しました』では、そのディテールの細かさから、制作にあたってスタッフが入念に取材をしてきたと思われます。その一方、スタッフ内にアイドル好きで、現場に頻繁に足を運んでいる人がいるのではないかと思っていたのですが、担当女性プロデューサー自身がアイドル好きだそうで、握手会やイベントに顔を出しているとのこと。自分が完全な主人公のモデルというわけではないと思いますが、自分の中にある要素をキャラクター作りに投影している部分もあるのではと思います。
脚本の段階ではわりとフラットな描写でアイドルファンを描かれていたそうですが、演出の段階で、アイドルファンの熱量や、特有の物言いや振る舞いなどが増幅して表現され、それがより共感を呼ぶ内容になっています。さらに、地下アイドルの描写にあたっては、アイドル活動経験がありライターとして活動する姫乃たまさんの意見も取り入れているとのことで、それも作品にリアリティを与えています。「サニーサイドアップ」の5人のメンバーのキャラクター分けもしっかりと練られ、“NHK最強のアイドル”を作るべく、オーディションを実施し、現在の5人に決まったといいます。
主人公のオタクのリアルな心理描写、“あるある”が絶妙の作品、これを民放の深夜番組やネットTVなどではなくNHKでやることが面白いところ。このディープな世界感が広くお茶の間レベルで認知されることも、『だから私は〜』をはじめ一連のNHKの土曜のドラマのポイントだと思います。
文/田中裕幸
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