犬肉を食べるのは伝統文化か、動物虐待か?中国の「犬肉祭り」に行ってみた
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年6月27日 7時0分
毎年6月、世界中から注目を集める街が、中国にある。理由はここで開かれる「犬肉祭り」。犬肉を食べるのは伝統文化か、それとも動物虐待か?犬肉祭りを歩いてみた。
「香ばしくておいしい」「体力がつく」…1万匹が食べられる「犬肉祭り」
刺すような日差しが容赦なく降り注ぐ。熱帯特有の緩やかな空気が流れる。中国南部、広西チワン族自治区、玉林市。ベトナム国境に近く、人の顔つきも街並みも、街を走り回るバイクの多さも、東南アジアをほうふつとさせる。
この人口600万人の玉林市が有名になったのは2010年から行われている、その名も「犬肉祭り」のおかげだ。
中国では古くから「夏至の日に犬肉を食べると体にいい」と言われていて、2024年も夏至の6月21日に「犬肉祭り」が開かれた。毎年数万人が訪れるという「犬肉祭り」。期間中、約1万匹が食べられるという。さっそく、犬肉料理を食べている人たちに聞いてみると…。
観光客:
おいしいよ。一口食べてみなよ。香ばしくておいしいよ
地元の人:
もちろんおいしいよ。あなたも食べてみる?体が比較的弱っているときに食べると、体力がつくよ。あなたたちが牛肉を食べるのと同じだよ。
犬肉料理は甘辛く味付けがしてあり、鳥とも豚とも牛とも違う、独特な食感がある。臭みはない。コラーゲンが多く、豚足に近い味、というとイメージがわくかもしれない。酒のつまみという感じ。確かに白酒を飲みながら食べている人の姿が目に付いた。玉林市では夏至の日だけではなく、年間を通じ自宅でも日常的に犬肉を食べるのだという。
調理するのは食べるため専用に飼育された犬。玉林市内だけでも犬肉を出す店は500軒以上、犬肉の仕事に携わる人は数千人に上るという。市場ではきれいに処理された犬たちが500グラム24元(日本円で約500円)で売られていた。
韓国では「犬肉禁止」 中国では…「私たちは韓国人じゃない」
中国メディアによると、世界では年間2000万匹から3000万匹の犬が食べられており、うち1000万匹から1500万匹が中国で消費されているという。中国は世界一の犬肉消費国なのだ。中国では南部だけでなく、北部でも犬肉を食べる文化が根付いている。
犬肉をめぐっては韓国で2024年1月、食用目的で犬を飼育することや犬肉を販売することを禁止する法律が成立した。犬を飼育する農家や飲食店が打撃を受けるのではという懸念もあったが、2022年の世論調査では6割以上が犬肉を食べることに否定的だったという。
韓国の動きについて中国の人たちはどう思っているのだろうか?
犬肉店の店員:
これは伝統文化なので中国では禁止になりません。
ーー犬肉を食べることに反対の意見もありますが?
反対しても無駄ですよ。
観光客:
韓国では禁止だけど、私たちは関係ないですから。犬肉が好きな人もいるし反対する人もいます。考え方は人それぞれだし、お互いに干渉するものじゃないでしょ。
地元の人:
私たちは韓国人じゃないので関係ないです。イスラム教も豚を食べないなど各地域の習慣がありますからね。あなたたちが牛や羊を食べるのと同じですよ。
ーー犬は友達という人もいるようですが?
私も犬を飼っているけどこれは食用の犬だからペットとは違いますよ。
お店の人からはこんな強気の声も…
犬肉店の店員:
こんなにたくさんの人が食べているんだから、禁止できるわけないでしょ。禁止されたら、犬肉といわなきゃいいんだよ。
もちろん、犬肉を食べることに反対する声は世界中から寄せられている。今年もネット上には動物愛護団体が反対意見を多数投稿。嫌悪感を露わにする意見も多い。犬たちの衛生管理や流通経路に疑問を呈す声もある。こうした国際世論はじわじわと中国国内にも影響を及ぼし始めている。広東省深圳市では2024年3月から犬肉の販売が禁止になった。
「犬肉」は「香肉」?看板から消えた「犬の文字」
中国語で「犬」は「狗」と書く。なので「犬肉」は「狗肉」なのだが、玉林市では2020年から「狗肉」を「香肉」と表記するようになった。反対派からの批判を恐れてのことだという。しかし、「香肉」の看板の下では堂々と犬肉がつるされ、料理人たちが犬肉をぶつ切りにする音が鳴り響く。この本音と建前がわかりやすいのが中国っぽいと思った。
ただ、地元政府も特に海外からの視線に敏感になっているようで、撮影中、突然私たちの前に傘を広げた男たちが立ちふさがり、撮影を妨害し続けた。雨も降っていないのに傘を広げ続ける男たちの姿は滑稽であり、周囲の人たちも奇異なものを見る目で見つめていた。
妨害の理由について問うても男たちは一切答えず、終始無言のまま。翌日私たちが玉林市を離れるまでずっと私たちの後を追いかけてきた。
犬肉を食べるのは、伝統文化かそれとも動物虐待か。中国もそのはざまで揺れ動いている。
取材後記
「犬肉祭り」を取材、放送した動画をYouTubeに公開したとたん、700件を超えるコメントが寄せられた。多くの人が意見を言いたくなる話題らしい。コメントを読んでみるとその多くは
「日本人もクジラやイルカを食べているし、文化は尊重すべき」
「自分は食べないけど、ほかの国の文化を否定するのはおかしい」
という冷静な意見が多いのが印象的だった。
個人的には、人間は多くの動物の命を頂き、環境や資源を破壊しながら生きていく罪深い存在だと思う。そのことに自覚的にならなくてはならないと思う。一方で食文化というのは多様で様々な価値観があり、牛はいいけど犬はダメなどの感情的な議論も違うのではないかと考えている。また、あらゆる民族の習慣は一義的には尊重されるべきだと強く思う。ただ、反対する人の気持ちも理解はできる。特に犬はペットとして人間に近いところで暮らしており「顔が見える動物」であるが故の反発や罪悪感もあると感じる。
中国で根付く犬肉文化は、人間や世界の在り方をどのように受け止めるのか、多様な価値観をどのように尊重しあうのか、深く考えさせられるテーマだと思う。
文:JNN北京支局長 立山芽以子
撮影:室谷陽太
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