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【詳報】「危険警報」新設だけがポイントではない 気象に関する防災情報は2年後、こう変わる 第1回“最難関のパズル”は解けたか

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年6月29日 7時0分

TBS NEWS DIG

「シンプルでわかりやすい」を目指して

「複雑」「わかりにくい」との声が多数聞かれる〈気象に関する防災情報〉について、気象庁の「防災気象情報に関する検討会」による、改善の方向性をまとめた報告書が2024年6月18日に公表された。

検討会は2022年1月から計8回、サブワーキンググループは計5回開催され、約2年半にわたって白熱した議論を続けてきた。座長を務めた京都大学防災研究所の矢守克也教授は「まだ改善の余地はあると思うが、現時点での最善案を取りまとめた」と述べ、控えめにではあるが内容に自信を覗かせた。

実際の運用を行うのは気象庁や国土交通省なので、報告書の内容がそのまま実現するとは限らない。しかし気象庁の森隆志長官は翌19日の記者会見で「(報告書から)外れた方向に持って行くことはあってはならない」と、報告書に沿って作業を進める考えを示した。

国は法改正が必要となる可能性も視野に、気象に関する防災情報の改善を2026年の出水期(梅雨期など大雨のシーズン)に間に合うように進める方針だ。

「人生で直面した一番難解なパズル」

報告書をまとめた「防災気象情報に関する検討会」は学識者や報道関係者等によって構成され、筆者も委員として計8回の会合すべてに参加した。

検討会の開催趣旨は、シンプルでわかりやすい〈気象に関する防災情報〉の再構築に向け、情報全体の体系整理や個々の情報の抜本的な見直し、受け手側の立場に立った情報への改善などの検討事項を中心に議論を行うこと。この趣旨に委員の誰もが異論はないはずだった。

ところが、検討会は回を重ねるにつれて議論百出、その場で結論が出ないことが当たり前のようになった。議論は報告書を取りまとめる最終段階に至っても収束する兆しを感じさせず、特に以下のテーマについて、委員たちの意見は最後まで大きな隔たりを見せた。

・情報名は日本語が先か、「警戒レベル」が先か。
・「危険警報」(新しい情報名)を採用するか、しないか。
・大雨浸水に関する情報の冠は「大雨」か、「大雨浸水」か。

国が設置した検討会をこれまでたびたび取材してきたが、事務局がお膳立てしたシナリオどおりに進み、結論を出すものが少なくなかった。だが、この検討会はまったく様相が異なっていた。

意見が一向にまとまる気配のない様子を見て、矢守座長は「人生で直面したパズルの中でも一番難解なパズル」と評し、事務局の気象庁職員は会合が終わる度に頭を抱えていた。

2年後に迎える歴史的転換点

おそらく2年後の2026年、気象庁や国土交通省等が発表する〈気象に関する防災情報〉は歴史的な転換点を迎えるのではないか。

決して大げさではなく、検討会の議論に参加してきた“当事者”として、そして、長く気象庁を担当してきた記者として、筆者はそう強く感じている。

報告書公表を取り上げた新聞記事やテレビのニュースなどを見ると、「『危険警報』新設」がわかりやすく見出しにもなりやすいので目立つが、ポイントはそれだけではない。

「複雑でわかりにくい」が、本当に「シンプルでわかりやすい」に変貌するのか。情報の受け手の立場に立った改善が実際に行われるのか。名称が変更されたり、無くなったりする情報はどれか。検討会では具体的にどれほど白熱した議論が行われたのか…

すべてを紹介することはできないが、筆者が重要と考える幾つかのポイントを、3回に分けてできるだけ詳しく記そうと思う。

気象に関する防災情報は40種類以上

そもそも〈気象に関する防災情報〉は、現在どれくらいの種類や数が存在するのだろうか。

気象庁によれば、ゆうに40以上を数え(図-2参照)、あらためて書き出してみると「こんなにあるのか」と驚く。東京23区で生活している筆者は「なだれ注意報」や「融雪注意報」等を身近な情報として感じたことはなく、名前は知っていても馴染みのない情報が多い。

また、暴風警報や波浪警報のように「警戒レベル」に紐付いていない(レベル相当情報ではない)警報もあれば、「記録的短時間大雨情報」のように警報でも注意報でもレベル相当情報でもないのに、災害発生との結び付きが強い重要な情報もある。警報のない注意報も存在し、実に多種多様だ。

これらのうち、今回の報告書が改善の対象としたのは、おもに
・警戒レベル相当情報
・防災に関連の強いその他の情報
以上2つのカテゴリーの情報だ。

警戒レベル相当情報 整然としていない現在の情報体系

図-3は現在の気象庁等が発表する情報や市町村の対応、住民のとるべき行動を示したものだが、あまりに雑然としていて、ポイントがどこにあるのか何度見直しても頭に入ってこない。このうち警戒レベル相当情報に該当するのは「気象庁等の情報」の下に記載された情報だ。

個別に見ていくと、危険度の高い順に、「大雨特別警報」の下には「土砂災害警戒情報」、「大雨警報」または「洪水警報」と続くのに対し、「氾濫発生情報」の下は「氾濫危険情報」、「氾濫警戒情報」、「氾濫注意情報」となっている。情報名に共通性がなくバラバラだ。

一方、高潮にはレベル4相当に「高潮特別警報」と「高潮警報」が並存していて理解に苦しむし、情報名が似ているのに「土砂災害警戒情報」はレベル4相当で、「氾濫警戒情報」はレベル3相当というのも釈然としない。

当初、この図からはわかりやすく説明しようとする意図が微塵も感じられないと憤慨していたのだが、情報の体系と名称がこのような状態では、わかりやすくすること自体が到底不可能だと後で気づいた。

技術の向上と「警戒レベル」が“カオス”を生んだ

いったいなぜ、こんな“カオス”な状況が生まれてしまったのか。

気象庁等が発表する防災関連の情報、なかでも気象に関する情報は、近年の気象災害の激甚化・頻発化等を背景に、「技術の向上」や「改善」という名の下に新設または更新され続けてきた。図-2はその結果でもある。その流れを頭から否定する気はないが、整理されないまま情報が乱立し複雑化する形となり、いつしか現在の「シンプルでなく、わかりにくい」ものに変わってしまった。

さらに2019年5月、内閣府主導で「警戒レベル」の運用が始まったことで、情報同士の関係は一層複雑になった。

「警戒レベル」は、災害発生の危険度の高まりを「レベル+数字(1~5)」で表示するもので、「警戒レベル」導入に伴い、〈気象に関する防災情報〉の幾つかが、該当するレベルの状況になっていることを示す情報(レベル相当情報)としてレベルに紐付けられた。

ところが、これがわかりにくさに拍車をかけた。

例えば気象台が発表する「洪水警報」(レベル3相当)には、危険度が上位(レベル4・5相当)の情報がなく、「大雨警報(浸水害)」(レベル3相当)の上位には「大雨特別警報(浸水害)」(レベル5相当)はあるものの、レベル4相当の情報が存在しない。

〈気象に関する防災情報〉はもともと警戒レベルを想定してつくられていないことなどから、警戒レベルの枠にすべてを当てはめることはできないのだ。

ここであらためて図-3を見てほしい。「警戒レベル」も組み合わせた情報体系は、体裁を考えずに建て増しを重ねた末の、いびつで不細工な建築物のようになってしまった。

災害発生の危険度の高まりをわかりやすく伝える目的で導入された「警戒レベル」が、結果的に〈気象に関する防災情報〉のわかりにくさ、伝わりにくさを助長しているというのは皮肉というほかない。

ついに見えてきた「秩序」

報告書では〈気象に関する防災情報〉の体系と名称の改善の方向性が複数示されているが、その中で最も重要なポイントは、「警戒レベル相当情報」の体系を整理するにあたって、情報名に「警戒レベル」と「現象・災害の危険度」に応じて統一性・整合性を持たせたことだ。

図-4のヨコ軸は4種類の現象・災害(左から「洪水」「大雨浸水」「土砂災害」「高潮」)の危険度を、タテ軸は警戒レベル(上から危険度の大きい順に5~2)を示している。

ヨコ軸の、例えばレベル5相当の行を見ると、どんな現象・災害であっても情報名にはどれも「特別警報」が付いている。同様に、レベル3相当の情報名にも一貫して「警報」が付いている。

一方、タテ軸の、例えば大雨危険度の列を見ると、情報名には上から危険度の高い順に「特別警報」「危険警報」「警報」「注意報」が付いている。他の危険度も同様で、情報名がレベルごと、もしくは現象・災害ごとに変わったりすることはなく、確かに統一性・整合性がある。

この整理によって、“カオス”を“コスモス”に変えることができるのか。

前述の矢守座長も「すべて同じ表現形式で統一できたということは、シンプルでわかりやすい表現への大きな一歩になったと思う」と、手応えを口にした。

まだ先の話だが、〈気象に関する防災情報〉に秩序がもたらされる兆しが、ようやく見えた気がしている。

とはいえ、検討会で決めなければいけない重要なテーマはほかに幾つもあった。

・日本語が先か、「警戒レベル」が先か。
・「危険警報」(新しい情報名)を採用するか、しないか。
・大雨浸水に関する情報の冠は「大雨」か、「大雨浸水」か。

次回は具体的な情報名について、意見が大きく分かれた論点や決まった経緯について詳述する。

〔筆者プロフィール〕
TBSテレビ報道局解説委員(災害担当) 兼 社会部記者(気象庁担当)
日本災害情報学会 副会長
日本民間放送連盟 災害放送専門部会幹事
気象庁「防災気象情報に関する検討会」委員

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