地震の傷を「金継ぎ」でつなぐ “火災で焼けた”珠洲焼を修復し伝える「記憶」 能登半島地震からまもなく半年【news23】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年6月28日 12時27分
美術家・中村邦夫さん(52)は、能登半島地震で壊れた被災者の器を伝統技法「金継ぎ」で修復するボランティアを行っている。中村さんは器を直すことは「その人の思い出や記憶を直すこと」だと話す。復興への苦悩と決意。「金継ぎ」された器には被災者それぞれの物語がつまっている。
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輪島市の朝市通り周辺の大規模火災で店を失った田中宏明さん(33)が修復依頼したのは、火事で焼け残った伝統工芸品の“珠洲焼”だった。
「被災者の日常を修復する手伝いを」
美術家 中村邦夫さん
「割れても割れても、日常を美しく元に戻していく。ここにいろんな記憶とか情報が染み込んでいるから。本質的に言えば、金継ぎというのは修理というよりも、こういう時間とか記憶を繋げてるんじゃないかな、といつも思うんですよね」
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美術家・中村邦夫さんは、1月1日の地震で壊れた被災者の器を「金継ぎ」で直し続けている。修復費用は受け取っていない。
割れた器と一緒に届く、被災者からの手紙。
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被災者からの手紙
「正月用に飾ってあった九谷焼が割れてしまいました。他にも破損してしまいましたが、この壺だけでも修復できないものかと考えていました」
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美術家 中村邦夫さん
「器には他の人には見えない何かがあると思うんですよね。この方の日常を少しでも修復する手伝いができたらいいかなって」
1月中旬にSNSで呼びかけ、これまで60個ほどの器を直してきた。そんな中村さんも能登半島地震の被災者のひとり。漆の研究や伝統技法や能登の伝統技法を学ぶため、2023年12月に輪島と珠洲で古民家を購入したが、元日の地震で珠洲の古民家は全壊。輪島の家も…
美術家 中村邦夫さん
「建物の半分は倒壊しているので。『大規模半壊』と一般的には言うらしいですけど。さすがにこうなると直せない」
いまは家が崩れないよう補修しながら公費解体の順番を待つが、いつになるかはまだわからない。家の解体が終わっても、この土地を離れるつもりはないという。
美術家 中村邦夫さん
「人も良いし、土も良いし、空気も環境も素晴らしい。工芸をやっている人にとっては、憧れの土地ですよ。特に漆に興味がある人にとって輪島は、一番憧れの場所だから。壊れてもやっぱり逃げる選択肢はないような気がします」
しかし、心配事もある。古民家がある輪島市地原地区には今も避難指示が出ている(6月27日時点)。土砂崩れがあった場所もそのままの状態だった。地原地区には14世帯が住んでいるが、大半は避難先から戻っていないという。
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美術家 中村邦夫さん
「みんなに聞いたら家を壊すとか引っ越すって、みんな言ってて。僕しか残らなかったらどうしよう…」
朝市通りの店主から“焼けた珠洲焼”の修復依頼 その理由は…
ボランティアを始めて半年が経つが、今も壊れた器の修復依頼は絶えない。男性が持ってきたのは…
てんだ商店 田中宏明さん
「お店にあったんですけど。地震と火事で耐え抜いた珠洲焼で。後日、店から少し欠けてるやつを」
美術家 中村邦夫さん
「焦げてるのは…今回の火事で?」
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火事で焼けた珠洲焼。田中宏明さん(33)の店は輪島市の朝市通りにあった。そこで伝統工芸品の珠洲焼などを売っていたが、元日に発生した朝市通り周辺の大規模火災で店を失った。
田中さんも震度7の地震で崩れてきた酒蔵の生き埋めになった。火事や津波のサイレンが鳴る中、1時間後に家族に助け出されたが、腰の骨を折るなどの大けがを負った。
てんだ商店 田中宏明さん
「価値観はガラリと変わりました。色んな人に感謝してるし、絶対にまた再建して、どんな形でも恩返ししたいと思うし」
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田中さんが望むのは輪島朝市の1日も早い復興だが、建物の撤去・解体は6月5日から始まったばかり。完了時期の見通しは立っていない。輪島朝市で露店を営む人の平均年齢は70歳を超えているという。
てんだ商店 田中宏明さん
「おばちゃんらが『いらんけ?』って野菜とか売ってるから、この場所が成り立ってるんですね。待って1年なら、また店やろうか、というおばちゃんもいると思うが、これが4年、5年だったら、さすがにもう引退すると思うんですよね。またみんなでやりたい」
田中さんは同じ場所に店を再建させ、そこに“焼けた珠洲焼”を飾りたいと話す。その理由は…
てんだ商店 田中宏明さん
「後ろにサインが入っているこの方はもう作らないって言ってました」
美術家 中村邦夫さん
「今回の地震で?」
てんだ商店 田中宏明さん
「この方は珠洲焼やめるって言ってました。皆さん魂を込めて作っているものなので、作家さんの気持ちを汲みたいなと思って。少しでもみんなの目で見てもらえれば幸いです」
引退を決めた作家の作品を、これからも伝えていきたいという思いだった。
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美術家 中村邦夫さん
「責任重大ですよ」
てんだ商店 田中宏明さん
「少しでも良くなるなら…」
焼けた珠洲焼を金継ぎ「地震があったことを受け継ぐ」
東京に戻り早速、修復作業に取りかかる。火事で焼けた器を直すのは初めてだという。
美術家 中村邦夫さん
「焼けて少し脆くなっていたり、本当に爪痕が残ってる感じですけど。これを展示したいということを言っていたので、欠けた部分だけを修復しようかなと思っています」
ヒビが入った部分を漆と混ぜた珪藻土で埋めて、やすりで削る。これを繰り返し、最後に金粉を蒔いたら金継ぎは完成する。
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2週間後、田中さんの元を再び訪れた。修復を終えた珠洲焼を田中さんに返却すると…
てんだ商店 田中宏明さん
「すごい。完璧だと思います。すごいですね」
美術家 中村邦夫さん
「焦げているところは取らないで、そのまま生かしたんですよね。欠けてるところだけを(金で)埋めて」
金継ぎされ、かえってきた珠洲焼。
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てんだ商店 田中宏明さん
「こうやって残して、いろんな人に見てもらう。作家さんとしても本望だし、ありがたいことだと思います」
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美術家 中村邦夫さん
「ささやかなものでもいいと思うんですけど。金継ぎした器を直すことによって、昔、地震があった、火事があったことを受け継ぐ事が出来る。能登の復興ってまだまだすごい時間がかかると思うけど、割れるものがある限り、僕は何か直していきたいなと思ってますけどね」
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