青木涼真がパリ五輪代表入りを確実にする優勝 日本の3000m障害レベルアップと自身の成長をリンク【日本選手権】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年6月28日 19時32分
陸上競技の日本選手権(6月27~30日、新潟)が開幕。男子3000m障害の青木涼真(27、Honda)が初日の27日にパリ五輪代表入りを確実にした。
昨年の世界陸上6位入賞の三浦龍司(22、SUBARU)がすでに代表に内定している種目。三浦は日本選手権への出場を回避したが、昨年の世界陸上ブダペスト14位の青木が8分24秒21で初優勝した。2位の柴田大地(19、中大2年)が8分24秒68の学生歴代2位をマークした。
青木はパリ五輪参加標準記録の8分15秒00には届いていないが、Road to Paris 2024(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)で安全圏につけている。今大会の優勝で7月上旬に代表に選ばれることが確実になった。
記録よりも勝つことを優先したレース展開
勝負優先のレース展開になった。2000mの通過が5分42秒と、そこまで速いペースではなく、残り2周時点でも青木、柴田、新家裕太郎(23、愛三工業)の3人の集団が崩れなかった。青木が勝負に出たのは残り200m付近。先頭の新家に並び、前に出た。最終障害で新家に並びかけられたが、フィニッシュ地点までのスプリントで青木が力の違いを見せた。
青木が勝負優先のレースに徹したのは、準備段階で不安があったからだった。
「春の米国のレースで標準記録を切れると思って、そこで(練習を)無理してしまったみたいです。左のアキレス腱の痛みがとりきれず、かばって走って右脚にも痛みが出たり。体のバランスが整っていない状態で日本選手権を迎えてしまいました。標準記録を狙える状態ではなかったですし、日本選手権のタイトルを取ったことがなかったので、それだけを目指して走りました」
その状態でも想定通り、負けない自信があったラスト勝負に持ち込んだ。
「自分の持ち味はある程度は出せた」と自己評価をした後に、「レース終盤まで引っ張ってくれた新家君や、大学生の柴田君の好走があったので、自分の最後のスプリントを出せました。最後の1周で10mくらいの差であれば、逆転できる自信はありました」
スプリントは以前からの武器だが、3年連続で米国のバウワーマンTCへ武者修行に行っている成果が、スピードに表れているという。「今年の春、ボストン室内で日本記録も出すことができました」。種目は1マイル(約1609m)で実施頻度の少ない種目だが、1500mの通過が3分39秒12と、屋外の自己記録を上回った。日本のトップレベルと言えるレベルのスピードを身につけていた。そして競技以外の面の効果も大きいという。
「日本の競技生活はスタッフがやってくれることも多く、本当に恵まれています。アメリカに行ったら身の回りのこと、食事を自炊したり移動手段を確保したり、全部自分でやらないといけません。そういった部分の人間的な成長が競技力の向上にもつながっています。今は(世界トップレベルのバウワーマンTCの選手たちに対して)勝てると思える選手も出てきましたし、自分も一応世界陸上の決勝に進出している選手なので、初めから負けていると思わず向かうことができています」
トレーニング面での工夫もあると思われるが、青木は駅伝も含めて失敗レースがほとんどない。安定した強さは青木の大きな特徴だ。
パリ五輪では10位を、世界陸上東京では入賞を目標に
そんな青木も一時は、3000m障害をやめることも考えたという。
「限界を感じてやめると、ちょっと言っていた時期もありましたね、若手(三浦)の台頭も重なって。東京五輪に若い段階で出られたこともあって、今5000mに転向すれば、という思いもありました。本当にまずいと思ったのは世界陸上オレゴンのときでした。まったく歯が立たなかったので、どうしようかと思いました」
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青木の大学4年(19年)以降のシーズンベストと、各シーズの主要大会戦績は以下の通りである。
◇19年:8分32秒51 日本選手権3位
◇20年:8分25秒85 日本選手権3位
◇21年:8分20秒70 日本選手権3位、東京五輪予選2組9位
◇22年:8分20秒09 日本選手権2位、世界陸上オレゴン予選3組11位
◇23年:8分20秒54 日本選手権7位、世界陸上ブダペスト決勝14位
◇24年:8分24秒12 日本選手権1位
21年以降の日本選手権は三浦が勝ち続け、国際大会でも三浦は21年東京五輪で7位、23年世界陸上ブダペストで6位に入賞。21年に8分09秒92、23年に8分09秒91と世界トップレベルの日本記録をマークした。
三浦不在のことを「鬼がいぬ間に」とユーモアを交えて話したが、優勝記録の8分24秒21は青木の自己記録の8分20秒09とは4秒差。「今の状態で8分24秒なら、100%の準備と練習ができれば8分15秒はクリアできる位置にいるのでは」と、今後の自身に期待している。
「東京五輪では何もできなかった苦い思い出があります。そこから歯が立たなかったオレゴン、14位のブダペストと、良い道を進んでこられた。パリ五輪では3年分の思いを力として発揮したいですね」
パリ五輪出場が実現したら「10位以内」を目標とする。
「自分は一気に伸びる選手ではありません。10番でも高い目標なのですが、そこをしっかり目指すことで、来年の世界陸上東京につなげることも大事にしていきます。世界陸上では入賞を目指したいですね」
青木が3000m障害を走り続けている理由の1つに、三浦だけでなく、この種目自体を世界に近づけていきたい気持ちがある。
「三浦くんだけでは背中が遠すぎます。僕がこの(2番手の)ポジションにいることで、若手が目指す背中になれます。自分はこのポジションをしっかり確保しつつ、三浦君の背中を追っていきたい」
今回の日本選手権でも、2位の柴田と3位の新家は自己記録を大きく更新した。ラスト1000mを青木が2分42秒でカバーしたが、これは世界大会でもそこそこ戦えるレベル。青木であれば走ってしかるべきタイムだが、柴田や新家も同レベルのタイムで走ったことは、日本の3000m障害のレベルが上がっていることを示している。
世界陸上ブダペストで日本選手2人が決勝を走っただけでも、日本の3000m障害にとっては快挙だった。男子3000m障害が日本の得意種目と言われる日が、近い将来に来るのかもしれない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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