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「存在の否定」「自覚なき差別」、漫画「ゴールデンカムイ」のヒットで関心高まる一方… 今も続くアイヌ差別の実態【報道特集】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月13日 6時30分

TBS NEWS DIG

漫画や映画のヒットなどで近年、注目が高まっているアイヌ文化。一方で、アイヌをめぐる差別は今も形を変えて続いています。現代のアイヌ差別を取材しました。

「コスプレおばさん…」国会議員に中傷されたアイヌ女性

2024年1月、札幌でマイノリティへの差別に抗議する集会が開かれた。

アイヌの男性
「マイノリティの権利とか、もっとそれ以前の次元になってきている」
アイヌの男性
「日本社会が差別とアイヌの歴史と向き合うことをしないと変わらない」

ことの発端は、自民党の杉田水脈衆議院議員が2016年、国連の女性差別撤廃委員会に参加した際にブログなどに投稿したコメントだ。

自民党 杉田水脈 衆議院議員のブログ(投稿は現在削除)
「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」

こうした過去の投稿がありながら2022年、杉田議員は岸田内閣で総務大臣政務官に就任。
問題が表面化すると事実上、更迭された。

杉田議員(2022年)
「傷つかれた方々に謝罪し、そうした表現を取り消します」

アイヌは日本列島の北部周辺、特に北海道に古くから住む人たちで、独自の言語や文化を持つ先住民だ。

抗議集会で檀上に立った札幌の多原良子さん。杉田議員にブログで誹謗中傷された当事者のアイヌだ。北海道むかわ町の出身で、父方、母方、両方の祖母がアイヌ。若い頃はアイヌであることを隠して生きていたという。

多原良子さん
「(祖母の写真が)小さい頃からうちの仏壇にあったんだよね。その頃は普通だったけど、結婚したらお盆とか正月に夫と帰るでしょ。このおばあちゃんのこの写真が嫌で。アイヌだってばれる。わかってはいると思うけど、いつ口に出されるかっていう」

子育てが落ち着いたころにアイヌ協会札幌支部に入会。アイヌの生活や歴史を学ぶ中で、それまで「隠くすもの」だったアイヌとしての意識が「守るもの」に変わっていった。

多原さん
「日本社会の中でも大変な状況の人たちがいる。それはそこの分野で政治的社会的に救済しなくてはならない。だけど先住民族は、また別の当たり前にあった権利を回復していくべきなのに」

多原さんは杉田議員からの中傷を受けて、在日コリアンの女性らと連帯し、2023年、札幌法務局に人権救済を申し立てた。その結果、杉田議員は札幌と大阪の法務局から「人権侵犯」と認定された。しかし、その後も自らを正当化する発信を繰り返す。

杉田議員のSNS(2023年11月投稿)
「人権侵犯の対象となったブログはアイヌ民族について書いたものでない。女子差別撤廃委員会に参加していた左派の活動家について書いたものです」
「そもそもその方々がアイヌ民族なのかどうか?」

またYouTube「デイリーWiLL」に出演し、アイヌ文化振興事業に公金の不正流用疑惑があるとの見解を示した上で、こう揶揄した。

杉田議員(2023年11月)
「流行語対象の中にノミネートされても良かったと思うんですけどね『公金チューチュー』ハハハ」

この発言後、政府はアイヌ文化振興事業について「現在は適正に執行され、不正経理はない」として、杉田議員の発言を否定している。

杉田議員(1月)
「私は差別をするつもりとかは一切ございませんでしたし、もしもあのブログを読んで、誰も傷ついていないのであれば、謝罪をする必要はないのではないかと思っている」

多原さん
「アイヌ衣装を私が着たことに対してコスプレと言った。それはもう『アイヌではない』ということを言っている。彼女は差別でないと言っているので、そういった(差別の)感覚は持っていないのでしょうけど、あんなひどい書き込みを、皆さんがされたらどうですか。 逆に私が言ったらどうですか」

いま注目が高まるアイヌ文化、差別の歴史

2024年のゴールデンウィーク。曇り空にもかかわらず、北海道白老町の「ウポポイ・民族共生象徴空間」には多くの観光客が訪れていた。

アイヌ文化を体験できるイベント。明治末期の北海道やアイヌを題材にした漫画「ゴールデンカムイ」のヒットもあり、アイヌ文化への関心は飛躍的に高まっている。

一方で、アイヌの歴史は差別と切り離すことができない。

アイヌ民族文化財団の資料によると、アイヌ文化は12世紀から13世紀頃に成立したといわれている。

その後、不平等な交易や労働力としての酷使により、日本語を母語とする和人との間に軋轢や争いが生じた。

1869年。明治政府は「蝦夷地」と呼ばれていた地を「北海道」と呼び改めて開拓し、アイヌの人々を「日本人」として国家に編入。言語や生活習慣を事実上禁止し、土地も取り上げた。

こうした政策によりアイヌが困窮を極めると、「北海道旧土人保護法」が制定された。

しかし、1997年に法律が廃止されるまでの約100年間、アイヌの人々は保護という名目の元、「旧土人」と呼ばれ差別的な扱いを受け続けた。

アイヌ式の結婚式を挙げた女性、その理由

北海道のむかわ町穂別。約50年前、差別や偏見が強かった時代にアイヌ古来の方法で結婚式を挙げた女性がいる。小山妙子さん。1940年に生まれた84歳のアイヌ女性だ。

この日は、高齢者やケアマネージャーらが集まってのお茶会。いつも軽妙なジョークで周囲を笑わせる小山さんはムードメーカーだ。

1971年。小山さんは当時とても珍しかったアイヌ古来の方法で結婚式を挙げた。

その映像はドキュメンタリー映画として残された。

小山妙子さん(当時31歳)
「アイヌは滅びゆく民族だとか、劣等民族だとかいろいろ言われました。でもちっとも寂しいとか悲しいとか恥ずかしいとも思わないし、誇りにさえ思っています。アイヌ式の結婚式をするってことを」

小山さん
「(なぜアイヌ式の結婚式を?)だってアイヌだもの。80歳、90歳のフチ(祖母)やエカシ(祖父)が『アイヌの結婚式見たことない』『おまえよくやってくれたな勇気あるな』『それこそアイヌメノコ(女性)だ』と言われて、泣いた」

日本人としての同化が進められ、生きるために独自の文化を捨てざるを得なかったアイヌ。小山さんが結婚式を挙げた1970年代は差別や偏見が強く残っていた。

小山さん
「哀れだった。考えがね。教育を受けていないでしょ。それで子守に出されたり、労働力として使われていた。差別みたいなもの なんてもんじゃないんだよ。豚のえさ食べていたんだよ」

“存在を否定する”アイヌ差別、SNSなどに溢れる

古くからアイヌを苦しめてきた差別。それは今、直接的なものから『存在を否定するもの』へと形を変えている。SNSなどインターネット上にはアイヌに対する強い差別の投稿が溢れている。

SNSの投稿文
「あんたみたいな自称アイヌ見てると朝から気分悪い。早く認めな、アイヌはもういない」

投稿にはアイヌは優遇されていて逆差別だという主張や、『アイヌ民族はもういない』といった、存在そのものに対する否定が多く見られる。こうした主張の背景にあるものは何なのか…

2019年、札幌で保守系団体「日本会議北海道本部」が開催した『あなたもなれる?みんなで“アイヌ”になろう?』と題された講演会。

壇上にたった講師らは『アイヌ民族の定義が曖昧であり、先住民族かどうか疑問がある』と主張した。

元北海道議 小野寺秀氏
「実際は誰でも結婚すればアイヌになれる。もしくはアイヌ協会がハンコをついただけでアイヌになれるのは間違いない」

一方、会場の外ではアイヌに対するヘイトだとして、市民団体らが反発し、衝突が起きた。

5年後の2024年3月。札幌で同じ団体がアイヌをテーマにした講演会を開いた。「改めて問う!アイヌはなぜ先住民族にこだわるのか!?」

会場の前で抗議のスタンディングを行っていた市民団体の男性に、講演会の参加者が詰め寄る場面も…

私たちは日本会議北海道本部に講演会の取材を申し込んだが「応じられない」との回答を受けた。

一方で、開催目的について、「講演会は問題意識の共有を願って行うもので、ヘイトスピーチにはあたらない」としている。講演会はどのような内容だったのか。会場で話を聞いた男性が、私たちの取材に応じた。

講演会を聞いた男性
「極めてフェアだったと思います、内容としては。アイヌを攻撃するとか、差別云々というのはトピックにそんなに上がらなかった。先住民かどうかというところのポイントが大きかったので」

男性に今もアイヌに対する差別があることへの見解を尋ねると、「差別は作られたものだ」と答えた。

講演会を聞いた男性
「アイヌにゆかりの人なのか、全く関係ないのかわからないが、プラカード持って『アイヌ差別やめろ』と言った途端に、そこに差別がある構図になる。そういった意味ではアイヌ差別はあるんだなと、作っているんだなという気持ちにはなる」

抗議の場には、身の危険を感じるとして、顔を隠して参加したアイヌの人たちもいた。

抗議に参加したアイヌの女性
「ヘイトスピーチを見た瞬間に体中の血が沸騰するような感じ。私だけではなく先祖も、彼らは傷つけているわけだし。本当はアイヌ側ももっとやらなければいけないんだけれども、それは危険なので、できない人の方が多い」

アイヌ文化の振興を掲げ、2019年に成立した「アイヌ施策推進法」では、アイヌ民族を先住民と明記した上で、「何人もアイヌの人々に対して、アイヌであることを理由として、差別すること」を禁止している。しかし、罰則はない。

法律では施行から5年目の今年、見直しを検討するとしているが、国会ではその機運は高まっていない。

“自覚のない”アイヌ差別とは

アイヌの伝統舞踊を練習するのは札幌大学の「ウレㇱパクラブ」の学生たち。アイヌの学生と和人の学生が一緒になってアイヌの文化や歴史を学んでいる。ウレㇱパの意味はアイヌ語で「育て合い」。

クラブを設立した本田優子教授は、マジョリティである和人の学生とアイヌの学生が共に学ぶことが重要だと考えている。

札幌大学 アイヌ専攻 本田優子教授
「アイヌ文化が素敵、アイヌかっこいいって言って入ってくる若者たちがいっぱいいる。そういう子たちは差別の歴史を知らなくて。何でアイヌの人たちが差別されなくてはいけないんだとか、そういう第三者的な、信じられないという声がいっぱい出てきて。北海道に生きている若者でアイヌ民族に対する差別を知らない人たちがいっぱい生まれてきたんだというのに私はすごくショックで。これはやっぱりきっちり教えないといけないと思って、最近は歴史の授業ではかなり伝えるようにしています」

アイヌに対する差別は、相手を攻撃する意図があるものだけではない。近年、問題となっているのが「マイクロアグレッション」と呼ばれる自覚のない言動などによる差別だ。

両親ともにアイヌである結城泰さんは、普段、あからさまな差別を受けることはないが、ふとした発言に違和感を覚えることがあるという。

結城泰さん
「『純血の方なんですか』『アイヌ何世なんですか』とか聞かれたことがあって。それはそっちのステレオタイプにはめているだけであって、こっちにはない型なので。なんか、もやってする感じ。差別っていうか無知な故に出てくる発言なのかなと思う」

『アイヌもやもや』。アイヌ民族の研究者で漫画『ゴールデンカムイ』にも協力した北海道大学の教授が実体験などを元に書いた。現代のアイヌを取り巻く環境や、アイヌの人たちの思いについて伝える本だ。

本では、和人の男性と結婚したアイヌの女性が、義理の父親の何気ない言葉に戸惑いを感じる様子が描かれている。

【(アイヌもやもや)より】
義父「お腹の子もね、きっと絵がうまいでしょう」
「えっどうしてですか?」
義父「いやほら、アイヌの血が入っているもの。我々とはちがいますよ」
「はぁ、そうですか…(なんだかお義父さんと話していると、数分ごとに仲間にされたり突き放されたりする感じがある)」
義父「みんな平等平等!」
(本人は1ミリも悪気ない‥)

義理の父親が悪意無く口にする言葉。しかし、受けとったアイヌの女性は疎外感を覚える。

差別をなくすために必要な事

こうした自覚のない差別を考えるときに必要なことは何か。本の著者、北原モコットゥナシ教授はマジョリティとマイノリティの力関係を認識することが大事だという。

北海道大学(アイヌもやもや著者)北原モコットゥナシ教授
「自分は常に問う側であって、自分は当たり前だ、普通だという感覚を人間はどうしても持ってしまう。相手との間に力関係がそんなにない場合は単なる誤解で済むが、日本社会の中でのアイヌは、政策によってずっと抑圧されてきた、直接的な差別も経験してきた歴史の上に今のアイヌと和人の関係があるので」

そして、マジョリティ側が差別を止めるよう行動したり、差別を受けた人を思いやることが必要だという。

【(アイヌもやもや)より】
「いや、自分でなんとかしなきゃ…あの…」
息子「親父、別の話にしてくれないか」
父親「さやかさんと話をしてるだけだ!」
息子「親父の発言は差別的だ」「俺が不快に感じるんだ。やめて欲しい」

アイヌ古来の方法で結婚式を挙げた小山妙子さん。4月、その日を記録した映画の上映会が、地元で開かれた。

小山さん
「(きょう声の具合はいいですか?)あ、あ、あ…だめですね。(じゃあ水飲んで)それじゃない方がいい。こういうカップに入ったやつ(また!ビールはあとで!)」

いつより少し緊張した様子だったが、映画が始まると、笑顔を見せ、時折、涙を見せ。50年前の記憶に吸い込まれるように見入っていた。

小山妙子さん「懐かしいな…」

札幌から来た「ウレㇱパクラブ」の学生たちとも語りあう。アイヌの歴史と記憶は現代へと引き継がれた。

学生
「学芸員を目指しているので、こういった体験も活かしながら、アイヌ文化を伝える仕事に就けたら、繋げていきたいと思っています」

「差別と闘って来たからこそ、この映像を残しておこうと思った」という小山さん。映画を見返すことで、幼かった頃を思い出した。

小山さん
「クマと寝てるとか、草小屋にいるとかそんなことばかり言っていた男の子たちに。『アイヌ臭くて嫌なら何で来たんだ帰れ』ってまで言ったんだよ。何も言葉返ってこなかった」

3月末、杉田水脈議員に誹謗中傷された多原良子さんの姿が新千歳空港にあった。向かった先は東京・永田町。

この日はアイヌの声を届けるため、多原さんが代表となって開いた集会。

アイヌ施策推進法を改正して差別の禁止に実効性を持たせることなどを求めて、集めた署名およそ9万3000筆を国会議員に提出した。

多原さん
「マジョリティの社会の中にもそういうこと(差別)が浸透していく。そんなことでいいのかというのは皆さんに問いたいというか、『こんな社会で大丈夫?大変なことになります』『人権問題を考えてください』ということはやっぱり伝えたい」

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