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「倒産してしまう」茨城の老舗納豆業者が餌食に 中小企業M&Aの裏で…姿消した悪質業者を直撃【調査報道】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月19日 12時16分

TBS NEWS DIG

新たな視点と独自の取材でお伝えするeyes23。狙われたのは、老舗の納豆業者でした。後継者の問題を解決しようと事業を引き継いだつもりが、資金を奪われてしまう。実は今、そんなトラブルが相次いでいます。私たちはM&A=企業買収の仕組みを悪用した業者を直撃取材しました。彼らの言い分とは?

狙われたのは後継者を探す中小企業

茨城県にある老舗の納豆製造会社「金砂郷食品」。従業員50人ほどの中小企業ながら、ひと月500万食の納豆を生産しています。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「お客様が一度食べていただいてリピーターになるか、味の部分も大きい。自信がある」

しかし2023年、絶体絶命の窮地に陥りました。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「一番酷いときは売上が4割減った。辛かった。継続するとうちの会社も倒産してしまうという状況にならざるを得なかった」

いったい、何があったのでしょうか。

全国で300万社を超える中小企業。その3分の1が今、高齢化と後継者不足に直面しているといいます。

金砂郷食品の永田社長も後継者を見つけられず、決断したのがM&A(買収と合併による事業承継)。ほかの企業に会社を売り、経営を引き継いでもらうことにしたのです。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「この会社を地元には残したいが、自分の家族とかではなく、きちんとした事業体のあるうちに、力がある会社と一緒になって事業経営を行うことが一番平和裏で一番良い道筋だと思っていた」

大手仲介会社が勧めてきたのが「ルシアンホールディングス」という投資会社。「約30社を傘下に持つ、多角的な経営をしている会社だ」と説明があったといいます。

2023年3月、M&A締結当日の写真で永田社長と一緒に写るのは、ルシアン社の代表と取締役。このときは、まだ…

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「締結した時は、これで会社がきちんとうまく契約書通りに成長していってもらえたら何よりという願いが一番大きかった」

ところが、経営を譲り渡した直後から…

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「最初は憤慨した。約束と全然違うし、やっていることもいい加減。お金のことも含めて許されることではない。非常に憤慨した」

ルシアン社は納豆製造の経営にはほとんど関心を持たず、まず指示したのが、金砂郷食品の預金約3500万円をルシアン側に送金させることでした。

さらに、毎月の金砂郷食品の売上の一部もルシアン社に送金していたとみられ、そして…

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「社員への給与の遅配とか、社会保険・税金の未納も顕著になった」

“納豆一筋30年”の工場長・木村さんは当時、何が起きていたのか理解できなかったといいます。

木村隆 工場長
「青天の霹靂というか、予想だにしていなかった。この先どうなってしまうのかと。従業員も不安でいっぱいだった」

ついに、ルシアン社の代表や取締役と連絡が取れなくなり、行方すらわからなくなりました

結果として、契約時に永田社長に支払われることになっていた3600万円は支払われることはないまま。会社の借入金の連帯保証も、永田社長からルシアン社側に移されるはずでしたが、永田社長につけられたままでした。

結局、永田社長は株式を買い戻し、社長に復帰。地元の銀行や取引先の協力を得て、何とか再建に漕ぎ着けました。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「ぎりぎり現預金や私の生命保険や色々なものを解約して、資金繰りを改善して、何とか正常化するのに1年くらいかかった」

「自分も利用されていた」 悪質会社の幹部が語る

ルシアン社の狙いは何だったのか。私たちは、ルシアン社の現役の幹部(30)に接触することができました。

ルシアン社 現役幹部
「これが資料とかが置いてあるメインの部屋」

茨城県内にある雑居ビルの一室。ここはルシアン社の“事務所”として使われていました。今は請求書などが散乱しています。

ルシアン社 現役幹部
「携帯料金、電気料金、税金とか。数が多すぎて全然対応できていない」

この幹部は代表らから指示をされ、買収した企業からの送金などを担当していたといいます。金砂郷食品とルシアン社の締結式で、永田社長の隣に写っていた人物です。形だけの肩書きを与えられていました。

ルシアン社 現役幹部
「これは僕が金砂郷食品に居た時の名刺。所属はしていないが、執行役員として名刺だけ作られているというのは多数あった」

ルシアン社は代表と取締役が実権を握り、幹部は「自分は利用されていた」と主張します。

ルシアン社 現役幹部
「どういう仕事が任されてどうなるのか、全くわからない状態だった。『何で前社長の横で写真を撮っているのだろう』と思っていた」

ルシアン社は約2年間で37社を買収。多額の預金を持っていた企業を狙っていたといいます。

ルシアン社 現役幹部
「(代表は)新しく買う会社を探してくるばかりの人。『これ買収したから。これ買収したから』と会うたびに言っていた。実際には私腹を肥やすためだけの会社だった」

この幹部は代表らにだまされ、約3億円の債務を背負っているということです。

悪質業者を直撃 専門家は「吸血型のM&A」と警鐘

行方をくらませたルシアン社の代表と取締役はどこにいるのか。

ルシアン社の代表が“自身の住所”として書いた茨城県土浦市のマンションを訪ねてみると、玄関には代表の名前とともに、「退去した」と書かれた張り紙が。隣人に写真を見せ、話を聞くと…

隣人
「(Q.この人物ですか?)そうです。挨拶した時に出てきた人。『会社の部屋だ』と説明を受けた。『うちはほとんど居ません』と話をした」

一方、行方をくらませたもう一人の人物である取締役は、茨城県内や都内などにある複数の関係先を訪ねるも、行方はわからず。しかし、17日…

記者
「TBSテレビの者だが、○○さん?」

取締役
「すみません。違います」

記者
「ルシアンホールディングスの件についてうかがいたい」

取締役
「急いでいるから」

記者
「企業買収のことについて聞きたいが」

取締役は「急いでいる」とだけ話し、質問には何も答えず立ち去りました。

中小企業の経営に詳しい専門家は、今回の問題は「氷山の一角」と指摘します。

神戸国際大 経済学部 中村智彦 教授
「会社を今まで長年経営されてきた方でも、M&Aに関しては素人で信じてしまう。(買収する企業は)最初からその会社を助けるつもりなんか全くない。(今回の問題は)要するに吸血鬼のような、『吸血型のM&A』だ。本来だったら残るはずだった企業が、残るどころか吸われたカスみたいになってポイッとされる」

悪質な買収先を見抜くには? 仲介会社に責任はないのか

小川彩佳キャスター:
今回のようなケースについて、専門家は「吸血型のM&A」と表現していました。真山さんは小説「ハゲタカ」で、まさに企業買収を描かれていましたが、当時と今を見比べて照らし合わせたとき、どのように映りますか。

小説家 真山仁さん:
「ハゲタカ」はバブルの頃の話で、倒産寸前の企業をどう買収するか、生きるか死ぬかというぐらい深刻なときなので、割と詐欺に近いような騙され方をして会社を乗っ取られた例はよくあります。

しかし今回は、余裕のある健全な会社が後継者をどうするかという類の相談をし、結果的には罠にはまったような構図になっています。

一つだけ大事なのは、M&Aには企業の規模は関係ないということです。大きい企業だけではなく、やはり中小企業でも専門家や法律家、ファイナンシャルアドバイザーといった人たちのアドバイスがいります。

売る側はちゃんと専門家を雇いながらもお金の余裕を持たなければいけないという、教訓という言い方はよくないかもしれませんが、その覚悟がいると思います。

藤森祥平キャスター:
そもそもいろいろな論点があると思いますが、結果的に騙した側、買い手となったルシアン側はいろいろな約束を守っていないという点で、法的に責任を問われないのでしょうか。

調査報道部 岸将之 記者:
取材すると、ルシアンについては警察に被害の相談をしている企業もあるということです。

一方、取材を進めると気になったのが、ルシアン社側から企業の紹介依頼を受け、ルシアンに対して金砂郷食品を紹介した、間に入っている大手仲介会社の責任です。

金砂郷食品の永田社長は今回、上場している大手仲介会社にルシアンを紹介されて売却を決めたと証言しています。仲介会社はルシアンの実態を知らなかったのか、また調べなかったのか、疑問が残ります。

この仲介会社に取材をしたところ「個別の案件には答えられない」と回答しています。しかしルシアンの被害に遭った企業の多くは、仲介会社の責任を問いたいと悲痛な声を上げています。

藤森キャスター:
中小企業庁もこういう問題を把握し、対策に向けて議論を始めているようですが、いい加減な形で紹介するような会社を放っておくわけにはいきません。対策はあるのでしょうか。

小説家 真山仁さん:
そもそも仲介会社は、M&Aを仲介するだけが仕事です。買う側も売る側も、それぞれ専門家を独自で雇ってやらなければいけませんが、お金がかかるので、そこを全部仲介会社に依存しているところに問題があります。

中小企業者もおそらく、M&Aとはどういうものかわかっているところが少ないです。支援の仕方を規制すればいいと思っているのですが、会社同士の契約書の問題になるとなかなか違法を問えません。

となると、やはり売る側の中小企業に「専門家をもっと積極的につけましょう」「場合によってはお金の支援もしましょう」とアピールしてあげる。

逆に中小企業側は、金融機関や中小企業庁にもっと積極的に相談しないと、これは誰にでも起きると思っていただかないといけないと思います。

小川キャスター:
専門家が「氷山の一角なのでは」という指摘をされていましたが、まだまだこうしたケースがあるという。

小説家 真山仁さん:
本当にこれから、こういうことは次々起きてくると思います。現実問題、後継者がいませんので。

藤森キャスター:
そういう弱みにつけ込んでくる仲介業者も多いと思います。

小説家 真山仁さん:
そして、おいしい話には絶対に罠があると思うべきです。

==========
<プロフィール>
真山仁さん 小説家
企業買収や合併(M&A)の舞台裏を描いた「ハゲタカ」を執筆

【TBSインサイダーズ】
中小企業M&Aの問題や、様々な内部告発の情報提供を「TBSインサイダーズ」で受け付けています。皆さまの情報をお寄せください。

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