「佐渡島の金山」が新たな世界遺産に!番組スタッフが見た決定の瞬間【インド・ニューデリー世界遺産委員会リポート 第二回】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月29日 6時0分
インドのニューデリーで開かれている世界遺産委員会。これは年に一回開催される国際会議で、世界遺産の保全状況のチェックや新たな世界遺産を決める、いわば「世界遺産の最高議決機関」です。その世界遺産委員会にオブザーバーとして参加している、番組「世界遺産」のスタッフによる現地リポートの二回目。
審議直前まで“先行きが読めない状況”
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7月27日の審議で、日本政府が推薦していた新潟県の「佐渡島の金山」が新しい世界遺産になることが決まりました。
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会議の舞台となったニューデリーの超大型コンベンション・センター「バーラット・マンダパム」には、新潟県の花角英世知事もやってきて、世界遺産登録の決定後に地元のパブリック・ビューイング会場と中継を結んだり、岸田総理からのお祝いの電話(直電です)を受けたり、大わらわでした。
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無事に世界遺産への登録が決まった「佐渡島の金山」ですが、実は直前までどうなるのか、先行きが読めない状況でした。それは世界遺産委員会の仕組みと関係があります。
世界遺産委員会は、ユネスコの「世界遺産条約」に加盟している195か国のうち、21か国が委員国となって審議にあたります(任期は6年)。つまり委員国になった国は、各国が推薦してきた世界遺産候補について、「これは世界遺産にふさわしい」とか「これはダメ」とか可否を示す発言権を持っているのです。
今年の委員国には日本、そして韓国も入っています。ご存じのように韓国は「佐渡鉱山では、戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられた」として、「佐渡島の金山」の世界遺産登録に反発していました。
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さらに世界遺産委員会の審議は、全会一致で決めるというのが基本です。正確にいうと「決議文」を各委員国の意見を聞きながら何度も修正し、最後に「どちらの国も異議ありませんね」と議長が確認し、どの国も異議を唱えないと決定(決議文を採択)になります。
投票になることもありますが極めてまれで、たとえば2012年にロシアのサンクトペテルブルクで開かれた世界遺産委員会で、パレスチナ初の世界遺産「イエス生誕の地:ベツレヘムにある聖誕教会と巡礼路」が決まりましたが、この時はパレスチナ寄りの委員国とイスラエル(とアメリカ)寄りの委員国の合意を話し合いで得ることができず、投票で決着を付けることになりました。投票の場合は、21か国の委員国の四分の三以上、つまり16票以上を得ないと、世界遺産になることはできません。
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しかも世界遺産委員会に先立って、事前の評価を委託された専門家組織ICOMOS(国際記念物遺跡会議、International Council on Monuments and Sitesの略。文化遺産の事前評価を行っている)が、「佐渡島の金山」については「世界遺産登録に登録」という一番良い評価ではなく、「追加の情報が必要」という二番手の評価をしていました。
この評価を乗り越えて世界遺産になるためには、世界遺産委員会の審議の過程で「世界遺産に登録」という評価に改めて、それに全委員国が異議を唱えない、もしくは投票で16か国以上が賛成するということが必要だったのです。
外務省、文化庁、内閣官房のスタッフで構成する日本政府代表団によると、韓国との協議はかなり進んでいるとのことだったのですが、上記のような世界遺産委員会の審議の仕組みもあり、フタを開けたらどうなるのか、それなりに緊迫した状況だったのです。
15か国が修正案に賛成 韓国から「異議」は・・・
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注目の「佐渡島の金山」は27日の朝一番、委員会のその日最初の審議となりました。まずICOMOSが「佐渡島の金山」の概要を説明し、「追加の情報が必要」という事前評価に至った理由を説明します。
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その後、開催国インドの議長が「委員国のブルガリアから決議文の修正案が出ています」と説明。会議場の大モニターに修正案(英語とフランス語)が映しだされたのですが、元々の決議文の「追加で情報が必要」という部分が赤字&訂正線が引かれ、新たに青い字で「世界遺産に登録」と書かれています。
先に説明したように、世界遺産委員会の審議は「決議文を作る」ことによって結論を出します。決議文の修正案を出せるのは委員国だけなので(自国が推薦する世界遺産候補のときを除く)、日本以外のどこかの国が「『佐渡島の金山』を世界遺産に登録する」という修正案を出すことがまず必要でした。ブルガリアが修正案を出してくれたことで、最初のハードルは乗り越えたわけです。
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続いてブルガリアの政府代表団が修正案について説明。同時に「なぜ『佐渡島の金山』が世界遺産にふさわしいか」についても説明していきます。さらに、ブルガリアの他にもこの修正案に賛成する委員国の国名が、決議文の中に青い字で加筆されていきます。
ブルガリア、ジャマイカ、ベルギー、カザフスタン、カタール、イタリア、ベトナム、ザンビア、セネガル、ケニア、ギリシャ、インド、ウクライナ、ルワンダ、メキシコの15か国を数えました。
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「この修正案に異議がある国はありませんか?」
と、インドの議長が確認します。すべての委員国が修正案に賛成の意志を示さなくても、「異議あり」という声が出なければ、修正案は可決されます。
「異議ありませんね?」
と議長が再確認。委員国である韓国は発言を求めす、異議は出ません。そして・・・
「修正した決議案を採択します!」
と議長が宣言し、木槌で机を叩いた瞬間、「佐渡島の金山」の世界遺産入りが決定したのです。
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新しい世界遺産が誕生すると、その国の代表団が4分のスピーチを行うのが通例です。今回も日本政府代表団が英語でスピーチし、「特に朝鮮半島出身労働者を誠実に記憶に留めつつ、韓国と緊密に協議しながら『佐渡島の金山』の全体の歴史を包括的に扱う説明・展示戦略及び施設を強化すべく引き続き努力していく」と述べました。
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異例だったのは、日本に続いて韓国政府代表団も4分のスピーチを行ったことです。決定後のスピーチは通常は世界遺産になった国だけが行うのですが、今回、韓国は特別に発言の機会を与えられたわけです。その中で韓国は、日本側の歴史展示などの対応を認めた上で、
「大韓民国と日本の相互合意を通じて関連する問題を解決しようとする意志を考慮すると、未来志向的な両国関係を促進するアプローチを取る必要がある。大韓民国政府は長い間、慎重に熟慮した末、佐渡鉱山を世界遺産に登録するための委員会の合意決定に参加することを決めた」と、合意した理由を説明。まさに両国政府間で事前の「相互合意」があったことがうかがえる内容でした。
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興味深かったのは、修正案に賛成したのが15か国だったこと。これに日本を加えれば16か国。もしも投票という事態になっても、修正案の採択に必要な「委員国の四分の三」をギリギリで押さえていたことになります。
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ともあれ、日本の26番目の世界遺産となった「佐渡島の金山」。
27日の審議では他にもたくさんの世界遺産が誕生したのですが、それらは次回のリポートで紹介したいと思います。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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