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世界最速を決める男子100m サニブラウンが“92年ぶり”に決勝進出の壁を超えるのは確実 メダルに迫る走りも期待【パリ五輪陸上競技プレビュー】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年8月3日 7時0分

TBS NEWS DIG

サニブラウン・アブデル・ハキーム(25、東レ)がパリ五輪で歴史的な快挙を成し遂げようとしている。陸上競技男子100mは世界最速を決める種目。決勝進出者(近年は8~9人)はファイナリストと言われ、尊敬を集める。日本人の五輪ファイナリストは、1932年ロサンゼルス五輪6位(10秒8。当時は10分の1秒単位で計測した手動計時)の吉岡隆徳ただひとり。その後は誰も成し遂げていない。一昨年の世界陸上オレゴン大会7位、昨年の世界陸上ブダペスト大会6位のサニブラウンが、92年ぶり男子100mファイナリストの期待を担う。サニブラウンは決勝進出のみならず、メダル獲得をも視野に入れている。

過去には朝原と山縣が決勝に迫る走り

“暁の超特急”と言われた吉岡隆徳以降、日本人スプリンターのべ38人が人類最速を決める舞台に挑んだが、決勝への壁を超えることができなかった。
準決勝に進出した選手は6人いた。
飯島秀雄は後に代走専門としてプロ野球界入りした選手。スタートは国際的に見ても強かったが、64年東京大会準決勝2組7位、68年メキシコ大会準決勝1組8位。吉岡が持っていた10秒3の日本記録を10秒1に縮めた選手だが、世界の進歩に日本勢は追いついていなかった。

2人目は96年アトランタ大会の朝原宣治で、準決勝1組で5位。当時の100mは1次予選、2次予選、準決勝、決勝というラウンドの設定で、準決勝は2組4着取りで行われていた。朝原の記録は10秒16の五輪日本人最高タイム。決勝に進んだ準決勝1組4位の選手とは0.05秒差で、日本人選手の決勝進出も期待できると思わせた。

3人目は00年シドニー大会の伊東浩司だった。朝原が97年に出した10秒08の日本記録を、98年に10秒00と更新した選手。9秒台の扉をノックした。しかし00年はシーズンベストが10秒25で、シドニー大会準決勝も1組7位(10秒39)だった。
だが朝原と伊東が日本の短距離レベルを引き上げたことで、その後は準決勝進出は当たり前になった。08年北京大会では塚原直貴が準決勝2組7位(10秒16の五輪日本人最高タイ)。北京五輪の4×100mリレーは1走・塚原、4走・朝原で銀メダルを獲得した。

12年ロンドン大会の山縣亮太(32、セイコー)も、当時大学3年生ながら予選で10秒07の五輪日本人最高で走り準決勝に進出した。準決勝は3組5位(10秒10)。16年リオデジャネイロ大会でも山縣が準決勝2組5位(10秒05の五輪日本人最高タイ)、ケンブリッジ飛鳥(31、Nike)も準決勝3組7位(10秒17)と、準決勝に進む選手は増えた。

山縣のリオ大会は決勝進出まで0.04秒。タイム的には最も決勝に迫った。またリオデジャネイロ大会4×100mリレーでは山縣1走、ケンブリッジ4走で銀メダルを獲得した。

サニブラウンは決勝で9秒8台を狙う

日本の男子100mは97年に桐生祥秀(28、日本生命)が9秒98を出し、9秒台時代に突入した。19年にはサニブラウンが9秒99で走った後に9秒97と日本記録を更新し、小池祐貴(28、住友電工)も9秒98をマーク。21年には山縣が9秒95と日本記録を縮めた。

【日本人選手の9秒台全レース(誕生した順)】
※左から年月日、選手、記録、風、大会、成績

2017/9/9 桐生祥秀 9秒98(1.8) 日本インカレ 1位
2019/5/11 サニブラウン 9秒99(1.8)南東地区選手権 1位
2019/6/7 サニブラウン 9秒97(0.8)全米学生 3位
2019/7/20 小池祐貴 9秒98(0.5)DLロンドン 4位
2021/6/6 山縣亮太 9秒95(2.0)布勢スプリント 1位
2022/7/15 サニブラウン 9秒98(-0.3)世界陸上オレゴン 予選7組1位
2023/8/20 サニブラウン 9秒97(0.3)世界陸上ブダペスト 準決勝1組2位
2024/5/30 サニブラウン 9秒99(0.4)DLオスロ 2位

その9秒台選手たちの中から、東京五輪後に抜け出したのがサニブラウンだった。22年の世界陸上オレゴン大会予選で9秒98で走り、五輪&世界陸上の日本人最高タイムを更新。日本人で初めて、向かい風の中で9秒台をマークした。準決勝も突破して、83年に始まった世界陸上で初の男子100mファイナリストとなり、7位入賞を達成した。

サニブラウンは昨年の世界陸上ブダペストでも、準決勝で9秒97の自己タイをマーク。世界陸上2大会連続ファイナリストとなり、6位入賞と順位を1つ上げた。サニブラウンの強さは、世界一を決める大会で9秒台を出せること。90年以上前の吉岡との比較は難しいが、日本人選手歴代最強と言っていい。

サニブラウンがパリ五輪で期待されるのは、まずは8月4日20時(日本時間5日3時)から行われる準決勝で9秒台を出すことだ。そうすれば92年ぶりの決勝進出は間違いなく実現できる。

さらに、1時間50分と短いインターバルで行われる決勝でも、9秒台を出したい。オレゴンの決勝では4人が、ブダペストでは5人が9秒台で走っている。パリ五輪の決勝で9秒台を出せば、ブダペストの6位以上の順位が期待できる。

だがサニブラウンは、「メダルを取りたい」と、さらに目標を高く設定している。東京五輪は9秒89、オレゴンは9秒88、ブダペストも9秒88が銅メダル記録だ。

「日本記録は通過点。オリンピックでメダルを取るために9秒8台を出します」

蘇炳添(34、中国)が東京五輪準決勝でマークした9秒83のアジア記録も視野に入れて走るだろう。

新たなスタート技術とイタリアの大会でのシミュレーション

サニブラウンの今季は、良いレースとそこまで良くないレースが繰り返されている。
室内シーズンは好調で2月11日に60mで6秒54と、19年に出した自己記録と同じタイムで走った。3月23日に10秒02、4月13日に10秒04と、パリ五輪参加標準記録の10秒00に迫るが破れないレースが続いた。昨年の世界陸上で入賞しているサニブラウンは、今年に入っての標準記録突破でパリ五輪代表に内定する。

5月19日のゴールデングランプリ(GGP)は予選を10秒07で走ったが、9秒台が期待された決勝は脚が痙攣して10秒97に終わった。

標準記録を突破できなくても、世界ランキングで出場資格を得ることは確実だった。だが「9秒台を出せなかったらパリ五輪に出る意味はない」と自身に9秒台を課して渡欧、5月30日のDLオスロ大会で9秒99をマーク。パリ五輪代表を内定させた。

今季のサニブラウンはスタートを変えている。冬期練習期間に2歩目の動きを変更したのである。その変更内容をサニブラウンは、GGPのときに以下のように説明していた。

「まだできていない部分がありますが、感覚的にスタートが例年より良くなっています。2歩目が短くなる傾向があった部分を直すことができました。今までは1歩目をしっかり出て、2歩目を着くとき脚が返ってこなかった(前に出なかった)。それをカバーするために、3歩目以降が少しオーバーストライドになっていました。そこで(動きや力を)ロスしていましたね。いつもより早い段階で乗れるようになったので、自分自身ビックリしています。その1歩でまったく違う前半の30mになっています」

DLオスロではスタートの改良が結果として現れ、序盤から出遅れなかった。

「9秒台は悪くありません。ここからさらに一段階、二段階上げていきたい」

7月14日のリエティ(イタリア)のレースでは10秒20で4位。一見、よくない結果に思えるが、4位までの全員が、サニブラウンと同じタンブルウィードTCの選手だった。勝負は重視しないで、練習の一環で出場したと見て間違いないだろう。東京五輪金メダリストのL.M.ジェイコブス(29、イタリア)もチームメイトだが、大差があったわけではない。サニブラウンはリエティには、トレーニングで追い込んでいる状態で出場した。これもGGPの際に、痙攣を起こしてしまったことについて次のように話していた。

「ここまでは(スタートを中心に)短い距離の練習しかしてきませんでした。これからは120mや150mのちょっと長い距離、スピード持久のメニューが(コーチから)来るのかな、と心しています」

リエティは2日間で3本を走った。初日に1本、2日目に2本と、五輪本番の競技日程をシミュレーションした。パリでメダルを目指した戦いをする準備が、サニブラウンはできている。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

※写真は世界陸上ブダペストの決勝

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