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女子やり投金メダルの北口榛花。次の目標である70m、そして1年後の世界陸上東京は何色のやりで投げるのか?【パリ五輪陸上競技】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年8月13日 12時0分

TBS NEWS DIG

パリ五輪陸上競技10日目の8月10日、女子やり投の北口榛花(26、JAL)が65m80で、2位に2m近い差をつけて快勝した。北口は昨年の世界陸上ブダペストに続く金メダル。両大会での金メダル獲得は、男子ハンマー投の室伏広治(現スポーツ庁長官)に次いで史上2人目の快挙だった。

ずっと目標としてきたことを達成し、珍しく感じていたプレッシャーからも解放された。だが、すぐに次の目標が目の前に現れた。

「ずっと欲しかった世界陸上、オリンピックと金メダルを取ってもまだ満足できませんでした。次は70mを投げたい」

その70mを投げるためにいくつか種類のあるやりの、どれを選んで投げるかも今後は注目される。

夢の中では70mを投げていた北口

これまでは最終6投目に勝負を決めてきたが、パリ五輪では1投目だった。65m80を投げ、そのまま逃げ切った。

「他の選手にプレッシャーをかけられるように1投目から絶対に行きたいと思って臨みました。最近助走スピードを速くしようとして、足踏みから助走に入るタイミングが少し早くなっていたんです。そこに昨日の夜か今朝くらいに気付いて、焦らずに助走ができました」

だが「1投目であれだけ投げられたらもうちょっと記録が欲しかった」と悔しさも吐露。「夢の中では70mを投げられていたのでちょっと悔しい部分もあります。また頑張って実現させたいです」。

北口が70mを投げたとき、やりの後尾の色にも注目したい。パリ五輪では6投ともオレンジ色のやりを投げていたが、その色が緑になっているかもしれないのだ。
北口は近年はずっと、オレンジ色の“ネメト製75m”のやりをメインに投げている。映像で確認できている範囲でも19年の66m00(北九州)、23年の67m04(ダイヤモンドリーグ・シレジア)と67m38(ダイヤモンドリーグ・ブリュッセル)と日本記録3大会は“オレンジのネメト”だった。昨年の世界陸上ブダペストと今回のパリ五輪、金メダル2大会もオレンジである。

後尾が緑色のやりは“ネメト製80m”だ。製品名のつけ方として、実際の飛距離より10mくらい大きくするのが慣例のようだ。今年の国内試合では5月の水戸招待の4投目(ファウル)で“緑のネメト”使っていた。北口は「大事なところでは使っていませんが」と前置きしてから、次のように説明した。

「何年か前からチャレンジしていますが、まだ使いこなせている感じは持てません。オレンジより硬いので、ある程度パワーを出すことができたり、自分の体がしっかり動く時であったりしないと遠くに飛ばせないと感じています。感触が良いと思ったときだけ投げています」

水戸は調子の良し悪しより、「1試合で1回は使ってみよう」という意図だった。実際のところ“緑のネメト”の最高記録は59m台止まり。それが何度かあり「また59か、って思うんですが、硬いやりは(飛行中にしなったりして)空気抵抗が大きくならないので、上手く投げられるときは距離が伸びてくれると期待できます。すぐにダメだ、と思ってオレンジに戻しちゃうんですけど」

投てき指導者に話を聞くとやりの硬さの影響は、やりを持って腕を振っている間にも生じるようだ。硬いやりを振るには力とスピードが必要で、そうでない選手はしなりが生じる軟らかいやりの方が適している。

いずれにしても“緑のネメト”が北口の中で、70mを投げるための選択肢の1つになっていることは確かだ。

世界記録への意欲が強くなったネメト氏との会話

北口は大きな目標と目前の目標を、上手く意識し分けてきた。
21年の東京五輪まではそれができず、“とにかくメダルを”という意識が強かった。その力がないのに目標にこだわると、余分な力みが生じてしまうことを痛感した(決勝に進んだが左わき腹を痛めて12位)。

22年の世界陸上オレゴンは確実に入賞することを目標として、銅メダル(63m27)と想定以上の結果を残すことができた。23年の世界陸上ブダペストは「メダルを意識してメダルを取る」ことを目標にして、金メダル(66m73)を取ることができた。

パリ五輪は「メダルを」と少し幅を持たせて設定したり、「できれば金メダルを」と、心理状態を考えて言い分けたりしていた。7月20日のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会に4位(62m69)と敗れて以降は、目標設定の仕方よりも「勝負ができると思えなかった」。だが直前になって、特徴である柔軟性を生かした動きができるようになり、前述のように夢の中では70mを投げられるようになっていた。

北口の一番大きな目標は、以前から世界記録だった。チェコ人のD.シェケラック氏の指導を仰ぎ始めた19年に、同氏にそう話したという。
昨年の世界陸上ブダペストでは、世界記録への意識が強くなる出来事があった。ネメトのやりを製造するミクローシュ・ネメト氏本人に偶然会ったのである。ネメト氏は1976年モントリオール五輪男子やり投金メダリスト。ハンガリー人でブダペストは地元だった。

次のようなやりとりがあった。
ネメト氏
「シュポタコワ(チェコ)がどのやりで世界記録を投げたか知っていますか」
北口
「知っています、“緑のネメト”ですよね」
ネメト氏
「貴女もそのやりを投げられるようにならないとね」
 
口は前述のように、それ以前から“緑のネメト”は試していた。だがネメト氏と会ってから「ちょっと意識しちゃっている」という。最大目標である世界記録への意欲が強くなったようだ。

“緑のネメト”にこだわる必要はない

それでも北口は、現実的な目標を優先するだろう。“緑のネメト”を投げるかどうかは冷静に判断するはずだ。

「他の70m台の選手はもっと軟らかいやりで投げています。“緑のネメト”でないと飛ばないわけではないんです。こだわる必要はないってわかっているんですけど…まあまあ」

自身の70mスローを夢に見たのは、「パリの選手村に入ってから毎日」だった。現実的、具体的にこういう投げ方をすれば70mを投げられる、というイメージを持てているからだろう。パリ五輪直前だったことを考えれば、“オレンジのネメト”でイメージしている可能性が高い。

だが武器である柔軟性を生かしながらも、“ここの筋力やこの部分のスピードを上げられれば”とイメージできるようになれば、“緑のネメト”に変わるかもしれない。北口の最大目標と現実的な目標が過去一番に近づいていることを考えると、可能性はゼロではない。

1年後の夏、東京世界陸上が開催される。3年連続金メダルを目指す北口は、何色のやりを持って国立競技場のフィールドに立つのだろうか。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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