1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

右腕は切断され、売られた アルビノの体を呪術に使用 “これはビッグビジネス” ザンビアに残る“迷信”の実態

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月2日 17時45分

TBS NEWS DIG

開幕したパリ・パラリンピックのザンビア代表チームにはアルビノのアスリートがいる。モニカ・ムンガ選手(25)。アルビノによく見られる視覚障害で、女子陸上・視覚障害部門で400メートルを走る。

2020年2月、東京パラリンピックに出場予定だった彼女をザンビアで取材した。取材のメインテーマは、パラ競技ではなく、アフリカで後を絶たない「アルビノ殺し」。実際モニカも幼い頃、親戚から切りつけられたことがあった。(前編参照

後編では腕を失った被害者や、「呪術医」らの話を通して、アルビノ襲撃の実態にさらに迫る。

アルビノめぐる“迷信” 「体」が高額で取引

ぶっといイモムシが、目の前を悠々と横断していく。1930年代のマーキュリー列車のようなシェイブ。これは何かの幼虫なのか。でも「幼虫」と呼ぶには違和感を覚えるくらい大きい。

2020年2月初旬。ザンビア東部、ムフウェの森の中のロッジ。きのう、首都ルサカに着いた我々は小型飛行機でムフウェまで移動してきた。

泊るはずだったロッジが雨季の大雨で一部水没し、急遽、空港のそばの別のロッジに泊ることになった。古い。蚊帳には穴が開いていた。

きょうはこれから車でルンダジという町のそばまで行く。そこにはミリアム・クムウェンダという21歳(当時)の女性が、母親とおじとともに、既に到着しているはずだ。

ミリアムには右腕がない。切断され、売られたのだ。理由はただ一つ。彼女がアルビノだからだ。

アルビノは生まれつきメラニン色素が欠乏している人たちで、日本を含めどこの国にもいる。視覚障害を持つ人も多いが、程度には差がある。太陽光に弱いのでケアが必要になることもあるが、それ以外は、いわゆる「普通の人」と変わらない。

しかし、アフリカの一部地域では、アルビノの体には「特別な力」があるとの迷信が存在する。そして、そのために「体」が高値で取引される。

なので、襲撃事件が後を絶たない。多くの場合、殺害され遺体が「切り売り」されるが、ミリアムは生き延びた。

ミリアムはチャマという、ルンダジからさらに北上した地区で生まれ育った。襲撃現場もそこだ。

当初は我々もチャマまで行くつもりだったが、これまた雨期で川が氾濫し橋が流されてバイクでないと到達できなくなってしまった。撮影機材を持ってのチャマ入りは困難と判断、現地のコーディネーターが手を尽くしてミリアムとその家族をルンダジのそばまで連れてきてくれた。

ミリアムは民家の軒先に、母親のビューティー(当時45)、おじのイドン(当時42)とともに並んで座っていた。

ミリアムの肌は白く、少し赤みがかかっている。髪は黄色っぽいクリーム色。オレンジを主体とした柄の半袖の服を身に着けていて、袖の部分はストライプ柄になっている。そこからのびているはずの右腕は、上腕の半分くらいのところで切断されていた。

残った左腕で時折、娘のプレーズ(当時2)を抱きかかえる。襲撃当時はお腹の中にいた。未婚の母だ。このあたりでは珍しいことではない。なおプレーズも母親のビューティーも肌の色は黒い。

挨拶をし、会いに来てくれたことへの感謝を伝える。何があったのか、聞かせてください、そう促すと、ミリアムは淡々と語り始めた。

襲撃犯の会話「右腕じゃないとダメだ」

襲撃されたのは2017年の11月のこと。数日前から予兆はあった。夜、同じ地区に住んでいる男たち3人が訪ねてきたのだ。

ミリアムは男たちに家の外に呼び出されたが、話し声を聞いた父親も外に出てきて男たちを問い詰めた。

ミリアムの父
「何の用だ」

男の一人
「タバコの火を借りたいんだ」

ミリアムの父
「タバコの火を借りにここまで来たのか?あんた、いつからタバコ吸うようになったんだ?」

男の一人
「いや、友達が…」

いかにも怪しい。父親は「何か起きたらお前らを犯人と見做す」と警告、男たちは引きあげた。

翌日、男たちは戻ってきた。またミリアムを呼び出し、一人が100クワチャ(当時のレートで950円)の現金を出して、「これで俺とヤれ」と言った。ミリアムは「何であんたみたいなオジサンと」とはねつけ、男たちは再び退散した。

さらにその翌日も男たちはしつこくやってきたが、今度は母親のビューティーに追い払われた。

そして、その次の夜。ミリアムが寝床に入っていると、またもや男らがドアをノックして「ミリアム、外に出てきて」と言う。

これで4日目だ。「こんな夜更けになんで外に出ないといけないのか」と難色を示したミリアムだったが、急に眠気を覚え、気が遠くなるのを感じた。

何かしらの薬物が使われたのだろうか。朦朧とする意識の中、布が口に突っ込まれた。目隠しはされなかった。

一人に上半身を抱えられ、もう一人に足のほうを持たれ、道まで運ばれ、地面に横たえられた。そこにはもう二人、男がいたという。そのうちの一人が刃物でミリアムの左腕を切断しはじめた。

すると別の男が「違う、右腕じゃないとダメなんだ」と言った。そして、ミリアムの右腕が切り落とされた。ミリアムは一生、隻腕になった。

男たちは切断した右腕を、持ってきていた薪の中に隠すと、ミリアムの頭や背中を刃物で何度も殴りつけ、去って行った。

暗闇の中でミリアムが痛みで泣き叫んでいると、近所の人たちが集まってきた。両親も起きてきた。取り乱す母親。父親は必死にミリアムを病院まで運んだ。

その後、実行犯4人は逮捕された。一人は教師だった。

顔を見られているのに、逃げられると思ったんでしょうか?そう問うと、「ミリアムが死んだと思ったんだろう」おじのイドンは吐き捨てるようにそう言った。

もう一人、逮捕された人物がいる。隣国マラウイのウィッチドクター=呪術医だ。
アルビノ襲撃には、伝統療法を行う呪術医が絡んでいることが多い。

捜査当局の調べでは、切断されたミリアムの右腕は、国境を越えてマラウイに持ち込まれ、そこで骨と肉に分けられ、この呪術医に持ち込まれた。

肉の部分は溶かされ、ローションのように加工されて売られたのだという。骨は証拠として警察に押収された。

実行犯に話を聞きたいと思って刑務所での面会を画策したが、実現しなかった。

「私たちは、同じ人間ですよ」

チャマのような田舎で、片腕で暮らすのは特に困難だ。農作業、炊事、洗濯、入浴、そして育児、すべてに支障が出ている。

ミリアム
「腕が二本あった頃は何でもできました。今は、全てが難しくなってしまいました」

母親ら、一緒に暮らす家族の負担も増えた。その上、再び襲撃される可能性もリアルにある。

ミリアム
「前回は放置されたのが家のそばだったので生き延びましたけど、次はどこか離れたところに連れていかれて、切り刻まれるかもしれません。そうなったら、死んでしまいます」

生まれ育った場所。でも、地域の人たちを「怖い」と感じるようになってしまった。できれば移住したい。それもこれも全て、迷信のせいなのだ。

生まれつきメラニン色素がない、というだけで、腕を切断され、不自由な生活を強いられた上、怯えて暮らさなければならない。

あまりに理不尽だ。ミリアムに、あえて聞いてみた。

アルビノに生まれたことをどう思っていますか?

ミリアム
「神の思し召しです。私がアルビノとして生まれたこと、黒い肌に生まれなかったことは」

母親のビューティーも「子供は神様からの授かりものですから」と言い、「誰にだってアルビノの子が産まれる可能性があるんですよ」と付け加えた。

犯人や、“アルビノの体に神秘的な力がある”と考えている人に、何を言いたいですか?そう問うと、ミリアムは短く答えた。

「私たちは、同じ人間ですよ。なぜ、こんなことをするんですか」

シンプルだけど、それが全てだ。ミリアムにとっては自分が一人の人間であることは自明のことだ。

犯人たちが切り取っていった右腕だって、犯人たちの腕と何も変わらない。普通の人間の腕、でも同時に、ミリアムにとって、かけがえのない腕だったのだ。

アルビノのミュージシャン「特別な力なんてウソ」

夕暮れ時のルンダジのバスターミナルで、高い天井にビートの効いたアフロ・エレクトロ音楽がガンガンに反響している。壁に即席のスクリーンが設置され、黒いキャップを被ったアルビノの男性がラップトップを操作している。

ジョン・チティ。多くのヒット曲を持つミュージシャンだ。シルキーな歌声を活かしたラブソングの一方で、メッセージソングも歌ってきた。「Ni Colour Chabe」(肌の色だけ)という曲のMVには、アルビノの子供たちがたくさん出演、その脇でジョンが歌う。

“君ができることなら僕にだってできる”
“君がなれるものなら僕もなれる”
“肌の色だけじゃないか”

同じくアルビノであるジャマイカの有名ミュージシャン、イエローマンらとアルビノ襲撃事件を非難する「Stop Killing Us」という曲を発表したこともある。襲撃事件があれば現場に足を運び、調査もしてきた。

バスターミナルではアルビノ襲撃がいかに間違っているかを訴えるビデオの上映に続いて、ジョンが集まった50人ほどの聴衆に対話を仕掛けていた。

「ビデオを見て何を思ったか、知り合いにアルビノはいるか、言いたいことがある人は手を挙げて!」

聴衆もマイクを回しながら発言する。

「アルビノの体に特別な力があるなんて嘘だ」
「(アルビノの体を使った品物のおかげで)金持ちになったと言う人は、別の理由で金持ちになったんでしょうよ」
「政府はいったい何をしているのか」

対話が一通り終わったところでジョンが一曲歌い、啓発イベントはお開きとなった。ジョンによれば聴衆の中から迷信を肯定するような声も飛んできたというが、概ね反応は良かったそうだ。

バスターミナルや市場など公の場所でイベントを開くのは、襲撃に雇われるのがこうした場所に集まる極めて「フツーの人たち」だからだが、一方で元凶はアルビノの体を「オーダーする」金持ちなのだとジョンは言う。

増加傾向の“ビッグ・ビジネス”

「これはビッグ・ビジネスなんですよ」

ジョンたちの調査によれば、襲撃を生き延びた被害者の1人は、犯行グループが「これで家が買える」と話していたのを記憶していた。ザンビアでは5000ドル以上を意味するという。襲撃犯は通常複数。つまり実行犯に1万ドルから2万ドルを支払っても元が取れるだけの商売なのだ。

「実行犯たち自身がアルビノの体からできた品物を使うのではありません。彼らはカネが欲しくてやっているだけです。背後にいる金持ちは実行犯にカネを払い、呪術医にもカネを払ってアルビノの体を手に入れますが、自らの手は汚さないんです」

これはザンビアに限らないが、選挙の時期に襲撃が増える傾向もあり、ジョンたちは、当選したい候補者たちがアルビノ襲撃をオーダーしている可能性がある、との疑念も持っている。

ここルンダジやその周辺では過去に4件のアルビノ殺害が記録されているそうだが、明るみに出ない襲撃も多いのだという。それらは「自然死」として記録され、隠蔽されるのだと。

ザンビアでは2019年、公式には6件の襲撃があったが、表に出ないものも含めれば、10数件から20件起きている、とジョンは推定する。増加傾向にあるそうだが、その理由の一つはザンビア政府が有効な対策を取れていないからだ、と。

「マラウイはアルビノ襲撃に厳罰化で対抗しています。タンザニアは呪術医を非合法化しました。ケニアにはアルビノの閣僚もいます」
「ザンビアでも事件をしっかり捜査して犯人を捕まえ、厳罰を与えることが抑止につながるはずです」

アフリカは黒人のもの、という呪縛

襲われ、腕を切り取られたり、殺されて、遺体を切り刻まれたりというのは最悪の出来事だが、そうでなくてもアルビノは差別に晒されながら暮らしている。実の親から拒絶されることもある。

ジョン自身、父親から拒絶され、幼少期は母親だけと暮らしていた。(その後、父親とは和解したという)。アルビノの赤ちゃんが生まれたことで、家族・親族間で「お前のせいだ」「いやお前のせいだ」と不和が生じ、家庭崩壊に至るケースも多い。

「アフリカは黒人のものだという概念があるからです。アフリカはブラック・コンティネントであり、アフリカはブラック・ピープルのものだ、という概念。黒人ファミリーに突如、白い肌の子供が生まれると、その子は居場所がなくなるんです」

「外国に行くことも多いけど、白人やアジア人と交流するのには何の支障もありません、でも…」と、ジョンは自分の肌を指さしながら言う。

「黒人たちは、“アフリカ人であるためには肌が黒くないといけない”と思っています。ここが黒くなければ、アフリカ人ではないんだ、とね」

降り出した雨がバスターミナルの金属の屋根に当たって立てる粒の細かいノイズに包まれながら、「アフリカは黒人のもの」というテーゼに深く考えず納得していた自分もいたな、と、頭の後ろのほうで一瞬考える。

その、一見まっとうなスローガンのせいで生きにくさを感じている人たちもいるのだ、と思い知らされた。

ジョンにとって音楽はその生きにくさから脱出する手段でもあった。この日の啓発イベントで最後に歌った歌は、観客の一部も一緒に歌っていた。何についての歌なんですか、と聞くと、ジョンは微笑みながら答えた。

「ラブソングですよ。“愛してる。出ていくならドアを閉めて行ってくれ。君以外にはもう誰も愛することはないだろうから“っていう、アルビノの話とは何の関係もない典型的なラブソングなんです」

歌うつもりはなかったが、聴衆からリクエストされたそうだ。

「歌い始めればみんな私がアルビノだとかもはや全然気にしません。音楽が良ければ、みんな踊り出して、その一瞬だけど、一つになれます。音楽には人を一つにする力があります。それが私の強みなので、これからも歌い続けますよ」

冷静に事実やデータを語りながらも背後にたぎる怒りを感じさせるジョン。ポジティブなトーンになったのは、この時だけだった。

インタビューを終えるころには、すっかり日が暮れていた。

スーツ姿の“呪術医” 選挙でも暗躍

鈍い色をした壁の平屋が見えてきた。呪術医ジャンゴ・ムトンガ氏の診療所だ。

「呪術医」という言葉からは想像し難いかもしれないが、ムトンガ氏はスーツにブルーのYシャツ、ネクタイ姿で戸口に立っていた。胸のポケットからはチーフが覗く。頭頂部から後頭部を覆う短く刈り込まれた髪。額に刻まれた皺。挨拶をすると私の手を固く握った。ハスキーな、そして地を這うような低い声。

診療所の中はとても暗い。「ああ、呪術だしこうやって暗くないといけないんだな」と勝手に納得していたのだが会話の中で最近建てられたためにまだ電気が引かれていないのだということが判明し、自分がステレオタイプに囚われているのを恥じる。すみません。

呪術医に会いに来たのは、アルビノ襲撃にはだいたい呪術医が関係しているからだ。持ち込まれたアルビノの体を処置したり、売ったり。そもそもアルビノの体に特別な力がある、という迷信はどこから来るのか。それによって人が殺されていることについてどう考えているのか。ムトンガ氏が直接関与していないにせよ、呪術医のモノの見方を知りたかった。

ムトンガ氏は父親も呪術医で、その後を継ぐ形で呪術医になった。インタビューは主に英語(&時に現地のチェワ語)で行ったが、ムトンガ氏は自分たちのことをwitchdoctor (呪術医)ではなくtraditional healer(伝統療法士)と呼ぶ。そして彼はこの地域の伝統療法士協会の会長でもある。

どんな病気を治せるのか、と聞くと、「様々な病気を治療できますよ。ただHIV/AIDSは無理です」と言う。が、「AIDSについても、薬草をまだ見つけていないだけで、森のどこかにあるはずですよ」と当然のように話す。

現代医療にどっぷり浸かっていると奇妙に響くが、ムトンガ氏はサイドテーブルに置かれた何らかの枝、葉、粉などを見ながら続ける。「こういう薬を信じない人もいますよ。でもみなさん忘れているんです。その昔、病院も何もなかったころ、みんなこういう薬を使っていたんです」

ムトンガ氏が受ける相談は病気だけではない。

「勝負ごとに勝ちたかったら、それに合った薬を処方します。就職したかったら、そのための薬をお渡しします。面接者はあなたを選ぶでしょう」

そしてある地方議会議員の名前を挙げて、自分が当選させた、と豪語した。ジョンが言っていた「選挙の時期にアルビノ襲撃が増える」という言葉が頭をよぎる。でも、そもそも当選させた、って、どういうことなんですか。

「当選したい人に薬を与えます。すると、あなたが別の候補者に一票入れるつもりで投票所に行ったとしても、投票ブースでその人の名前を見たら、気が変わってその人に投票してしまうんです」

そう言うとムトンガ氏は白い歯を見せ、静かに笑った。こちらも釣られて笑う。「効くんですね」と相槌を打つと、少し真面目な顔になって「ええ、効くんですよ」と応じた。

どうやったらそんなことができるんですか?とても興味深いんですけど。そう聞くと、

「それは秘密です。教えるわけにはいきません」と、また少し笑いながら言った。

“治すのが仕事 殺すことではない”

ただ、アルビノ襲撃について話をふると、強く非難する言葉が返ってきた。

「そんなのはカネに目のくらんだ奴らがやることです」
「我々、伝統療法士のやることではありません。そんな医者がいたら、私が拘束して資格をはく奪します」
「邪悪な薬を使ったら、その人間はもはや医者ではありません。我々の仕事は治すことです。殺すことではありません」

なぜ“アルビノの体に超自然的な力がある”という迷信が生まれたのか、彼らは具体的にどんなことを信じているのか、と聞いても「私にはわからない。そう信じている奴らを捕まえて聞いたらわかるんじゃないですか」と回答を避けた。知らないはずはないと思うが。

ムトンガ氏は“よそ者がやっていることだ”と印象付けたいようだった。「他の国からやってきて、人々をカネでそそのかして襲撃させているんでしょう。でも我々、ザンビアの伝統療法士はそんなことはしません」と。

しかし直後に「他の地区ではあるかもしれませんが、ここルンダジでは、ありません」と、若干トーンが落ちた。

では、貴方や伝統療法士協会はアルビノ襲撃を止めるために何ができるんでしょうか?

この問いを投げた時、私が想定していたのは、例えば“啓発活動を行っている”“怪しい動きがあったら通報するよう会員に呼びかけている”といった回答だった。

ムトンガ氏の答えは私の浅はかな予想をさらっと裏切った。
「薬をあげましょう。アルビノの人たちを守る薬を」

なるほど、そう来たか。インタビューを終えた後、薬の準備が始まった。

縫い針くらいの長さの針を木製?の土台に刺し、それにカミソリをとりつける。
何か飲料が入っていたと思われる青い透明なペットボトルから赤茶けた粉末を振り出し、その上に別のペットボトルからもう少し粒の粗く色の薄い粉をかける。

アイスクリームが入っていた平たい容器を開け、中に保存されている複数の包みから一つを取り出して開き、出てきた黒い粉を加える。それらを指先で混ぜ合わせ、針に取り付けられたカミソリに振りかける。

続いて油のような茶色の液体を粉に加えてこね、さらにカミソリに塗り付ける。この針とカミソリで出来たものは家のそばに置いておけば魔除けになるのだと言う。

そしてまた新しいカミソリを取り出し、「処方例」の実演として、助手でもある奥さんの脚・腕・額に小さな傷をつけ、そこに先ほど油のような液体と合わせた粉をすりこんでいく。何かを唱えながら。

こうすれば誰かが危害を加えようとしても指一本触れられることはない、そして効き目は死ぬまで続く…自信たっぷりにムトンガ氏は解説し、「アルビノの人に(ここに来るよう)教えてあげてください」と付け加えた。

「薬でアルビノ襲撃を防ぐ」と聞いた時には少々面食らったが、彼らの世界観から考えれば当然のレスポンスなのかもしれない。

玄関には診療所を訪ねてきた患者たちが取材の終わりを待っていた。ムトンガ氏の奥さんが一人ずつ招き入れ、同じようにカミソリで患者たちの手や額に傷をつけ、そこに薬をすりこんでいく。

いつのまにか入り込んできた鶏がせわしなく歩き回る。呪術医はここでは日常風景の一つなのだ。その風景の中ではペットボトルに入った粉による治療も、就職面接のための「薬」も、そんなに違和感のないことなのだと想像する。

ムトンガ氏の診療所で見たり聞いたりしたことと、アルビノ襲撃は地続きではある。「非科学的だ。遅れている」と思う方もいるだろう。

ただ、少々話の飛躍を承知で言えば、日本でも商売繁盛の熊手を買ってきて飾ったり、交通安全のお守りを車内にぶら下げたり、学業成就の絵馬をかけたり、縁結び寺や縁切り神社に行ったり、お祓いを受けたり、占い師に占ってもらったりする。

中央アフリカ共和国の民兵が小銭入れのようなものを数珠つなぎにして首にかけて「これで敵の弾が当たっても大丈夫」と誇らしげに語っている映像を見てちょっと驚いたことがあるが、日本も戦時中には「千人針」があった。

そうした様々な慣習は、きっと「科学的」ではない。もちろん「それは本気で信じているわけじゃない」「程度の差がある」…それはそうだ。

でも、人はどこかでこういう不思議な力に頼りたくなる傾向があるのは世界共通のコトで、ザンビアの例も、初見で受ける印象ほどには、距離が遠い話でもないのかもしれない、と思う。

人間のそんな傾向に、「異質なものを排除する」というもう一つの傾向がかけ合わさったところにアルビノ襲撃の悲劇がある。人間が人間を自分と同じ人間だとみなさなくなった時、人間は人間に対してすこぶる残酷になりうる。

撮影機材を撤収して別れを告げ車に戻っていると、ムトンガ氏が診療所から出てきて、WhatsAppを交換しよう、と言った。

啓発や社会進出は進むものの…

その後、アルビノのミュージシャン、ジョン・チティは啓発活動を続け、取り締まり強化の一環として、日本でいう公安委員会のメンバーにも選ばれた。また、2022年には彼の半生にインスパイアされたザンビア発の映像作品がNetflixで配信された。

ジョンのような人たちの取り組みもあってアルビノの人権についての社会の意識は高まってきている。モニカ・ムンガ選手も今やザンビアでは有名人、セレブっぽい出で立ちで雑誌に登場したこともある。

一方で、アルビノ殺しは無くならない。

取材で通ったルンダジ~チパタ間の幹線道路沿いでは、我々が去って1か月ほど経った頃、アルビノの男性の遺体が発見された。無残な姿だったと報じられている。これとは別に、アルビノの墓が暴かれて遺体が奪われたケースもあったという。

ザンビアと国境を接するマラウィでは2022年11月、祖母の家で寝ていた3歳のアルビノの女の子がさらわれ、殺害された事件が衝撃を与えた。遺体の左脚が持ち去られていたという。その2週間前には2歳のアルビノの男の子の拉致未遂もあった。

同じく国境を接するタンザニアでは2024年5月末、2歳のアルビノの女の子がさらわれ、2週間ほど後に遺体が発見された。こちらも遺体は一部が切り取られていた。地元の報道によれば警察は9人を逮捕、その中にはウィッチドクター、教会関係者、そして実の父親も含まれていた。

根は深い。アルビノという存在への理解がひろがり、迷信が消失していくまでには、少なくとも一定の地域では、まだ時間がかかるのかもしれない。

モニカがパリで走るのも、それを多くの人が見るのも、そうしたステップの一つだと信じたい。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください