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「あんなの落ちてきたら死にますよ」 突然の倒木で人命が奪われることも… 首都圏で急増中の“ナラ枯れ” 対策は?(2023年7月29日放送)【報道特集】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月13日 22時57分

TBS NEWS DIG

12日、東京・日野市で歩行者とみられる男性が落下してきた木の枝の下敷きとなり、死亡しました。

街路樹の倒木に関する国の調査によりますと、国や都道府県などが管理する道路では、近年、年間約5200本が倒木。その3割は、強風など災害以外の原因で倒れたということです。

例えば“ナラ枯れ”。意外な原因と対策を取材しました。
2023年7月29日放送「報道特集」を再公開します。

原因は? 突然 木が倒れテント直撃…夫婦が死傷する事故も

2023年年4月、神奈川県・相模原市のキャンプ場で事故が起きた。高さ18メートルの木が根元から突然倒れてテントを直撃。夫婦が下敷きになり、妻(29)が窒息死。夫(31)も重傷を負った。

事故の原因は特定されていないが、可能性として取りざたされたのは“ナラ枯れ”。ドングリのなるコナラやミズナラなど広葉樹が次々と枯れることだ。

事故の4日後、倒木現場を対岸のキャンプ場から見に来た人物がいた。
京都府森林技術センターの主任研究員、小林正秀さんだ。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「ナラ枯れは結構、人命が奪われる。もう少し研究者も言わなければと思ってる。最近は都会の被害が多い。公園とか多い」

小林さんはナラ枯れを防除する対策のスペシャリストで、全国をまわっている。この日は相模原市から依頼を受け、訪れていた。

ナラ枯れが原因となる交通事故も起きていた。       
長さ6メートルの太い枝が折れて、通りかかった宅配用の原付バイクを直撃。ミラーが折れ、男性がけがをした。

被害者
「スピード落としながら曲がっていたら、急にドガーンと雷のような音が。屋根あっても衝撃を感じる位。なかったら本当に首がいってたかも。最悪、死んでいたかもしれない」

実は、その木は市が伐採を決めた3日後に折れたのだという。

相模原市 水みどり環境課 宮野賢一課長
「木が枯れて他の木と区別がついてくるのが8月のお盆明け。職員が一つずつ確認して、ちょうどこの3本を切る予定だった。台風の影響の強風が吹いたので非常に残念な結果になった」

ナラ枯れの意外な原因!? 体長5ミリの小さな昆虫“カシナガ”

2023年4月、キャンプ場の事故が起きた相模原市。
市営のキャンプ場で木の安全性を確認。枯れた木の枝をせん定した。キャンプ場の管理者らを集め、ナラ枯れの危険性についてのセミナーも開いた。

ナラ枯れは、夏であっても冬のように葉が枯れ始めるのがその特徴だ。
ナラ枯れには意外な原因があった。

体長5ミリほどの小さな昆虫「カシノナガキクイムシ」。
通称「カシナガ」だ。

京都府森林技術センターの小林主任研究員は、ナラ枯れを食い止める対策を研究。
カシナガの生態について観察し、YouTubeなどで発信し続けてきた。

カシナガは繁殖に適した弱った木を見つけるとまず数匹が入り込み、フェロモンで仲間を集め、一斉に襲う。いわば虫の総攻撃で、幹に大量の穴を開けた上に病原菌を運び込む。

病原菌に感染した木は、水を吸い上げられなくなって枯れる。
5年ほどで倒れる危険性が高まり、実際、全国各地で倒木による死傷事故がおこっている。

総攻撃を受けた木を見ると、カシナガが開けた多数の小さな穴が…。

樹木医
「楊枝の先端が入るか入らないかの小さな穴。本当に細かい粉が積もっています」

根元には木の粉が残される。
カシナガがかじった木クズと排泄物の混ざったものだ。

カシナガは幹の中で繁殖し、羽化した成虫が木から木へと被害を広げる。
ナラ枯れは1980年代から広がり、2010年度をピークに一度は減ったが、ここ数年で再び拡大。

特に目立つのが、これまで限定的だった“首都圏”だ。東京では皇居にも被害が及び、首都圏は3年前の20倍に急増。人の多いエリアに倒木事故のリスクが迫っている。
                  
最も被害が多いのが神奈川県。           
カブトムシをとるツアーの主催者も、この夏はナラ枯れによる事故を警戒している。

「昆虫文化を子供たちに伝える会」三宅潔 代表
「あんなの上から落ちてきたら死にます」

相模原市は2022年だけで1300本以上の枯れた木を伐採。
それと並行して、あらかじめ木に殺菌剤を注入し菌の繁殖を抑える予防法を試したが、思うような効果が得られなかったという。

相模原市 水みどり環境課 宮野賢一課長
「(殺菌剤の注入は)被害が少ない時には発生を防ぐということで良かったこともあるが、被害が広がっていましたので」

ナラ枯れ対策に秘密兵器!その名も「カシナガトラップ」

そこで、新たに助けを求めたのがカシナガの生態に詳しい小林さんだ。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「これ今年、枯れた木。まだ水分がある。割ったら虫が出てくる」

京都府で被害が深刻化していたころには、世界遺産・下鴨神社の森の防除を任されたこともある。

小林さんの防除の基本は、守りたい木にシートを巻くこと。
狙われやすい根元を中心にできるだけ上まで巻く。この状態で5年ほどカシナガの攻撃が過ぎるのを待つ。だが、全ての木に巻くには費用もかかり、見た目もよくない。

そこで、小林さんが使った秘密兵器が「ペットボトル捕獲機」だ。
カシナガは嗅覚が鋭く、休まず、数十キロも飛べる。だが視力が悪く、歩くのが苦手だ。そこをついた。

先端3分の1に切ったペットボトルを繋げて幹につるす。すると仲間のフェロモンに誘われてきたカシナガが当たって入る。足を滑らせ、エタノールを入れた捕獲箱に落ちる仕組みだ。

小林さんらはこれをプラスチックで製品化。「カシナガトラップ」と名づけた。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「この虫がどんくさいのは目が見えていない。どこに着地するか選ぶのでモタモタしている。群飛するから両面で捕りたい」  

小林さんは相模原市の職員と、長さ6メートルの枝がバイクを直撃した現場を視察した。

枯れた木をどう見抜くのか。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「シハイタケ。これが生えていたら腐っています。一方で、黒い樹液が出ていたら虫に勝った証拠。樹液が出ている木は絶対に残す」

健康な木は、カシナガに攻撃されると毒となる黒い樹液を出して身を守ろうとするという。

取材中、近所の女性が職員に声をかけてきた。

市民
「これ枯れているの。なんでこれだけ切らないんだろうと」

小林さんは同じ木について…。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「これは生きてへん。切らなあかん。こういうの見逃す。キノコもある。生きている木と全然違う。めちゃくちゃ危ない(森の)入口だ!」

木は幹からキノコが生えていれば、枯れているという。

相模原市でも小林さんのカシナガトラップをいくつか取りつけ始めた。
市の職員は効果に期待しているという。

相模原市 水みどり環境課 宮野賢一課長
「今年はナラ枯れを切っていくだけではなく、残っている木を少しでも守りたいのでいくつか(カシナガトラップを)設置した」

木の伐採費用は処理費を含めると1本25万円。太いのはそれ以上かかる。
一方、カシナガトラップは1本に3セットで2万5000円。約10分の1だ。

課題は、定期的なトラップの掃除などメンテナンスの手間だ。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「カシナガトラップはそんな高いものではないが、どうつけるかとメンテナンスを誰が担うか。それにより全然料金が違う」

メンテナンスは市の職員だけでは負担が大きく、地域のボランティアと協力できれば、防除に成功する確率が高くなるという。

翌日、小林さんは東京・杉並区へ…。
カシナガの被害にあっている栗園の農家を訪ねた。

農家は東京都などにも相談したが、その指導に疑問を感じ小林さんに防除を依頼したという。

くりのないとう 内藤雅一さん
「(都からは)農薬で防除する指導だったり、伐採してとの指導になり、それはちょっと…。無農薬で育てているのでそれは避けたい」

この日は、小林さんのやり方を学ぼうと周辺自治体の担当者も見学に訪れた。小林さんは、彼らの手も借りながら次々と木を被っていく。狙われそうな木の根元には、ヒノキのペレットを撒くこともある。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「(クリやナラなど)広葉樹に来る虫は(ヒノキなど)針葉樹の臭いが嫌いです」

栗園は虫が入った形跡のある木を中心にシートを巻き、この夏、それらは守られているという。

小林さんは国学院久我山高校からも依頼を受けた。
4月に防除のためのトラップなどを設置した。これまでに4万匹を超えるカシナガが捕獲されている。木が5本枯れてもおかしくない数だという。

国学院久我山高校 七役仁さん
「効果がある。守れればそれに越したことはないので、木は残したい」

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