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「モーセの十戒のように部下が左右に割れ…」“私は偉い”万能感からパワハラ行為者になってしまった女性の告白と、人がパワハラに及ぶ背景

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月29日 7時0分

TBS NEWS DIG

「セクシャル・ハラスメント」が新語・流行語大賞に選ばれ、社会的に注目を浴びたのは平成元年のこと。それ以降も「○○ハラ」という言葉が続々と生まれては問題視されてきたが、令和6年の昨今は斎藤元彦兵庫県知事が「パワハラ」疑惑で9月30日付で失職し、出直し選挙に臨む展開を見せている。果たして、人がパワハラに及ぶ背景には何があるのか。「私は元パワハラ上司でした」と告白する“行為者”への取材と、専門家による解説の二面から考えていく。

店長に就任し、売り上げを1年で4倍に「仕事はすごく好き」パワハラに至るまで

ハラスメント対策専門家の山藤祐子さんは、これまで400以上の企業や自治体に研修を実施してきた。

その活動のきっかけは、新入社員だったころに上司から受けたセクハラ被害の経験と、自らのパワハラ行為により部下を退職させてしまったことへの禊だという。

「短大の卒業前、内定が出ていた商社にアルバイトで研修に行ったところ、お尻を触ってくる上司がいました。それなのに周りは『やめてくださぁ~い』程度の反応で、触られても仕方がないと受け入れてしまっている状況。私はどうしても我慢できず、内定を取り消してもらい、別のアパレル店で働き始めます。

そこの店長のことは、最初はいい人だと思っていました。しかし実際には、『今日はお金が足りないから』などと、レジの釣銭を持っていってしまうような人だったのです。他のみんなでお金を出し合い、売り上げを補填する日々が続いても、私より先に働いていた従業員たちは誰も『おかしい』と声を上げませんでした」

半年ほど経ち、新人ながらも販売実績を残せるようになっていた山藤さんは、ついに「もうやっていられない」と店長に対峙する。

「店長からは『自分に歯向かうなら辞めてくれ』と言われたので、私も『では辞めます』と、本社に電話をして事情を全部話しました。すると本社は『あなたは辞めなくていい』と私に味方してくれ、店長が別の店へ異動する代わりに、私が新しい店長に就任することになったのです」

その後も災難は続いてしまい、本社の部長からのセクハラ被害に苦しんだというが、「仕事そのものはすごく好きでした」と話す山藤さん。売り上げを1年で4倍にするほどの成果を挙げ、やがてベンチャー企業に引き抜かれるも、自身がパワハラ行為者と化してしまったのはここからだった。

「私が納得できるように話してくれ」部下に詰問 パワハラの定義は?

「非常に若いときに管理職になり、約200人の部下を束ねていたので、私が会社に行くと、まるでモーセの十戒のように人々が左右に割れるのです。何かと気を遣ってくれたり、物をくれたり、『憧れています』と伝えてくれたりする人もいました。

そこで私は『自分なら何を言ってもいい』『私は偉い』と万能感を抱いてしまったのでしょう。周囲が聞いている前で叫んだようなことはないのですが、部下に対しては『なぜできないのか、私が納得できるように話してくれ』と、ただ目を見て詰問していました。

相手が何を答えても『うん、それで?』『なぜそうなる?』と間髪いれずに返していたので、『逃げられない』『蛇に睨まれた蛙みたいになる』とはよく言われたものです。

また、研修や説明の最中にうとうと居眠りする部下などには『いつ寝ていつ起きているんだ』『プライベートの時間をどう使っているのか』と訊いていました。これは明らかに行き過ぎで、パワハラ6類型の1つである“個の侵害”に該当してしまっていたように思います」

パワハラ6類型とは厚生労働省がまとめたもので、次のように分けられている。

(1)身体的な攻撃
(2)精神的な攻撃
(3)人間関係からの切り離し
(4)過大な要求
(5)過小な要求
(6)個の侵害

そして、6つに分ける以前に、そもそもパワハラには3つの定義があるという。

「労働政策総合推進法では(1)職場において行われる優越的な関係を背景とした言動、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えている、(3)雇用する労働者の就業環境が害されるもの…といった3つの要件を満たすものをパワハラと定めています。

逆に、どれか1つでも満たしていないなら、パワハラではなく“職場のトラブル”や“いじめ”扱いされるということです。さらにいえば、被害者や行為者が、その言動をどう捉えているかは関係ありません」

そう語るのは、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科准教授であり、2023年には著書『パワハラ上司を科学する』(ちくま新書)を上梓した津野香奈美さんだ。

「同じような性別や年代で、同じような仕事をしている“平均的な労働者”が、それをパワハラと感じるかどうか?パワハラとは、あくまでも客観的な目線で判断されるものなのです」

部下のモチベーションを下げてしまう“破壊的リーダーシップ”とは

では、周りからパワハラに映る行為をしてしまう人にはどのような特徴があるのだろうか。津野准教授は“リーダーシップ”のあり方を指摘する。

「どうしたら部下のモチベーションを上げられるかという“良いリーダーシップ”が研究されるなかで、反対にモチベーションを下げてしまう“破壊的リーダーシップ”というものが議論されるようになりました。

破壊的リーダーシップにも複数のパターンがあり、部下にとってはメリットがあるけれども組織を破壊してしまうタイプ、部下も組織も破壊してしまうタイプ、組織にはダメージをもたらさないけれども部下が破壊されてしまうタイプ…といった具合に分かれます。

なかでも、特にパワハラと関連しているのが“専制型リーダーシップ”(組織にはダメージをもたらさないけれども部下が破壊されてしまうタイプ)と呼ばれるものです。部下に多大なノルマを課したり、部下が気に食わないことをしたら叱責したり、不合理な罰を与えたりと、いわゆる恐怖政治を行うタイプですね。

専制型リーダーシップを発揮する上司のもとでは就業環境が害され、部下がメンタル不調に陥りやすく、組織の生産性が下がってしまうことがわかっています」

例を挙げれば、世の中にiPhoneを送り出した故スティーブ・ジョブズも、専制型リーダーシップの持ち主だったという見方があるようだ。

「やはり何か新しいこと、前代未聞のことを行うときは、専制型リーダーシップを発揮する人が台頭しやすくなるのです。その結果イノベーティブな商品が生み出せたり、短期の目標を達成できたりすれば組織の利益になるため、もし犠牲者が出ていても、上層部はあまり問題視しません

パワハラ行為者も、部下や組織のためと思い、熱心に取り組むからこそ、行き過ぎになって『パワハラだ』と訴えられてしまうのです」

先述の山藤さんも次のように語っている。

「当時は、部下のことは把握しておかなければいけないし、そこまでしてこそ人は変われるのだと、本当に考えていたのです。その背景には、かつて私自身が厳しい指導のなかでも成長でき、実績を作ってこられたという成功体験がありました」

山藤さんの場合、大事にしていたはずの部下が次々と辞めていったことが、自身の行いを振り返るきっかけになった。

一方で、パワハラを告発され、企業による行動変容プログラムを受けても、なかなか“更生”できない人もいるという。

神奈川県立保健福祉大学大学院 津野香奈美 准教授
「『自分は運が悪かっただけ』『たまたま処分された』と問題意識がないままでは、基本的に予後が不良で、大抵もう一度パワハラを繰り返してしまいます。

部下側からしても、上司の期待水準を満たせばパワハラを受けずに済むことは間違いありません。しかし私は、そもそも『部下は期待水準を満たすのが当たり前だ』と苛立っている上司側を変えたほうが、どのようなレベルの人も活躍しやすい社会になると考えています。

自分のできることが、相手もできるとは思わないようにする──組織の役員や管理職向けに私が研修するときは、そこを強調していますね」

パワハラ行為者が考えや行動を改めるには、「本人の問題意識」と「感情のコントロール」が重要ということだ。

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